表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非日常  作者: 平 遥香
1/1

男子高校生の非日常 前編

毎日がつまらない。

飽き飽きする。

変わったことがしたい。

そんな風に言う人は少なからずいる。

でもその人たちは

勇気がないだけだと思う。

日常を非日常に変えようとする勇気が。

それでも、今日も明日も

退屈だって言うのだろう。

つまらないのは日常じゃなくて

その人たちじゃないだろうか。

だから──

だからいつもと違う道で

登校しようと思った。

日常をほんの少しだけ。

ほんの少しだけの勇気を滲ませて

非日常にしようと思った。

それが、いけなかった。



高校までの道のりはそう

遠くはない。

家から近くにある坂を下って

国道にでたら

南に進む。

そうしたら大きなショッピングモールが見えてくる。

そこから東の方へ進むと

緩やかで長い坂が姿を現す。

その坂を登りきったところで

学校が見えてくる。

この間、約4キロくらい。

坂を自転車を押さずに

漕いで登れば、

だいたい30分たらずで到着する。

と、まぁこれが普段の通学路であるわけだが

実はこの学校へと続く坂の中腹には

分岐点がある。

何も考えずに真っ直ぐ坂を登れば

難なく学校に辿り着けるわけだが、

この坂の中腹で、左側にもう一本道がある。

勿論、この道を使って学校に行くことはできるが、

正規のルートよりかは少し時間が

かかってしまう。

なので、多くの生徒はまず、この道を使うことはない。

一度、市街地に出て、大回りをして

また坂を登って、やっとこさ学校に辿り着けるのだ。



この日、僕はかなりの時間的余裕があった。

何故かいつもより30分も早く目が覚め、

二度寝しようかと思ったが

目が冴えたので起きることにした。

いつも通りに支度し、

いつもよりも30分早く家を出た。

このまま自転車を漕ぐと、遅くとも

8時前には学校に着く。

特にすることもないので

早く着いてしまっても、困る。

そこで僕はあるひとつの考えに至った。

そう。それが、

いつもと違う道で学校に行くこと。

坂までの道のりは変えずに、

坂の中腹で左折する。平坦な道のりが続き、

やがて。市街地へ出る。

初めて見るその景色にやはり新鮮味があった。

新しく土地開発された地で、

新居が続々と建設されおり、

近代的な家宅が軒を連ねる。

途中で散歩中の犬に吠えられながらも

市街地の中をゆったりと進む。

見たことない景色、見たことない人たち。

それら全てを楽しむと、初めて見る坂にさしかかった。

なるほどこれを登れば元の道に戻るのか。

時計を確認すると、7時50分だった。

まだまだ余裕があるので自転車を押して登ることにした。

六月下旬ということもあってか、

少し登ったところですでに汗ばんできた。

リュックサックからタオルを取りだし

額と首筋の汗を拭うと、自転車の籠に放り投げた。

歩みを再開させようと思ったところで、

坂の上から下ってくる女子高生らしき人が確認できた。

かなりスピードをだした下っており、

とても危険性を感じた。

───と、次の瞬間だった。

ガッシャァァァァンと、

普段聞きなれない、まるで何か積み上げたものが

崩れ落ちるような音がした。

瞬時にその音がした方を見ると、

案の定、先ほどの猪突猛進女子高生が

転倒してうずくまっていた。

周りに人はおらず、これは一大事だと

思った僕はすぐさま彼女に駆け寄り

声を掛けた。

「あの!だ、大丈夫ですか!?」

「…」

応答はなく、ピクリともしない。

ま、まさか死…。いや、そんな、転けただけで

死ぬものなのか?

ひとまず、道のど真ん中で転倒した彼女を

道端に移動させると、

再び意思の疎通をはかった。

しかし、応答はない。

ただ、脈はあるようで心臓は動いているようだ。

至るところから出血していて、

転倒時の衝撃を物語っていた。

とにかく救急車をよぼう。

そう思い、リュックサックの外ポケットに入れている

携帯電話を取り出そうとチャックをあける。

と、その時だった。

自分の手が真っ赤に染まっているのに気づいたのは。

一瞬訳がわからなかったが、

恐らく、彼女の血が付着したものだと思われる。

と、言うかそれ以外考えられないが。

初めてコールする、緊急通報に少し戸惑ったが、

何とかうまく対応できた。

救急車が到着する間に彼女の自転車や

鞄を道路脇に寄せて、彼女の様子を伺った。

よく見ると、とても整った顔立ちであることに気づく。

こんな時に申し訳ないが、

めっちゃくちゃ可愛い。他の学校にはこんな

美少女がいるものなのかと、何とも言えない気持ちになった。

ほどなくして、救急車が到着して、

彼女を救急車に乗せた。

その後、救急隊員に色々と状況を話し、

救急車は去っていった。

非日常すぎるだろう…

心の底で呟くと僕は坂を登り、

学校に向かった。



彼女から電話がかかってきたのは

あの日から三日後の事だった。

彼女は宇野 (かなえ)

と名乗った。

はじめは驚いたが、

あの日救急隊員に状況を話した時

自分のアドレスも教えていたので

救急隊員から教えてもらったのだろう。

何を言われるのかと思ったが、

感謝の礼なら別にいいのにと思った。

が、しかし、彼女から発せられた言葉に

僕は思考回路を停止せざるを得なかった。

『あのぅ…私の…財布…盗りましたか?』

は?

思わず口に出しそうなのを押さえた。

が、それは叶わなかった。

「は?」

『いや、あの…ですから。私の財布盗りましたか?』

意味が分からなかったので

もう一度は?と言おうと思ったが

きりがないのでやめにした。

まさか、あそこまでして

泥棒扱いされては、たまったもんじゃない。

「僕はそんなもの知りませんし、盗ってませんから。」

半ば苛立ちと、どことなく喪失感を漂わせながら

吐き捨てるように言った。

そう言うと彼女は事情を説明しだした。

どうやら、意識が戻り、事が落ち着いた後で

財布が無くなったことに気づいたらしい。

そこで、まず、救急車を呼んだ僕を

疑ってかかることにしたようだ。

だが、僕が見に覚えはなく、潔白だということを

主張しつづけたら、ようやう相手の方が折れた。

『えっと…あの…ほんとにありがとうございましたっ!!

…とそれからすいませんでした!!』

と彼女は力強く言っており、

電話越しでも頭を下げていることが窺える。

「まぁいいですけど。それより、財布どうするんですか?

明日、休みなんであの坂の辺り探しみましょうか?」

『あ!…え、でも、そんな…いやぁでもいいです

すいませんほんとに…ありがとうございます。自分で探して

みますので、はい、ほんとにありがとうございました。』

と一方的に断られて、一方的に電話を切られた。

しかし、断られてしまったものの

どうにも気になるので明日、あの辺りで探すことにした。

あの日変な気を起こしたせいだ…。

鼻から息を吐き出すと、そのまま横になった。



休みの日に出かけるなんて

幾日ぶりだろうか。

自転車を漕ぎ、いつもの通学路を進みながら

そんなことを考える。

これもまた非日常なのではないだろうかと。

非日常が非日常を呼ぶ…

非日常スパイラルが始まったのかと

少し楽しくなってきた。

例の場所に着くと、とりあえず

側溝などに落ちていないか探してみようと思った。

と、その時だった。

一瞬その場の状況が飲み込めずに

数秒間棒立ちの状態で静止していた。

何と、道端に

明らかに財布と思わしきものが

まるで何事もなかったかのようにあった。

いや、佇んでいた。と言っても過言ではない。

自分の目を疑ったが、近づいてみて

手に取ってみると間違いなく財布だった。

ベージュの長財布で、ところどころに

装飾が施してある。

あのときは確実にここにはなかったはず。

なのに、今どうしてここにあるのだろうか。

長財布だからポケットにはいるわけはなく、

鞄から落ちたのだろう。

しかし、それなら道端ではなく

道のど真ん中なのでは?

だからは僕は瞬時に落ちてあったではなく

佇んでいたと思った。

まるで、財布に意思があり、ここまで歩いてきた

かのようだ。

そんなわけはないため、他に理由はあるのだろう。

誰かが道のど真ん中で拾って

わざわざ道端に置いていったのだろうか。

まぁ、考えられるのはそれくらいしかない。

そうこうしていると、後ろから物音がした。

振り返ると例の彼女が息を切らして立っていた。

「あっ!!それ!私の財布!…っはぁ…はぁ…

やっぱり…はぁ…あなたが盗って…。」

「ない!!これはここに置いてあったんですよ!」

「置いてあった?」

「はい。多分誰かが拾ってここに…。」

「何でそんなこと…。」

僕はとりあえず先ほど考えていた持論を展開した。

「なる…ほど。確かにそうですよね…」

「はい。よくわかんないですけど。とりあえず

どうぞ。」

と言って彼女に財布を手渡した。

「あの…ほんとにありがとうございます!

何かほんとにすいません。ここまでしてもらったのに

疑ったりなんかして…。」

「別にいいですよ。まぁでも財布見つかって良かった

じゃないですか。これで解決ってことで。それじゃあ…

あ!後、坂下るときは気をつけてくださいよ。」

「はい!すいません。あの…でも、やっぱり

お礼とかしたいのですけど…。」

「いや、そういうのいいですから。はい。大丈夫です。」

一体何が大丈夫なのかわからなかったが、

とにかく、それは相手にも悪いので断ることにする。

「そう…ですか…。」と

彼女は何故か萎えた反応を示した。

しかし、特に気には留めず

自転車のサドルに跨がった。

自分の家の方がくを目指そうと足に力を

入れたときだった。

「えええっ!?!?」と

大きな声がして、ペダルから足を踏み外した。

ガクンと体が揺れたが、

何とか体勢を立て直し後ろを振り返った。

「どうかされました?」

「お…お金が…。」

と、財布を手にしたまま、わなわなと震えていた。

何か異常な雰囲気が醸し出されるなか

1つの推論を述べることにした。

「まさか…財布の中にお金が入ってないんですか!?」

彼女は顔をあげてこちらの顔を

見つめると、大きな目をぱちくりさせて

こう言った。

「いや、違うんです。」

「違う?じゃあどうしたっていうんです?」

「あの…逆!…なんですよ!」

「逆!?」

お金が入ってないの逆?

それなら答えは簡単だ。

お金が入っている。

何らおかしなことではないだろう。

財布にはお金が入ってる。

まさか、そんなこに驚いているのか?

それだとしたらどうかしてる…

「はい…えっと。お金が…増えてるんですけど…。」

僕と彼女はそのまま

見つめあったまま首を傾げてみせた。

意味がさっぱり分からない。

この街には大道芸人でもいるのか?

落とした財布の中のお金が増えた…?

「勘違いじゃ…?」

僕は自転車のサドルから降り、

スタンドを立て直した。

「違います!だって私、2000円しか入れて

なかったんですよ!?」

「それで?今、いくら増えているんですか?」

「50000円です…。」

「ご!?」

そのあとに続く言葉は出てこなかった。

明らかにおかしい。

1000円程度の誤差なら人間あると思うが

50000円となると話しは別だ。

50000円もの大金を勘違いするなどあり得ない。

しかし、一体なぜ…。

困惑している彼女を尻目に僕は

考えを巡らせた。

そして…。

「はっ!そうか!」

「えっ!?何か分かったんですか!?」

「さっきも言ったけど、その財布、誰かが拾って

道端に置いていったんだと思う。それで、その

拾った人がお金を入れたんじゃ…。」

「そうだとしたら一体何のために…?」

「それは分かりませんけど。

とりあえず、もらっといたらいいんじゃないですか?」

「え、そんなわけには…。」

「でも、その人を見つけ出すなんて

ほぼ、不可能だと思いますけど?」

「まぁ…そうですよねぇ。」

彼女は怪訝な表情を浮かべると、

携帯電話でどこかに電話をかけて

誰かと話している。

何を話しているかは分からなかったが、

大方、この増えるお金事件の話だろう。

電話を終えた彼女が戻ってくると

その表情は更に強張っていた。

「と、とにかく。今日のところは家路につくとしますか。

これ以上考えても、埒があきませんし。」

「そう…ですよねぇ…。」

僕はもう一度自転車に座り直すと

今度こそペダルを踏もうとした。

しかし、またしてもそれは阻まれた。

「あ!あのっ!」

「はい?今度はどうされました?」

「えっと…その。もし、迷惑じゃなければ、

このお金を入れてくれた方を突き止めるの

手伝ってくれませんか?」

「僕が…ですか?」

「あ、嫌なら全然…その…。」

「勿論!いいですよ!というか、このまま

ほっとくわけにも行きませんしね。

っと、じゃあ一応連絡先…交換しときます?」

「え!!ほんとですか!?あの、色々とすいません…。

でも、ありがとうございます!」


非日常が非日常を呼ぶ。

僕の非日常スパイラルはもう少し

続きそうだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ