第二話:旅の仲間とベルベル鳥のとろけるスープ その二
今日のメニューはカリストの手持ちのお米をベルベル鳥の骨と煮たお粥。そして、ベルベル鳥の肉と豆を煮たスープ。それに、旅の途中で見つけたキノコのソテーだ。
「キノコのソテーにはバターを塗っています」
「こっちは美味そうだナ」
キノコの方は見るだけで涎が出そうだ。だが、ベルベル鳥のスープはそうはいかない。
「本当に美味いんだろうな?」
アディオが言う。カリストは力強く頷いた。
「いただきます」
そう言ってまずルイが食べた。続いて他の三人も意を決して口に運ぶ。
「美味い!」
ズーが思わず声を上げた。
「あんなにマズイはずのベルベル鳥がどうして?」
「ベルベル鳥の肉は確かに臭くて硬いです。ですが臭みは酒を混ぜた水に漬け込むことで消えました。これは前に獣の肉を調理した時に使った方法です」
「だがあの硬い肉がどうしてこんな柔らかク」
「ベルベル鳥は全身必要最小限の筋肉で覆われています。空を飛びつつ地上の生き物を狩るのにほぼ最適化された身体なんです」
「確かに、俺たちなら問題ないが普通の冒険者だと遅れを取る場合があるほどだ」
「ですが、そんなベルベル鳥にもほとんど使われない筋肉があるんです。腰骨の辺り、周りを筋肉に覆われた部分ですね。地上の魔獣に見られる部位なんですけど、あれほど巨大な鳥ならもしかしてと思って調べてみたら、ちゃんとありました」
「知らなかったな。ベルベル鳥は食えないものかと思っていた」
「取れる量はほんの少しですので狙って狩るものでもありませんね。今回はたくさんベルベル鳥を倒すことになったので食べられたということです」
カリストは残った部位を見せた。ほんの一握り、馬ほどもある巨体からこれしか取れないとカリストは言う。
「ううむ」
ズーは唸った。
「なるほど大したものだ」
「おかわり」
ルイが差し出した皿をカリストは受け取った。
おいしい食事を終え、満足そうに食器を置いた三人だったが不意に顔を曇らせた。
「どうしました?」
「……なんでもねえよ」
アディオがイライラしたように言う。彼らが感じているのは嫉妬だ。自分たちはルイの役には立てていない。自分たちにできることはきっとルイにもできる。
だが新入りのこの少年は料理でルイを喜ばすことができた。こいつはルイにできないことをしたのだ。
そんな三人の様子を見ていたルイはぼそりと呟いた。
「……一人じゃ食べられなかった」
「へ?」
アディオはたてがみを揺らして首を傾げた。どういう意味か。
「多分ですね」
料理の片付けをしていたカリストが口を挟んだ。
「僕の使った肉はベルベル鳥一羽につき、ちょっとしか取れません。今日のスープを作るためにかなりの数のベルベル鳥が必要でした」
「それがなんだってんだ」
「さすがのルイさんでも、一人じゃあれだけのベルベル鳥は狩れませんでした。というよりルイさんが本気になったらベルベル鳥は戦わずに逃げちゃったでしょう。今日の料理は、みなさんがいなければ食べられなかった。そういうことが言いたいんじゃ無いかな」
ですよねとカリストがルイに尋ねると。ルイは小さく頷いた。
「……みんなには感謝している」
ルイは小さくそう言った。