第一話:鉄仮面のルイと肉じゃが side:ルイ
私はルイ。本当はルイズって名前にしたかったけど、使っている人が多かったからルイにした。
そう私はこの世界の住人じゃない。元々は日本で新人OLをやっていた一般人なの。ただゲームが趣味なのと、ちょっとだけ笑うのが苦手なだけでいたって普通の女性だった。
積極的に彼氏を作ろうとしてこなかったから彼氏がいないのも特におかしくないはず。
そんな私だけど、気がついたらプレイしていたオンラインゲームの世界にトリップしていた。どうしよう、知り合いだれもいないし心細い。
結構やりこんでいた私のキャラクターになったお陰で、私は結構強い。でもいくら強くたって、斬ったり斬られたりはごめんよ。私は平和に生きたいの。
さらに私はちょうどクエストのために南のムビンダ大陸の奥地まで来ていたせいで、ゲームのメイン舞台であった中央大陸から程遠い場所にいて、しかもゲームだと一瞬だった移動が、現実だとひたすら歩いて帰らなくてはいけないみたい。あたりまえだけど。
こんなジャングルや砂漠の広がる秘境オブ秘境で、かよわい女の子になにができるというの。私は一人でえんえん泣いていた。
だけどそんな私を不憫に思ってくれたのか、一緒に旅をしてくれる心強い仲間ができた。
竜に襲われていたところを助けた、ちょっとおっかないライオンの獣人アディオ。でも肉球はぷにぷに。
手枷足枷を着けられて可哀想だったから引きちぎってあげた大分おっかない黒人のズーさん。見かけによらず歌うのが大好きでよく歌っている。
誰かと間違ったのか、私を暗殺にきた小さな女の子のアルタイラ。無口だけど頭をなでてあげると嬉しそうに赤面する可愛い子なの。
みんな私みたいなサバイバル能力皆無でお荷物なのを、ちゃんとフォローしてくれる。ありがたやありがたや。
そんなこんなで、みんないろいろ私のために尽くしてくれて、まるでお姫様気分を楽しんでいる。うぷぷ。
だけどまだ私には不満がある。それは食事。
現代日本の食生活に慣れていた私に、このムビンダ大陸のエキゾチックな料理はどうしても合わない。一食や二食ならともかく毎日なんて本当に無理。
だけど私は料理全然できない。結婚したらメシマズ嫁になること間違いなし。いいもん、インスタントラーメンくらいは作れるもん。
そんなこんなで旅を続けていた私に、運命の出会いが訪れた。
場所は大陸の北部沿岸。中央大陸との玄関口。ここでじゃがいもを見つけた私は、無性に肉じゃがを食べたくなってしまった。
諦めるべき。だよね。でも言ってみるくらいはしてもいいと思わない?
だから私は、できるかぎり迷惑にならないよう、さりげなく肉じゃがが欲しいとアピールしてみた。
「ひぃぃ」
ああもう、アディオとズーさんが脅かすからコックさん怖がってるじゃないの。もう仕方ないんだから。ここは私がフォローしてあげないと。二人は自分の見かけがちょっとだけおっかないってことを分かってないんだもの。ここはお姉さんに任せなさい。
「もういい」
私は優しくそう言った。コックさんは恐怖から解放されたためか、目尻に涙を浮かべ、歯をガチガチ鳴らして安堵している。
私は優しい顔をして料金を払い、でも肉じゃがが食べられなかったことに落胆を隠せず、とぼとぼと店を後にしたのだった。
うー、だめだ、どうしても肉じゃがが食べたい。
その後も何軒かお店を回ってみたけど、どこも肉じゃがは作ってくれなかった。
どうも煮込むという調理法を知らないらしい。出てきたのは牛肉とじゃがいものスープばかり。私がため息をつくと、コックさんが悲しそうな顔をした。胸の前で両手を組んで、天井を見ながらぶつぶつとなにか呟いている。
「ああ娘よ、父さんを許しておくれ」
なんて責任感の強い人だろう。自分の料理が満足してもらえないとわかると、あそこまで苦悩するとは。軽い気持ちで肉じゃがを頼んだ私に対して、これほど真剣に対応してくれるとは。
感動してしまった私は目尻に浮かんだ涙を拭うべく手を上げた。
「ひっ!?」
なぜかコックさんは倒れて気絶してしまった。そんなに責任を感じなくてもいいのにね。
それから数日後。
今日は私一人で肉じゃが探し。仲間はいい人たちばかりで本当は心優しいということを、私はよく分かっているのだけど、どうしても見かけで誤解されてしまうことがある。
多分、街の人がどことなく余所余所しいのは仲間のことを誤解しているからだと、私は気がついたのだ。ふふん。
そーいうことなら仕方がない。今日は自由行動ということで私は一人になりたいと仲間に言ってきたのだ。
そして、良さそうなお店発見。店先でくあーっとあくびをしていたネコが決め手になった。ネコのいるお店に悪いお店はない。ネコカワイイよネコ。
そして私は運命の出会いをした。
その子は大きなリュックサックを背負い、ちょっと顔の怖い私に対してもニコニコと笑顔を見せてくれた。やべえ超かわいい。ねえお菓子上げるよ、お姉さんの隣に座らない?
でもどうやらその子は料理人らしい、なんと私のために肉じゃがを作ってくれるらしい。うっひょー、まじで。ちょっとマズイくらい大目に見よう。こんな可愛い子が料理作ってくれるだけでお姉さんは十分お腹いっぱいだよ。うひひ。
「お待たせしました」
ううん、全然待ってないよ。そんなに気を使わないで。でも肉じゃがってこんな早くできるんだっけ。お母さんはもう少し時間をかけていたような。
もしかして私を待たせちゃ悪いと思って早く出しちゃったのかな? カワイイなぁ、でも料理はちゃんとレシピ通りに作らないと。私はそれでいつも失敗するんだ。
「待ってない」
私はできるだけ優しくそう言った。もちろん笑顔。大丈夫、次からちゃんと時間を守ればいいから。
「まぁまぁ、そう言わずに食べてくださいよ」
むむ? なにやら自信満々。だよね、私みたいな料理の素人が口を出すことじゃないよね。反省反省。
では、いただきます。私はスプーンでじゃがいもを二つに分けようとした。
すごいほっかほか。美味しそうな匂いが私の鼻孔をくすぐる。ええどうして? そして食べてみてびっくり。醤油はないけど、塩とお酒の旨味でしっかりと味がついていて、すごく美味しいの。これ肉じゃがだよ。うっひょー。
私はあまりの美味しさに、スプーンを置いて箸で食べることにした。やっぱ日本人なら箸だよね。とくに肉じゃがみたいな日本食を食べるときは。どうしよう、口元がにやけっぱなしだ。この子から食い意地のはった女だと見られてないかな?
私があまりに美味しそうに食べるからか、他の人も肉じゃがを注文しだしたようだ。もしかして私ってばグルメタレントの素質あり?
でも料理をつくるため、あの子……カリスト君は厨房に引っ込んでしまった。
どうしよう、お礼も言っていないのに。でも忙しそうだから呼び止めるのも悪いよね。あとで改めてお礼を言いに来よう。
私はそっと、お店を後にした。
そして外で待つこと数時間。待ちすぎだろって思うかもしれないけど、カリスト君頑張って働いているし、邪魔しちゃ悪いよね。私はガマンのできるお姉さんだもの。
ようやく現れたカリスト君。なんてお礼を言おうかな。あんなに美味しい肉じゃが作れるだなんて、いいお嫁さんになれるよ。違うな。どうしよう、カリスト君が近づいてくる。ああもう仲間になればもっとちゃんとお礼を考えられるのに。それにあの美味しい料理を毎日食べられるのは魅力的だよね。
「ルイさん?」
ええと、ええっと、なんて言おう。そうだ、まずはお礼だ。その後でダメ元でどこに行くのか聞いて、同行していいか尋ねよう。ダメなら断ってくれればいいし。よし。
「仲間になれ」
そんなことを考えていたからか、私はちょっとだけ言葉の順番を間違えてしまった。