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再編

暗いのはこれで打ち止めです。

 七機に減ったB-12が滑走路から飛び立っていく。戦略的な戦力である爆撃機は一つの場所に縛らない運用をされるそうだ。 一方の俺たちはここに残る。一個小隊四機しかない飛行隊には護衛任務などできないと判断されたのだ。後任は試作の外付け燃料タンクを使うことのできる12戦のP-19FDがやるらしい。では、俺たちの任務はといえば、インディアス空域の制空・近接航空支援だ。大きな犠牲を払いながら、やっと望んだ形になったのだ。しかし、言い換えれば、これだけの犠牲を出しておきながら撤退命令が出ていないのは、上層部(うえ)は俺たちを使い潰すつもりだということだ。


 墜落した隊員たちの遺体は回収できていない。墜ちたのは敵地のど真ん中だったことを考えれば、仕方がない。遺族には行方不明とでも連絡がいくだろう。政府の都合が良いときに。そんなことを考える暇が今はあった。アイケルバーガー大尉が落ち込んでしまい、訓練が隔日な上に前より格段に楽になっているのだ。緊急発進に備えたローテーションもあるので、やむを得ないという一面もあるのだが。



「出動!」


 通信室から鐘が鳴る。叩き方によって状況が分かる。この三拍叩いて休みを繰り返すのが緊急発進だ。待機室からドアを蹴るようにして、飛び出す。駐機場の機体には、常に梯子をかけてある。急いで乗り込み、ベルトを締める。パラシュートの事故のせいで、結果的に安全意識が高まった。エンジンは全力で回す。離陸から高度を稼ぐまでの高い負荷は、中隊長にとってかなり辛いらしい。俺はまだ若いので大丈夫だ。ある程度の高度に来れば、無線で詳細な連絡も入ってくる。今回は、対空砲にビビって逃げたらしい。増援のウェールランド連隊は中々優秀と評判だ。帰投する。今日は午後から爆撃任務が入っていたので、正直不幸だ。まあ、相手がこちらの予定に合わせてくれることなどないのだが。


 あの爆撃任務から一週間で支援攻撃三回、緊急発進がニチーム合わせて四回。戦果はハイエク大尉と俺が一機ずつだ。そのため、中隊長は計一機、ハイエク大尉大尉が計一機、アイケルバーガー大尉が計二機(内一機が共同撃墜)、俺が計二機となった。だから、俺の機体の尾翼には短く黄色い二本線が入っている。



 さて、また爆撃だ。P-10は翼の下に100キロ爆弾を四つ抱いている。更に機首の20ミリ機関砲から発射される榴弾は対地攻撃でも十分な威力がある。今回の目標は反撃に出ている自治連邦軍インディアス第2連隊が足止めされている村だ。迫撃砲や機関銃、鉄条網が計画的に設置されていて、このまま攻めるには被害が大きいらしい。空から見れば、集落の回りに輪のようなものが見える。方針では、建物を爆撃して破壊した後に機銃掃射である程度の被害を与える予定だ。水平爆撃では精度が期待できないので、緩降下爆撃を行う。ちなみに、ハイエク大尉は爆装不可のため、上空で対空警戒をしている。空戦の急降下・急上昇戦術より大分緩い角度で目標へ向かう。楽なもんだ。照準機に合わせて投下のスイッチを押す。どうせ、照準なんて当てずっぽうだ。当たらなければ20ミリで撃ちまくればいい。


<ポロ、投下。爆装無し。>


 爆発音が四回背後から聞こえる。上手く当たってほしい。


<ガズからポロ。目標破壊。隣の家まで破壊だ。私の仕事がなくなった。>

<よっしゃ!>


 ラッキーだった。まさにミラクルショットだ。上昇した後に、対地射撃に移る。俺は一端上空へ上がり、旋回して再び攻撃位置につく。その間にテセウス1、ケイローン1、ナイト6と次に射撃をしていく。敵の被害は確実に大きいはずだ。


<ポップからガズ。北に車両発見。こっちへ向かって来ます。>

<クール、了解。対応する。>


 丁度、攻撃が終わったばかりのアイケルバーガー大尉が連絡のあった方向へ飛んで行く。


<クール、発砲。命中。>


 発砲音に遅れることしばし、地上から黒煙が上がった。


<ガズからポロ。西に機影。>

<了解。>


 西を見ると、飛行機がポツンと一機飛んでいる。幸いなことに、こちらの方が高度が高い。俺は機体の高度を更に上げることにした。敵との高度差が大体1000メートル位ついたところで降下に移る。例え、相手が戦闘機のように見えなくても油断はしない。この空域は自治連邦政府によって戦闘空域に定められており、政府から許可を受けた機体以外は飛行禁止のはずなのだ。勿論、今日許可を受けているのは俺たちだけだ。


 敵機は俺を発見すると逃げ出した。茶色い機体に白帯が巻いてある。標準的な敵機の塗装だ。20ミリの射程は長いので、既に敵機は射程内だがまだ撃たない。そろそろ7ミリの射程内だが我慢だ。アイケルバーガー大尉から教えてもらった、弾を当てるコツは『絶対に当たる距離まで近づくこと』だ。敵機の白帯の中にある国籍マークまで見えてきた。青いダイヤモンド、敵軍だ。


<ポロ、発砲。>


 五つの銃口が火を噴く。あっという間に敵機は爆発した。


<こちらガズ。ポロの戦果を確認。>

<クールからポロ。これで三機目だ。おめでとう。うちのトップはお前だぞ。>

<ポロから各機。ありがとうございます。>

<VAHQ(義勇空軍司令部)からインディアスを中継してテセウス1。>

<テセウス1、感度良好。>

<攻撃止め。地上部隊が前進する。>

<了解。テセウス1からMVHQへ打電。まだ燃料、弾薬共に余裕があるが、継続しての支援は可能か。>

<インディアスからテセウス1。打電了解。しばらく待て。>


 中隊長はまだやる気のようだ。


<ポロからポップ。>

<何だ?>

<P-19の燃料はまだ大丈夫ですか?>

<まだ行けますが、先に帰ることになると思います。>

<ポロ了解。>

<VAHQからインディアスを中継してテセウス1。>

<テセウス1、どうぞ。>

<可能な限り許可するとのことです。>

<テセウス1、了解。>


 こう言うときに地上と直接交信できないのは不便だ。地上の部隊が進んでいるのは分かるが、事細かに敵の火点が分からないと、支援の効果が薄いのだ。今度、整備班に無線機の乗るデットスペースが無いか聞いておこう。あ、地上で手を振ってる人がいる。翼を振っておこう。多分喜んでくれるだろう。


<ポロからクール。>

<何だ?>

<風車の下に機関銃座を発見。>

<やれ。>

<了解。>


 機体の向きを微調整する。あんまり高度を下げすぎると、対空砲火が怖い。


<ポロ発砲。>

<ポロ、銃座の破壊確認。>


 素早く片づく。やはり、こういうときにこの機体の本来の使い方が攻撃機で有るということを改めて実感する。そうやってしばらく援護していると、目的の村に自治政府の旗が揚がった。上手いこと占領できたようだ。しかし、部隊はまだ前進するらしい。援護を続けよう。


<ポップからガズ>

<ガズだ。どうした?>

<そろそろ燃料が気になる。帰還する。>

<了解。クールとポロはそのまま支援を続けろ。>

<クール、了解。>

<ポロ、了解しました。>


 中隊長とハイエク大尉が基地の方へと飛び去る。異なる機種同士の共同運用はこういうときに不便だ。


<ポロからクール。>

<どうした?>

<北に何か動くものがあります。>

<空か?>

<いえ、地上です。>

<了解。気をつけろ。>


 しばらく飛んでいると、風景の中に違和感を感じて、上空へ移動する。何かと思ったら、人が一列になって南へ歩いていく。こちらに気付いたらしく、道端の植え込みに一斉に逃げ込んだ。


<ポロです。敵歩兵発見。発砲。>


 道ではなく、あえて植え込みを機銃掃射する。これを両脇の植え込みにくわえておく。


<インディアスからケイローン1。>

<ケイローン1だ。>

<直ちに帰投せよ。>

<ケイローン1、了解。>

<何があったんだ?>

<何でしょうか。>

<インディアスからケイローン1。>

<何があった?>

<現在、インディアス基地の滑走路は封鎖されている。予備のインディアス空港へ降りろ。>

<了解した。それより何があった?>

<テセウス1が着陸に失敗して炎上中。消火不能。>

<ガズはどうした?>

<脱出は確認されていない。>

<おい!>


 アイケルバーガー大尉は機体の速度を一気に上げる。


<クール!そっちは基地です。滑走路が閉鎖されてて降りられません。>

<分かってる。どうなってるか確認するだけだ!>


 自然と二機で編隊を組む形になりながら、巡航速度より遥かに速い速度で基地に向かう。この機体にしてはかなり低空を飛んでいるが、追いつける機体はいないだろう。


 基地の上空に着くと、速度をできるだけ落として上空を旋回する。駐機場にはP-19が一機停まっている。ハイエク大尉の機体に違いない。そして、滑走路中程の脇で、翼が一枚ちぎれた状態で裏返しになっているのが中隊長のP-10Cだ。火災が発生しているが、近くには誰もいない。


<どうして誰も助けに行かないんだ、くそっ!>

<クール、とりあえずインディアス空港に行きましょう。見ててもどうしようもありません。>


 俺たちは再び速度を上げると、部隊の予備飛行場に指定されているインディアス空港に向かった。


 インディアス空港で迎えの車に乗り、基地へ急ぐ。少し穏やかになってはいたが、依然として黒煙は街の上空へ立ち上ぼり続けていた。その煙をじっと見続けていると、基地へ到着する。


 車は基地内に入って滑走路を目指す。ここで、運転手から機体の近くへ行かないように注意された。クラッシュと同時に機体に機体に着火したせいで、7ミリ弾の暴発や20ミリ弾頭の爆発が発生しているそうだ。初期消火を行おうとした隊員にはけが人も出たらしい。アイケルバーガー大尉は悔しそうに唇を噛んだ。



 結局、中隊長を助け出すことは叶わなかった。着陸失敗の原因は、操縦ミスだったらしい。これによって、第70攻撃大隊 第3中隊はパイロットは三人しかいなくなってしまった。その上、ハイエク大尉に対して原隊復帰の命令が下った。彼はインディアスを去って行った。


 少佐の遺体は国旗の掛けられた柩に納められ、B-12によってピラーニャ基地、更にそこから空路で本国へ戻るらしい。柩が機体に乗せられる場にはウェールランド連隊やインディアス連隊からも幹部や儀仗兵がやって来た。中隊長の行った航空支援は確かに多くの兵士の命を救ったのだ。


 ハイエク大尉までいなくなってしまった為、中隊のパイロットは俺と大尉の二人だけとなった。最先任は大尉となって、中隊長代理として正式に認められた。新しい中隊長がいつ着任するのかは誰も知らないし、本国はこの隊に新しく人を送ることなど考えていないだろうということは容易に想像できた。


 そして、俺は機体の塗装を変えた。これまでは攻撃機の基本色である濃緑色に黄帯を巻いたものだったが、戦闘機の基本色であるライトグレーに赤帯を巻き、二枚ある尾翼は赤地に大きな鏃を黄色で書いた。どうせ二機しかいないのだが識別記号は変わらず『VA031』だ。大尉も俺の機体を見て、塗装を同じライトグレーに変えた。尾翼は青一色で、胴体には黄帯を巻き、更に側面には後ろから前にかけて稲妻が走っている。二人とも機首に魔除けの願いを込めてシャークヘッドを描き、キルマークはシャークの顎の下。コックビットの下には二人のイニシャルである『E.E.』と書いた。

ありがとうございます。

次回は3/4です。ちなみに、短編となります。

主人公は第3中隊付きの整備兵です。

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