故障
いつの間にか長くなってた。
P.S. モブはすぐ落ちる。
オメガ11ヽ(0w0)ノイジェークト
清々しい朝だ。未だ空には日が昇らず、風は強く、空気は重い。そして、格納庫の真ん中で、整備員の迷惑そうな目も無視して二人の男が向かい合っている。言わずもがな、うちの大尉と、演習相手の中佐だ。今朝、ブリーフィングのために移動していて、鉢合わせた瞬間にこの様だ。その内誰かが仲介するだろうと、スルーすることにした。
案の定、暫くすると、知らない高級士官がやって来て、二人をズルズルと連れていった。回りにいた関係者も、後を追ってブリーフィングルームへ行く。そこには基地司令が待っていた。
「朝早くからまたバカが仕事を増やしてくれて、ありがとう。決着は空で着けてくれ。さて、今日の演習は至って簡単。11戦と70攻が四機ずつの小隊戦だ。初めは水平対向。すれ違ったら、演習開始。ペイント弾による当たり判定は練習機からやる。11戦は赤、70攻の20ミリ弾は緑、7ミリ弾は黄色だ。何か質問は?」
「その他の制限はありますか?」
第11戦闘大隊の方から声があがる。
「特になし!パイロットは新米への技術披露っつう目的をわすれるなよ、特にバカ二人。後、熱くなりすぎて墜ちるなよ。以上!」
あっさりとブリーフィングは終わった。
◆
犬猿の二人はコックピットまで隔離されて移動した。まあ、妥当な措置だろう。中隊長も苦笑いだったし。
<ガズから各機、準備は良いか?弾薬、燃料も持ったな?>
<ノームからガズ。バナナはおやつに入りますか。>
<クールからノーム。大事な演習の前だ。少し黙ってろ。>
<ノームりょーかい。>
<ガズからポロ。>
<ポロです。>
<さっき右エンジンの回転が安定してなかったが、大丈夫か?>
<あの後に、整備に少しいじって貰って、安定してます。>
<ガズ了解。それならいい。全員、いいな。無茶はするなよ。>
<ノームりょーかい。>
<クール了解。>
<ポロ了解しました。>
<ガズから全員。一応確認するが、離陸はこちらが先だ。今回は管制が周波数を合わせてくれてる。楽でいいな。審判のコールサインはマーリン1だ。聞こえたら耳だけ傾けとけよ。それじゃあ行こう。>
中隊長の指示の元、俺たちの隊は相手より先に滑走路から飛び立つ。飛び立った後に基地の周囲を旋回する動きを始めたところで基地の方を振り返れば、正に今離陸した相手の編隊が見えた。
互いに準備ができたら、所定のコースに入る。互いの編隊がすれ違った瞬間、審判のスタートコールが聞こえた。
俺たちはまず、旋回して相手との正面での撃ち合いを狙う。相手の武装は7ミリ機関銃が一機につき二丁の計八丁。それに対して俺たちは一機につき20ミリ機関砲が一門に7ミリ機関銃が四丁の計十六丁と四門という重火力だ。正面から撃ち合えば決して負けない。
編隊が旋回を終えると、定石として相手の編隊もこちらへ向かってくるのが見えた。恐らく相手は撃ち合いを避けるだろう。その予想もついている。案の定、相手の編隊は機関銃の射程より少し遠いあたりで二手に別れた。このまま回り込んで、尻を取るつもりなのだろう。ここで焦って、機首を敵に向けてはいけない。こちらは旋回性能に劣るので、互いに回り始めれば、確実に負けてしまう。そこで、こちらは相手がこちらの腹を撃てない位置に来たところで、編隊で固まったまま上昇を始める。相手は旋回を行って、速度が落ちている。しかも迂回をしたせいで遠い。その隙に、こちらは高度を稼ぐのだ。
<ガズからクール。この後は二手に別れるぞ。敵の動きに釣られるなよ。>
<ポロです。敵は予想以上に建て直しが速いです。>
<クールは左の雲に入れ。そこで高さを稼げ。>
<了解。>
大尉が左の雲へ向かうのに追随する。さて、雲の中を通るのは吉と出るか、凶と出るか。雲の中は視界が悪いので、翼端灯と衝突防止灯をつける。実戦形式なので、消していたのだ。
雲の中はやはり視界が一気に悪くなる。大尉の機体を衝突防止灯を目安に追随するのがよさそうだ。
<クールからポロ、見えてるか?>
<見えてますが、これでは敵もわかりませんね。>
<僚機以外は見えたら敵だ。躊躇なく落とせ。>
<良好です。>
<マーリン1からテセウス2、撃墜。それから、雲に隠れてる奴は全員出てこい!>
<ポロ、行くぞ>
そう言うと、大尉は機首を基地の方向へ向ける。雲の中で相当高度を稼いだはずだ。
雲を抜けると、どっと視界が広がる。敵を探せば、遥か下方に動くものが見えた。
<ポロの下方2時から11時方向へ移動中の敵編隊二機。こっちに気づいていません。>
<クール了解した。俺が行くから、ポロは上空待機。俺のケツを狙う奴を狙え。>
大尉は無線と共に下降を始める。グングンと速度を増し、姿が小さくなっていく。太陽を背にして、敵の斜め上から襲いかかる。
<クール、発砲。>
<クール、20ミリ命中確認>
<マーリン1からスケアクロウ3、撃墜>
<ポロです。クールが一機撃墜を確認。>
大尉の機体から発砲炎が光る。審判である司令から、撃墜判定が出ると、鮮やかな緑と黄色に塗装された敵機が翼を左右に振って、速度を落として離脱していった。対照的に、その僚機は素早く旋回して、上からの追撃を避けようとする。大尉は残りの敵機を無視して、上空へ離脱した。
<ポロ!奴が俺の尻を狙うなら、上からやれ。>
<恐らく、あいつは俺のことを見つけてます。隙は見せないでしょう。それより、これで三対三です。>
<ガズだ。こっちの近くに敵がいない。もう二機はどこだ?>
<ポロ!後ろ!>
後ろを振り返ると、敵がいた。幸いなことに、まだ射程圏外だ。
操縦悍を前に倒す。機体が重力に引かれて速度をあげる。ここは一旦距離をとって、旋回して撃ち合いに持ち込むか、大尉の援護を待つべきだろう。
<クールは援護が可能ですか?>
<無理だ。奴が追って来やがった。>
<ガスも無理だ。高度が低くて、動きが制限される。>
右からバスンという間抜けな音がしたのは、そんな時だった。
音のした方向を見る。プロペラの回転がおかしい。機体が自然に右へ旋回を始める。訓練ではこんなことが有れば、パニックに陥ると思っていた。しかし、実際には手が自然に動く。右エンジンへの燃料を一旦切って、また入れる。スターターのスイッチを押す。動かない。もう一度試すが動かない。ミラーを見れば、敵機との距離はまだある。
<ケイローン2、右エンジン故障。>
<ガスは支援不能。>
<クールも無理だ。>
<マーリン1からケイローン2、リタイアするか?>
<ケイローン2、必要ない。>
まだ左エンジンは生きている。このまま負ける訳にはいかない。
操縦悍を握り直す。機体の直進を維持することを諦める。機体を右に倒して、一気に旋回する。いつもよりとても良く回る。敵機の姿はすぐに正面に捉えられた。
敵機は数が多いからか、俺の機体と向き合っても離脱する気配がない。だか、二対一でもまだこちらの火力の方が上だ。
そろそろ20ミリ機関砲の射程内に敵機が入る。多分、相手もこちらのエンジンの不調を見つけているだろう。まだだ。まだ撃たない。射程内と当たる距離は同義ではない。
敵機の片割れが発砲した。まだ7ミリ機銃の射程には遠い。早晩弾詰まりを起こすか、弾切れになるだろう。無視して更に接近する。
もう一方の敵機の発砲炎が見えた瞬間、20ミリと7ミリのトリガーを押す。重々しい発砲音と軽い発砲音がコンチェルトを奏でる。20ミリの独奏を7ミリ達が彩っていく。目の前には三つの炎の花が咲き、翼にも二つの花が見える。
<ポロ、発砲。>
機体の近くをすれ違う弾の音が聞こえる。時々、弾の当たる軽い音が聞こえる。その時、無線が入った。
<マーリン1からケイローン2、スケアクロウ1、2。撃墜。発砲止め!>
<ケイローン2了解した。右エンジン故障。着陸許可を求む。>
俺は自然に右に寄っていく機体をまっすぐ飛ぶように調整しながら交信を続ける。
<マーリンコントロールからケイローン2。緊急事態を宣言しますか?>
<こちらケイローン2。必要ありませんが、優先的な着陸を求めます。>
<マーリンコントロール了解。滞空中の各機はケイローン2を優先してください。>
<ケイローン2、滑走路|西向き(26)に着陸します。>
車輪を下ろす。足は水平旋回用のラダーペダルを踏み続けたままだ。速度と共に、高度も下がる。どんどん地面が近づいてくる。ドスンと着陸音がすれば、車輪から地鳴りのような音がする。空では聞くことの無い音だ。
ある程度まで速度が下がったところで誘導路へ入る。ここで無線を小隊系に切り替えた。
<クールからガス。敵機発見。基地の東(088)。北(000)方向へ逃げてる。ガズの位置は?>
<現在、基地の北(012)。挟み撃ちか?>
<こちらは離れて監視する。ガズが上からやってくれ。>
<ガズ了解。>
丁度、追い込みが始まったようだ。俺の機体は既に駐機場に入っている。後は誘導員の指示する場所まで移動するだけだ。もちろん、地上でも少しずつ右へずれるので、常に修正が欠かせない。ちなみに、俺の落とした二機ももう着陸して、こちらへ向かって来ている。
俺は誘導員の指示でブレーキをかけ、エンジンを止める。格納庫の脇に消防車が来ていた。心配させてしまい、心苦しい。
エンジンが完全に止まった。回りが静かになるだろう。梯子を持ってきた整備員のために、キャノピーを開ける。風が顔を柔らかく撫でる。ため息が出た。梯子が立て掛けられたが、立つ力が湧かない。暫くすると、誰かが上がってくる音がした。
見えた顔はノームだった。
「よお、ポロ。お疲れさん。」
「ありがとうございます。」
「大金星だったな。」
「隊長機だったんですか?」
「そうそう。かっこよかったぜ。後、敵さんは副大隊長がやられて、相当落ち込んでるみたいだぜ。何せ、故障したポンコツにエリート様がやられたんだからなぁ。」
「すみません、実は余り覚えてなくて。」
「しょうがねえよ。こんなに緊張するのは初めてだろ。まあ、俺は何もしてないがな。」
ノームはそう言って、朗らかに笑いながら、下に降りていった。
<ガズ発砲。>
<ガズ20ミリ命中確認。>
<クール確認。>
<マーリン1からスケアクロウ4。撃墜。演習終了。全機帰投せよ。後はマーリンコントロールに従え。>
<ガッチャ!やったぞ!>
<おめでとうございます、ガズ>
どうやら二人が残りの一人を片付けたらしい。
俺はコックピットから顔を出して、エンジンを整備する整備員と話していたノームに声をかけた。
「ノーム!中隊長がラストを落としました!」
「おっしゃ!これでクールに怒られなくて済む。」
「そこが喜ぶポイントですか。」
「当たりめえよ!」
的外れなところに喜ぶノームは放っておいて、無線をいれる。
<ポロです。おめでとうございます。>
<ありがとう。これであいつに去年の仕返しができた。>
<もう喧嘩はするなよ、クール。>
<売りはしません。>
<はあ。まあいい。俺に迷惑をかけるなよ。>
<努力します。>
件の中佐が絡むと性格の変わる大尉に和む。
<では、そろそろ立ち上がれそうなので、無線を切ります。>
<何だ、ポロは腰が抜けてたのか。>
<クール、鍛えておいてやれ。>
<了解です、ガズ。>
俺はベルトを外して立ち上がる。よし、帰ろう。
◆
その後も大尉と中佐の仲は変わることなく険悪だった。むしろ、より公平な対決で勝った分、大尉に余裕が出て、中佐が駄々をこねる子供のように見えたのは俺だけではなかったはずだ。中隊長曰く、伊達にクールのTACを持っている訳ではないらしい。ちなみに、そんなにずっと喧嘩ができるなんて、以外と仲が良いのではないかとつい、呟いてしまった時には、腕立て300回に滑走路4往復を命じられた。理不尽な。
ありがとうございました
次回は2/27投稿予定です