帰還
超難産でした。疲れました。
結局、あの後の作戦の進行についての情報は一切流れてこなかった。参謀本部もいい仕事をするときはするようだ。恐らく、成功しただろうというのが俺の見立てだ。この件に関してはクールとも話してないから、どうなのだろう?第一段階を成功させた身としては、ぜひとも成功していて欲しいというのが率直な思いだ。
さて、インディアスからの撤退だが、案外早く連絡が来た。近々、インパクトの強い爆撃機を中心とした凱旋飛行を行う計画があり、その随伴の護衛としてついでに帰ってこいということだ。爆撃機は足が長いので、ボング海軍基地からマクガイア基地によらずにメンフィスベル基地まで行き、そこでの燃料補給の後に首都の上を飛ぶのだ。万年日陰者のP-10には勿体ない程の名誉ある役回りだ。そうと決まれば準備は手早い。整備斑は機体塗装の塗り直しやエンジン部分の磨き上げなどで忙しくなる。P-10の精一杯のおめかしだ。俺のP-10の機首のキルマークも綺麗に描き直された。クールの機体の稲妻もよりシャープな感じがする。どちらのシャークヘッドも迫力満点になっている。
◆
ボング海軍基地に到着した。前線ではまず見られない人数の記者がやって来た。俺たちのマーキングは目立つから仕方ない。加えて、トップエースとして有名になっている。何でも、子どものオモチャや塗り絵などにも使われているらしい。クールの稲妻なんかは特に人気が出そうだ。あの派手さ加減は俺が子供だったら買うこと間違いなしだ。その他、絵はがきとしても売り上げが好調だとか。まあ、俺たちにはビタ一文も入っては来ないのだが。
「戦いが終わって、どんな思いですか?」
「上層部からの冷遇についてどうお考えですか?」
「こちらではとても人気ですが、ファンに一言!」
機体の側を離れれば、あっという間に囲まれて質問攻め。広報担当者は押し出されて記者の輪の外だ。クールも俺も苦笑いするしか無い。かといって、迂闊に何か発言すれば大問題間違いなしだからどうしようもない。本当ならとっとと報道担当者に代わって欲しいところだ。おっと、頑張って割り込んできた。
「アイケルバーガー中佐もエヴァンス少尉もこれからの移動のために準備が必要だから下がって!」
「中佐!一言!」
「少尉!」
いきなりできた人山に憲兵隊も出動したらしい。『MP』と書いた腕章を付けた白いヘルメットの一団が俺たちと記者とを分断してくれた。ちょうどいい、このまま迎えの車に乗ってしまおう。実は、この迎えの車というのはクールが中佐に昇進したから来たらしい。俺にとっては役得と言っても過言ではないはずだ。決してクールがいない状況でも、トップエースである以上迎えが来ることになったとか考えてはいないのだ。
そうして連れて行かれたのは基地で一番立派な建物である総合事務棟。そこの会議室に案内された。そこにいたのはいつぞやのマーリン基地司令。
「やあ、ポット。ずいぶん派手にやったらしいな。それに、ポロ、君もだ。トップエースおめでとう。」
「ああ、ありがとうございます。」
「はっ!ありがとうございます。」
「ところで、駐機場で絡まれて分かったと思うが、メディアの今一番の関心は義勇軍、特に君たちだ。これからは外出のときにも誰かに追いかけられるかもしれない。注意してくれ。それから、不用意な発言もな。」
「了解。」
「了解です」
「よし、なら良い。では、つぎのことだが、」
そうして司令は凱旋飛行の件に入っていった。どうやらこの話は長くなりそうだ。
結局、解放されたのは二時間後だった。飛ぶのは俺たちの他に、一緒に帰ってきた第51爆撃大隊の12機と先に帰っていた第12戦闘大隊から派遣された24機だ。ちなみに、俺たちが大取らしい。計画では首都の大通りの上を沿うように飛ぶ。その後、飛行場で大臣や大統領の演説を聞いた後に表彰を受けて終わるようだ。堅苦しい行事は嫌いだが、これさえ終われば長期休暇が貰えるとクールから言質を取ってあるので我慢だ。
その後も、基地の外周を走るトレーニング中に盗撮されるなどの出来事を経て、翌日がやって来た。ちなみに、盗撮した新聞記者は拘束されたらしい。凱旋飛行に参加する38機の内、ボング海軍基地に現在いるのは第51爆撃大隊 第3中隊の12機と俺たちの計14機だけだ。第12戦闘大隊は後々、メンフィスベル基地で合流することになっている。駐機場は大きな翼のB-12で埋まっている。この基地には俺たちが同行する第51爆撃大隊のみならず、B-12の哨戒機バージョンであるSB-12を運用する海軍第203哨戒大隊 第1中隊が元より駐留しているので、その機体の多さは圧巻なのだ。その宣伝効果を期待しているのか、基地の広報部は俺たちから離れたところに記者を案内しているが、俺たちにもカメラのレンズが多少なりとも向けられている。機体の安全確認中には気が散るから実のところは止めてほしいのが本音だ。
離陸順はやっぱり燃料のことを考えて俺たちの後にB-12だった。今日のB-12は爆弾倉の中に重い爆弾を抱えていないせいか、前回見たときよりも動きが機敏になったような気がする。俺たちに影響されたのか、多少派手な塗装をしている機体もあるようだ。
◆
メンフィスベル基地は比較的、街に近いところにある基地だ。それはつまり、それだけ俺たちを見に来る人が増えることを意味している。俺たちの帰還に合わせて基地開放が行われて、多くの市民が詰めかけた。目玉は勿論、俺たちの機体だった。しかし、その混雑も開放の終わる三日後には収まった。
ありがとうございました。
次話は一時間後、最終回です。




