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終結

気付いたら、エスコンZEROの最後みたいになってた。

農学部なので(というのは建前で、本当は趣味ですが、)小型特殊自動車免許取りました。

「ねえクール。最近、書くことが本職なんじゃないかと思ってきましたよ。」

「喋ってるんだったら手を動かせ。」

「了解です。」


 只今、絶賛大量の書類と格闘中。いや、正しくは大量の手紙だ。最近は手紙を書く時間が非常に長い。なぜなら、敵の航空戦力がほぼ壊滅してしまったからだ。これは、連合各国も公式に発表している。一カ月以上、敵機を確認した報告が無かったのだ。つまり、前線には戦闘機部隊が過剰に存在する。そうなれば、元々は攻撃機であるP-10Cを装備する我が隊は真っ先に制空任務から外されてしまうのだ。そうなると、俺たちの仕事は定期的な対地攻撃任務となる。緊急発進への待機が無くなった分、これまでより遥かに自由な時間が増える。しかし、悲しいかな、この増えた分の時間は全て同じく増加した俺たち宛の手紙の返信に費やされることになった。ちなみに、野戦郵便局の運営要員として派遣されてきた軍曹は俺たちの秘書役もやらされている。


「本当に、あの命のやり取りが無いと、改めて俺たちの部隊の存在意義を疑いますよね。」

「そう言うな。俺たちが暇ということは、前線の兵士たちへの支援が手厚くなるってことだ。」

「そうですけど。でも、俺たちはパイロットですよね。その本領を忘れて手紙書きなんていかがなものかと。」

「お前はいつからバトルジャンキーになったんだ。まあ、明日だって任務はあるんだ。むしろ、攻撃機の需要は増えてるんだから、それはそれでいいじゃないか。」


 そう、確かにインディアス前面戦線での地上戦力の損失割合も、当初に比べれば確実に減ってきている。これは航空支援のおかげといってよかった。そして、それは戦線の押し上げと、支援要請地点が基地から離れる事を意味していた。最近では滑走路を更に北、すなわち、前線の方へと押し上げて設置しても良いのではないかという案も真面目に検討されているのだ。


 候補地として上がっているのはクエンカ。55キロ北進したところにある街。ほどよい大きさの土地がある。そこは広大な元農場。丁度俺たちがインディアスに到着した頃の最前線だった場所だ。この元農場が吸った兵士たちの血は千を下るまい。同時に、双方が大口径の火砲を使用しなかったおかげで、危険物も少ない。一応、手榴弾と迫撃砲弾、地雷の除去は工兵が除去率99%をめどに行うらしい。敵に制圧されていないので、やるとしても楽ではあるだろう。


 翌日、クエンカへの移動が正式に通達された。カペーの工兵隊は三日後、俺たちは工兵隊の二週間後に移動することとなった。六ヶ月ほどしかいなかったが、生活の中身はとても濃厚だったため、あたかも一年近くいたように思える。その為、俺たちは毎日の出撃に平行して片付けを行っていた。工兵隊がいないので、大きいものでも自分たちがやるしかない。整備員たちが重機に慣れていたのは幸いだった。そうして片付けをしていると、アイケルバーガー中佐との話が進む。何だかんだで愛着が沸いていたのだ。


「やっぱり、いざ離れることが決まると寂しいですね。」

「まあ、俺たちが軍人である以上仕方のないことだ。」

「そうですよね。地元の人とも結構仲良くなったのに、もったいないですよね。」

「後詰めの部隊が上手くやってくれるだろうさ。」


 そうこうしていると、待機室の片付けも終わる。いつの間にか設置されていたソファーがある。携帯コンロを設置するためのシンクもある。よくここでコーヒーを湧かしたものだった。スプリングが外されて、枠だけになったベッド。夜襲を警戒して毎日ここに片方が詰めていたが、結局無かった。その中々に辛かった経験も今となってはいい思い出だ。こういう思いは土地との別れがあるといつも心を(よぎ)る。個室は用意されていたが、ほとんど使っていなかったからここが家のようなものだった。



 ここまでの公式撃墜数はアイケルバーガー中佐が32機、俺が43機。もちろん、俺が今のところ連合軍のトップエース。アイケルバーガー中佐は第二位だ。結果的にはウィリアム・トービン中佐の31機をアイケルバーガー中佐が上回ったことになった。トービン中佐が第三位で、その下の第四位は撃墜数21機だから、俺たちの戦闘がいかに激しかったかがわかるだろう。何でこんなことを考えているのかといえば、今はレンシア人民連邦政府の降伏宣言を行っているからだ。正しくは、首都で蜂起が起きて、鎮圧できなくなったというのが正しいだろう。政府首班は大方が首吊りで処刑されるか自殺したらしい。国全体で万人規模の死者を出した内戦を引き起こしたのだから、当然の結果といえばそれまでだろう。


 さて、戦争が終わっても俺たちにはやることがある。コミュント人民民主主義国の軍事顧問団の捕縛だ。少々特殊な任務だが、こいつはVAHQではなくて陸軍参謀本部からの秘密命令だ。これに関しては俺たちも異を唱える気は無かった。敵の最新兵器を鹵獲することは重要であることは自明の理だ。


 結局、クエンカへの移動前の降伏宣言だったために俺たちは未だにインディアスにいる。情報部によると、軍事顧問団は元々は大規模に整備された飛行場を使っていたのだが、リバティアの爆撃で北に退避したらしい。疎開先の臨時飛行場は滑走路が一本しかないとのことだ。P-10の航続距離は1100キロなので、目標までの燃料に少し不安がある。これに爆装していくのだから余計不安だ。積んだのは50キロ爆弾二つ。一応、後二つ付けることは物理的には可能だが、航続距離が拙くなるので二つが限度だ。


 俺たちの任務は、明日の朝までに敵の滑走路を使用不能にすること。つまり、敵機が空へ飛び立てないようにすればいい。そうすれば、爆撃隊が午後にでも500キロ爆弾で復旧不能にしてくれるだろう。しかし今は1700、つまり午後五時。今は準備しているので、離陸できるようになるのは1800前後だろう。これでは離陸前後で日が暮れることになる。俺も中佐も夜間飛行の経験など無い。リバティア(くに)では実験的にやっているそうだが、こことそんな実験設備の整った場所では訳が違う。確かに機体の計器に照明は付いているが、あくまで地上で見るためのものだ。空の上で見るなんて冗談じゃない。


「クール、期限は明日の朝ですが、どうしましょうか。」

「今やるしか無いだろう。本当なら払暁に攻撃するべきなんだろうが、お生憎さまだな。」


 そう言い合う俺たちは待機室の黒板の前にいる。そこには地図が貼ってある。レンシア全域の地図だ。クエンカ、インディアス、ピラーニャ基地、そして、目標の飛行場。中佐も俺もその地図をじっと見つめていた。


「よし、ポロ。整備員たちに伝えろ。滑走路脇にドラム缶を並べて、中に燃料を入れて燃やせと。どうせ燃料の心配をする必要はないんだ。」

「了解、クール。」


 そう言って、俺は待機室から駆け出した。

ありがとうございました。

次回は3/23です。

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