邀撃
最近、敵飛行隊がとても不活発だ。連日のように対地攻撃を行っているが、全く敵機と遭遇しない。義勇軍の規模が拡大しており、戦域全体で攻勢に出ているため、相手も忙しいのだろうか。もちろん、インディアス前面でもインディアス第2連隊とウェールランド第3連隊が展開している。なかなか前進速度が上がらないのは重火器と航空戦力の不足だろう、と俺も大尉も踏んでいる。まあ、だからといってここにいるパイロットは二人しかいない訳だが。だからといって、決してサボっている訳ではない。その証拠に、ほぼ毎日出撃しているせいで、機体に負担がかかり過ぎる。そのため、機体を各三機ずつ用意して、順番に使用している。幸いにして、整備班は小隊規模の30人のため、全く問題ない。というか、小隊長の准尉に使う機体を増やすようにお願いされたくらいだ。
◆
久し振りに鐘が鳴った。急いで爆装していない機体へ向かう。大尉はさっき寝ていたから、その内来るだろう。当座は一人でやればいい。そうして上空へグングンと昇っていくと無線が入ってきた。
<インディアスからケイローン2。>
<ケイローン2、感度良好。>
<北方にいるウェールランド連隊が四機の敵機に空から攻撃されている。>
<了解。そちらへ向かう。>
とても珍しいことだ。敵機は対地攻撃機なのか、爆撃機なのか。どちらもほとんど戦闘報告が上がらない貴重な機種だ。もしくは戦闘機が叩いているだけかもしれない。そんなことを考えつつ周りを見ると、遥か下方に飛行機の編隊が見えた。数は六機。こちらは急いで3500メートルまで上がっているので、敵の高度はおよそ1000メートルといったところか。
<ケイローン2からインディアス。>
<インディアスです。>
<敵機が基地に向かっている。数は六。これより迎撃します。>
<了解です。ケイローン1は現在準備中です。>
<了解。クールが来る前に全部いただきますよ。>
一気に下降に移る。恐らく、敵はこの地域にいる軍用機が攻撃機のみだと思っているだろう。実際、基地にいるのは攻撃機のみだ。ドッグファイトもできるが。敵はこちらに気付いたらしい。三機が正対して向かってくる。撃ち合いを選ぶとはいい度胸だ。20ミリの射程に入った時点で20ミリのみを撃つ。運良く、いや、相手にとっては運が悪いのであろうが、いきなり命中した。20ミリを喰らって耐えられる機体を見たことが無い。
<ポロ、一機やった。>
更に距離は縮まり、7ミリ四丁も撃ち始める。二機目が火を上げた。相手はまだ撃っていない。それどころか、俺の機体の腹を抜けて、射線から逃げようとした。命を守るならいい判断だ。だが、俺の狙いはその先の爆装した機体だ。
<ポロ、一機やった。爆撃機ががら空きだ。>
爆撃隊は回避行動に移る。しかし、重い爆弾を沢山抱えた機体の動きは鈍い。どうやら、本物の爆撃機のようだ。あっと言う間に一機に狙いをつけて、撃つ。翼が吹き飛んだ。機体は黒煙を上げながら落ちていく。
<ポロ、更に一機。>
<クールからポロ。やっと上がったぞ。俺の分を残しとけ。>
<頑張って早く来れば、残りがいるかもしれません。>
上昇に移る。先程の護衛機は大きく距離が離れている。大丈夫。まだやれる。爆撃機も爆弾を捨てればまだマシなのに。余程、頭が足りないらしい。そうこうしている内に、高度は十分とれた。機首を敵の方へ向ける。よし、あれにしよう。超低空を爆撃機が一機飛んでいる。あれで逃げているつもりらしい。頭を押さえられたら袋の鼠なのに、敵は理解できないことをするもんだ。再びの急降下。予想通り、敵はなすすべもなく、地面とキスをすることになった。後部銃座もやる気が無い撃ち方だった。
<ポロ、一機やった。残りは爆撃機一、戦闘機一。>
<俺の分を残しとけ、ポロ。>
<無理です、クール。>
まだ燃料、弾薬共に十分だ。上昇しながら敵の方を見ると、敵機二機は逃走を図っているらしい。そんなことはさせない。速度はこっちの方が断然速いんだ。降下すれば、どんどん近づいていく。取り敢えず戦闘機を先にやる。敵はあっけなく空から落ちた。
<ポロ、もう一機。ラストもやってやる。>
そのまま水平飛行で爆撃機の尻を取る。後部銃座もしたからいけば気にならない。突き上げていく感じで撃ち込めば、尾翼が千切れた。
<ポロ、迎撃完了。六機やったぞ!これでエースだ!>
<クールからポロ。北から更に四機接近中。一緒にやるぞ。>
<了解。現在、高度が足りない。時間を稼いで下さい。>
<了解。クール発砲。>
大尉の機体を発見した。飛び交う曳光弾が美しい。激しい撃ち合いを尻目に、高度を稼いでいく。
<一機やった。>
火を噴いて、敵の機体が落ちていく。大尉は上昇に移っている。
<ポロがクールの戦果を確認。>
十分な高度が稼げた。大尉を狙って上昇している、速度の落ちた奴を狙おう。位置エネルギーを運動エネルギーへ変換していく。すれ違う数秒前、トリガーを押す。目の前には二条の光。20ミリが出ていない。まずい、ジャムだ。そう思ってトリガーのボタンから指を離せば、目の前を敵機が通りすぎていく。
<ポロ、20ミリが故障。>
上昇に転じながら、一瞬だけトリガーを押して試射を行う。20ミリは駄目だが、7ミリは全て生きている。振り返れば、大尉は降下しながら獲物を今にも食べようとしている。
<クール発砲。>
敵機は大尉とすれ違った後も、煙を上げるようなことは無い。珍しく、大尉が失敗したかと思っていると、敵機はフラフラと落ちていく。上手いこと中のパイロットをやったらしい。
<こちらポロ。クールの戦果を確認。>
敵は既に半数がやられており、残りは二機だ。まだ逃げないとは、なかなか士気の高い奴らだ。失敗の後の上昇が完了する。少しばかりケツを取られていたみたいだが、敵は追いつけなかった。こちらの降下速度はやたら速いのだから、水平飛行をしていた機体が追いつける訳が無い。俺が狙っている敵はちょこまかと小刻みに動き回る。相手は巴戦を狙っているようだが、巴戦は双方にやる気がなければ成立しない。
<クール発砲。やった!>
大尉はもう一機をやったらしい。俺を追いかけるのに夢中になって、失速でもしたのだろうか。俺の獲物の方も、照準機に捉えた。トリガーを押す。
<ポロ、発砲。>
曳光弾が敵機に吸い込まれていく。頃合いを見計らって、上昇に転じれば、大尉がやった機体が墜ちていくのが見えた。
<クールからポロ、戦果を確認。>
<ポロもクールの戦果を確認。>
<ケイローン1からインディアス。>
<インディアスです。>
<上空に敵の機影無し。ウェールランド連隊の支援は不可能。撤退する。>
<インディアス了解しました。ウェールランド連隊を攻撃していた部隊はいなくなった模様。>
<ケイローン1了解した。多分、こっちに来た増援がそいつらだろう。>
<ポロからクール。>
<何だ?>
<これで五機撃墜のエースですね。おめでとうございます。>
<お前は10機だろう。ダブルエースだ。確か他のダブルエースは12戦のウィリアム・トービン少佐だけだろう。凄いな。>
<この戦い自体で、うちの軍でエースになったのは両手の指以下しかいないんですから、大尉も凄いですよ。>
<ああ、そうだポロ。新聞に載るぞ。>
<クールが中隊長代理なんですから、断ってください!>
<無理だな。多分、上からの命令だ。>
<そんな!>
◆
基地に戻ると、既に新聞記者が待っていた。地元の新聞らしい。何でも、戦闘をずっと見ていたそうで、大尉と二人で機体にもたれ掛かる写真を撮られた。ギザなポージングの注文はとても恥ずかしかった。ちなみに、後で落とした全ての機体の写真もいれた号外を配ってくれるらしい。
ありがとうございました。
次回は3/8です。




