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血濡れの部屋

久々に書いてみました。前に書いたやつもあるんですが展開思いついたら書きます。どっちも暇ができ次第書いていきたいです

 その夜の月はひどく澄んでいた。歓楽街を笑いながら歩く者たちはそのようなことには気を留めない。

 仕事帰りのものやそれを誘おうとする魅力的な女性たち、それらに変な行動をしようとするやからをしばきあげる屈強な黒服の男たちでその三組でほとんどが構成されていた。人工の光であふれるその町は謎の活気に満ち溢れていた。ここ数年で急成長を遂げたこの町は世界屈指の経済都市となっていた。さまざまな企業の社長がここに陣取り、それを守る警護の仕事も多々存在し、それを生業とするものも多かった。その中でも屈指の武闘派でありそこ自体がその町の経済を支えている「大蛇のおろちのしゅ」という会社が存在していた。のし上がるためにさまざまなことをしたという黒い噂の絶えない会社だったが組員のほとんどが並の軍人より強く、その中でも屈指の実力を誇る者たちを八岐大蛇やまたのおろちと呼ばれた。




「じゃんじゃんもってこい!金ならいくらでもあるぞ!」

 その町にある高級ホステスの店でそんな声が響き渡る。白の壁の部屋に広いソファーに腰掛け両側にきれいな女性を座らせている。背は高くガタイも非常によくクマのような感じの男だ。顔は大きく目つきは鋭く顔に切り傷を少しつけている。周りにも何人かの女性が笑顔で接客している。テーブルの上にはすでにからの酒瓶が数本おいてあった。

「すごい!お金持ちなんですね!」

「ははは。当り前よ。なんせおれはあの八岐大蛇だからな」

「そんな。冗談が上手なんですね」

「うん?まあ、そう思うんなら思っとけばいいさ。おいボーイ!」

 怒鳴りつけるように呼び出したその男にボーイは震えながら近寄った。

「は、はい。なんでしょう」

「もっと女と酒もってこい!さもないと」

「か、かしこまりました」

 ボーイは逃げるようにそそくさとその部屋を後にした。



 その店の目の前にはジャージなどの軽い服で身を固める数名の男たちがたばこを吸ってたむろしていた。

「ボスもいつも酒癖が悪いよな」

「また、女持ち帰って遊ぶんだろうな~いいな~」

「あの人は強いからここまでこれたんだよ。頭のほうは・・・おっとこれは言うなよ」

「言わねえよ。みんな思ってるから」

「やっぱり」

 男たちが談笑をしているとゆらゆらと汚い布きれに身をまとった二人がやってきた。身長差から男女であることがわかる。まっすぐとこちらへ向かってくる。一人の男が声をかける。

「ああ、おたくら。悪いんだけど今日、貸切なんだわ。また別の日に」

 そんな言葉など意に介さず布きれをまとった二人はまっすぐに進む。

「おい、聞いてんのか」

 身長の高いほうに男が手をかけた瞬間、その男は前のめりに倒れた。あたりの男たちは何が起こったかわからないといった様子であった。そして一人の男が小さいほうがいないことに気付く。

(どこに)

 振り向いた瞬間それが視界に入ったと同時に意識がとんだ。もう一人がそれを見たと同時に視界がぐらぐらと揺らいだ。次に目ざめるときはコンクリートとキスをしているであろう。

 布をかぶった二人組は何事もなかったかのように目の前の店に入った。


 男は少しばかり苛立っていた。酒が空っぽになったというのに一切運ばれてこないのだ。女性たちは両側にいる二人を除いて酒を取りに行くといっていたが一向に帰ってこないのである。

「ちょっと待ってたらすぐきますから大丈夫ですよ」

 おとこの機嫌を取ろうとする女性の声は少し震えていた。それを感じ取った男は

「すまねえな。そんな怖い顔してたか俺」

 と笑顔で返した。そのすぐ後に扉をノックなしで開く者がいた。

「おい。いくらなんでも」

 男は入ってきた人間を見て言葉をとめる。布きれを身にまとい顔の見えない二人の人間が部屋に入ってきた。その布に返り血を浴びながら。それが違和感だった。店の前にも道中にも自分の部下を配備していたからである。

「何の用だ」

 男の声も目つきも変わる。先ほどまでのほがらかな雰囲気とは全く正反対のものであった。警戒していた。

「大蛇のおろちのしゅの力也だな?」

 身長の高いほうが声を発する。それにより男だというのがわかる。

「そうだが。どうした」

「お前を殺す」

 それを聞き力也は大きく笑った。それはひとを馬鹿にする笑いであった

「俺のことをそこまで知っていて挑むってなら相手になってやるよ。おい、でてな」

 二人に女性を自分から離れさせる。女性は不安そうにその部屋を後にした。力也は腕を組んで座ったまま動かない。

「さあ、かかってきな」

「動かないのか?」

「一発目はハンデってやつだ」

 誇らしげな表情をして力也はそういう。布をかぶった男はゆっくりと近づき人差し指で力也の額をつついた。それを受けた力也は不思議な表情をする。それを見て布の男はそれを脱ぎ捨てる。見えた姿は中国の武闘家の服をまとい端正な顔立ちの赤い瞳をもつ若い男だった。長く角ばった髪がなければ先ほどのホステスたちよりも花蓮ではなかろうか。そんな男は力也に無表情でこういった。

「これで、ハンデは終わりだな」

 その一言は力也の低い沸点にすぐに到達した。その体躯から反動をつけ振り出された右ストレートは男に直撃し、後ろへと吹き飛ばす。男は扉の前まで吹き飛ばされ壁にぶつかる。

「なめた真似しやがって」

 力也の顔には青筋が浮かび獣のような表情をしていた。自身のプライドをただ傷つけられた。力也にとってはそれだけで怒りを爆発させるには十分だった。ゆっくりと立ち上がり男へと近づこうとしたとき、その男は何事もなくすぐさま立ち上がった。顔色は一切変わっていない。

「悪くない。さすがに大蛇なだけはある」

 その何事もない発言は再び力也に火をつける。その体躯とは反比例した俊敏な動きで机をつぶし間合いを詰め男の顔面にめがけて左拳を振るう。それをかがみ、よけた男は懐に入り力也に右掌底を叩き込む動作に入る。

(効くかそんなもん)

 油断した力也の顔はその一撃でひどくゆがんだ。直撃したそれはピンポイントで筋肉の弱い部分をぶち抜く。自身が初めて味わったかのような痛みに力也は後ずさり、右手で腹を抱える。

「お前は力の使い方は分かっているが、あて方を一切理解していない。宝の持ち腐れだ。よくそんなんで八岐大蛇を名乗れたものだ」

「名にもんだ貴様」

 力也が聞くともう一人の布をかぶった人間がそれを脱ぐ。さらりと伸びたきれいな髪と真ん丸とした蒼い目を持つ美しい少女がそこにいた。

「覚えているか八夜ややの一族を?」

 男が力也に聞く。

八夜やや?ああ、知ってるさ。名のある暗殺一族で俺たちがその村を殲滅した。それがどうした・・・まさか」

「生き残りだとしたら?」

 力也の顔から汗が噴き出す。痛みによるものではない。恐怖によるものだった。

「嘘だろ。あいつら以外皆殺しにしたはずだ。この目で確かに死体を確認したぞ」

「その場にいたやつはな。覚えていたならよかった。その実力も覚えていることだろう」

 それを聞き再び力也は笑い声をあげる。余裕を持った笑いであるが男は表情を変えない。

「はん。俺に勝てると思ったか。さっきまで油断していただけだといううのがわからないのか?これだから三流は」

「お前は何流なんだ?」

「は?」

「俺で三流ならお前は五流か?」

「おいおい。親が赤子と遊んでやっているっていうのに」

「ああ。お前が赤子か」

「わかった。すぐ死ね」

 力也はそばの割れた黒曜石のテーブルを男に投げつける。男の視界はふさがれその部分で力也は接近し机を右こぶしで粉々に割る。それは破片になって目の前へと飛び散っていく。男の顔は傷だらけになってるはずだった。机が割れたとき男の姿はなかった。右にその姿をとらえた力也は右腕で裏拳をかます。それは直撃するはずだった、腕があれば。

「な・・・」

 認識した途端に痛覚が働き始める。

「うわああああああああああ」

 悲鳴を上げたと同時に体のバランスが崩れた。膝が折れたのではない。右膝から下が消えていた。地面に突っ伏した力也はのた打ち回る。すでに右の腕と足がきえ、血が噴き出していた。

「赤子のように泣くな。情けない。でかい図体に小さい心とはな」

近づいてきた男に力也は残った腕で男の左足をつかむ。

「おらああああああああああああああ」

声を上げながら残りの力を振り絞ってその足を折ろうと拳を込めるがそれもかなわず左腕も転がった。その時に力也は細い何かを視界に収めた。あれが自分の体をこうしたのだと。そう理解した時にはすでに首から上がなくなっていた。



 ホステス店から連絡を受けて大蛇のおろちのしゅの人員が駆け付けたのは30分後だった。入口から力也のいた部屋まではホステスや店員、同じ組員であろうものたちが気絶していた。部屋に到着したことには力也は自身の血だまりの海の中で息を引き取っていた。

「ひどいもんだ」

組員の一人は目の前の壁を見て目を見開いた。

(八岐大蛇はみな殺す)

そう大きく血文字で書かれていた。

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