あかり
そんな俺を気遣ってか妻は、「頑張れ」とは言わない。うつ病に「頑張れ」は禁句らしい。
風呂も無理に入れとは言わないし、俺の症状がひどいときには体を洗ってくれたりする。俺にはでき過ぎた妻なのだ。
そもそも、俺がうつ病ではないかと言い出したのも、妻のあかりだった。
俺は、自分の体なのに異変を感じなかったのにだ。それだけ、俺を見ていて変化を感じ取ってくれたということだ。
確かに言われてみると、眠っていても夜中に目覚めてしまうことがあった。仕事に行く気力もなくなり、休みがちになった。
そして、病院で受診してみると、うつ病という診察結果だった。
もし、あのまま仕事を続けていたらと思うとぞっとする。しかし、自分では気付けなかっただろう。すっきり目覚められて、逆に便利だと思っていたぐらいなのだから。
うつ病と診断されて、仕事を休職することになった。毎日ダラダラとしていた俺だったが、あかりは何も言わなかった。攻められてもおかしくない状態だったはずなのに。
あかりは、仕事をしていなかった。俺が仕事を休んでしまうと生活ができなくなってしまう。それでも、攻めたりはしなかった。
彼女が仕事をしていないのは、俺のわがままだった。子どもが帰ってきて、おかえりと声が聞こえる。そういう家にしたかったからだ。それも、あかりは受け入れてくれていた。
料理の腕もいい。俺に、あっている味付けをしてくれる。もちろん、栄養のバランスも考えてくれているだろう。
最近、思うのは、後どのぐらいあかりの作った料理を食べられるのだろうということだ。ある料理評論家は、手料理よりも、外食で何度食事ができるかと考えるらしい。俺はそうは思わない。
外食もいいが、あかりの手料理の方がいい。そして、家族で食べる料理がいい。一人の食事は味気ない。
話が脱線したが、つまり、妻のあかりがいてくれるから、俺はうつ病で、引きこもりでいられるわけだ。
普段、買い物なども、無理に俺を連れ出そうとしない。むしろ、家でダラダラしていていいと言ってくれ、子どもと一緒に買い物へ出かけてくれる。
俺の欲しいものも買ってきてくれるし、その気になれば、俺の買い物にも付き合ってくれる。だから引きこもりでも、外出できないこともない。家にいるのと変わらないからだ。
今でも病院に付き添ってくれて、一緒に診察を受けてくれる。先生との診察で、俺のフォローもしてくれる。本当に俺にはもったいないぐらいの妻なのだ。