1話
違和感を感じて身体を見ると裸だった。
そして、周りの環境も一変していた。
石造りの窓の無い部屋。
足元には複雑な図形が描かれた円陣。
ファンタジーで定番の錬金術師やら魔術師やらが不可思議な事象を引き起こすために床に描いた魔法陣のようなもの。
その中央に私が立っている。
今日は休日。
マンションのキッチンで紅茶を入れようと準備をしていたのに、突然すぎる異常事態だ。
「おい。私の言葉が分かるか。」
周りを取り囲んでいた人の中から、装飾過多な衣服を着た青年に問い掛けられた。
私には日本語として聞こえたが、青年の口の動きと聞こえてくる言葉が異なっている。
これも、ファンタジー定番の翻訳魔法というやつだろう。
返事をする必要性を感じない私はその問いを無視して、周りの人達の観察を始める。
「言葉が分からないのか! この召喚陣で呼ばれた女で今まで言葉が分からなかったことがあったか?」
前半の言葉は私に、後半の言葉は杖を持ち足首まで覆うローブを着た魔術師と思われる老人に向かって。
「そのようなことは一度も。今まで五度の儀式において、この魔法陣は条件を満たす女に翻訳魔法の加護を与えてきました。」
「ならば、何故しゃべらぬ。」
「それは私にも分かりませぬ。ただ・・・単に呆けておるのではありますまいか。魔法が存在しない世界から、付属物無く身体だけを召喚するよう条件が組まれております故。」
「驚きすぎて声も出せぬということか。」
青年と魔術師らしい老人の会話で大体の状況が掴めてきた。
そして、自分の立場が何よりも理解できたのは、周りを取り囲んでいる彼等の私を見る目だ。
嘲笑、冷笑、猫が鼠で遊んでいるような天然の悪意。
裸で突っ立っている女に、服を着せてやろうなどとは全く考えていない。
むしろ、それが当然だと思っている様子。
これから、どうやって嬲り者にしてやろうかと愉悦を含んだ笑顔。
どうやら、私はダークファンタジーの世界に召喚されたようだ。




