ふたえ
小さな頃から小さな目だった。少女マンガに出てくる女の子みたいになりたくてずっとずっと憧れていた二重。
いろいろやってみたけど、手っ取り早いのは整形。そんなお金もないし勇気もないからずっと家にこもって研究に励む。スティックのりを塗ってみたり、市販のテープを貼り付けてみたり・・・。挙句の果てには、まぶたを洗濯ばさみではさんで寝てみた。
翌朝、お岩さんのように真っ赤に腫れていた。
ショック。
「あんた、何してんの?」
心配そうに伺う母を押しのけ、さっさと学校に向う。
(もう、どうにでもなれ)
「あんたーどうしたの?」
「寝不足・・・。」
学校でごまかすのは難しい。だって、みんな経験してることだから、バレバレなのだ。
別に可愛くなって、モテたくて、二重にするんじゃないもん。
と思いつつ、つい憧れの隆君が気になってならない。
(どんな娘好きなのかな・・・)
バイトのイケメン先輩山田さんにも二重の情報を聞く始末。もう私を誰も止められない。
「えっ、君はそのままで十分かわいいよ。へたにイジったら、違和感あっておかしいよ」
「そうですかね。でも、みんな二重の人多いじゃないですか。一重は損ですよ。」
「そんなことないよ。君は誰かに気に入ってもらいたくて、そんなこと考えているの?」
すらっと背の高い山田さんは、しつこい私に嫌気が差しているようだ。
「そんな事ばっかり考えている暇があったら、少しは仕事に力いれてね。」
「はーい。」
翌日、学校で事件があった。
「お前、隆に好かれてんの知ってる〜?」
「えっ、何それ。何言ってんの?」
クラスでお調子者の亀ちゃんが、突然話しかけてきた。
クラスメイトの動きが止まる。
「へぇー、知らないや。そうなの。ふーん。あたしには興味ないけどねぇ。」
思いもしないことを口走る。まずい。かなり動揺してる。
ここで、アクション起こしたら、きっと冷やかされる。それだけは嫌だ。でも、でも!
もし亀ちゃんの言うことが本当なら、大変なことだ。
心の動揺を隠せないまま、バイト先に向かった。
「今日は、何か元気いいね。いいことあったの?」
「いえ、それが、いやいいんです。」
「何、ニヤニヤしてんの?」
「いやそれが、あの山田さんは両思いになったことあります?私はまだ確定ではないんですけど。」
「・・・ない。わかんない。俺も確認しないとわかんない。けど、君の浮かれようじゃ、残念ながら、無理かもね。」
「えっ?どういう意味ですか?」
「俺は一重でも大好きだよ。っていうか、一重じゃなきゃ嫌だな。」
ちょっとまって。これって告られてんの?
想定外だぁ〜。
その日は眠れなかった。隆君と両思いかもしれないということよりも、もっとドキドキすることが現れた。
嫌われるんじゃないかって、ずっと隆君の顔色をうかがってきたのに。隆君の好きな色に染まりたいと思っていたのに。
気持ちを素直に言うのは難しいことだ。なのに、山田さんには何でも話せる。
動揺しているのは告白されたからだきっと。
でも、隆君が私に好意を持っているとわかった時よりも、ずっと懐かしいあたたかな気持ちにさせてくれる山田さんの一言に惹かれずにはいられない。
翌日学校で、隆君から告白された。
「誰か好きな人いる?」
「・・いる。ごめんね。」
一昔前の私だったら心の底から彼を受け入れていたに違いない。でも今は隆君じゃだめなんだ。
バイト先で無口な山田さんに声をかけた。
「両思いになってくれませんか?」
いつの間にか自分の目が大好きになっていた。
私の二重日記おしまい。