第五話 人の子
(……!)
今のこの感じは…
隣のに目配せをする。
お互い頷き合う。
一瞬だが、ものすごい量の魔力が森に伝った。
自分と隣のにはこのミラ族の中でも最上位の魔力を持っているから、ある程度魔力の耐性が付いているが、他のはこの影響で狂っていてもおかしくはない。"この森で一番偉い"のなら心配せずとも大丈夫だろう。
隣のと一緒に"この森で一番偉い"のと一緒に他のを抑えないといけない。
その時、目の前にその"この森で一番偉い"のがいた。
「………」
隣のと"この森で一番偉い"と自分は何も言わずに、目を閉じ、集中し始める。
かける魔法は強制的に他のミラ族を眠らせる魔法。
目をゆっくりと開ける。時間は少しかかったが、どうやら成功した。
そして互いを確認せず、走り出す。
目指すは先ほどの巨大な魔力のいわば、震源。
『…あ――――…………を…―――…………………』
(……人の子……?)
隣のも鼻をすんすん鳴らす。
"この森で一番偉い"は少し目を細めた。
『おいで おいで
私はあなたを誘うもの
あなたは私を導くもの
おいで おいで
私は魂を誘うもの
あなたは魂を導くもの
あなたしか知らない場所
天の果てへ
連れて行ってほしい』
そして、見えた。
湖の近くで人の子が月を見上げて歌って立っていた。
足を止めて、じっと人の子を観察するように見る。
まだこちらには気が付いていないみたいだが、ミラ族は暗闇でも目が利く。
人の子のすぐ後ろに"黒い瘴気"がかすかにだが見える。
(……)
人の子には魔力が感じられない。そのことがとても不思議に思えたが、だから"黒い瘴気"が見えないのにも納得がいく。
"黒い瘴気"は魔力がないと見えることすらできない。
隣のと"この森で一番偉い"とで目を合わせ、互いに頷く。
"黒い瘴気"はどちらにせよ、この森に害をなすものだ。
消さなければならない。
ゆっくりと"黒い瘴気"に近づく
「ひっ」
人の子がこちらに気付いたのだろうが、自分たちには"黒い瘴気"しか興味がない。
「…ガルル…」「……グルルル……」
警戒してか、自然とうなり声が隣のと一緒にあがる。
「ま、待ってください!は、話し合いを…!」
そして隣のと"この森で一番偉い"で"黒い瘴気"に飛びかかった。