↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

【掌編小説】浴衣日和

掲載日:2026/10/12

 英会話講師サラは、休日はなるべく人が混まないところを散策する。

 別に賑やかなところは嫌いではない。ただ、大都会・東京の静かな街を歩いていると、細い路地の角、古びた石段の上などに、突然立派な寺社が現れることがある。

「宗教が生活に溶け込んでる。これがリアルジャパン!」


 英会話スクールでは、比較的生徒が少ない土日のシフトを希望した。人が少ないとレッスンが早めに終わる。そういうときはチャイムが鳴るまでフリートーク。サラはこの時間が楽しくてしかたない。


 映画の話をすることがある。「一番好きな映画は?」と聞くと、年齢層高めの生徒では、かなりの確率で「ローマの休日」と答える。若い人でも「ローマの休日」を知ってる人は多い。とても興味深い。

「日本人って、壁を乗り越えてのハッピーエンドよりも、宿命を受け入れるせつない恋が好き?」


 土日の生徒は年齢層高めで、日曜日の午後だけ時間が空く子育て中の主婦や、平日は部活で忙しい高校生なんかが交じる。そんな中に、普通のサラリーマンで、いつも日曜の午後にレッスンを入れる30歳くらいの男がいた。サラは男に「なぜ日曜なの?」と聞いたことがある。答えは平凡。

「休日にうちにいても暇だから」

 休日に予定がないのがバレるから、普通、若い人は土日は敬遠しがちなんだけど……。「変わってるけど、正直な人」


 サラは元々快活でアクティブなオージーガールだから、人が集まるイベントも嫌いではない。今月末の花火大会には、友達と一緒に行く約束をした。

「人混みに行くなら、絶対浴衣! サンダルではなく、ちゃんとした木の下駄!」

 花火大会はまだ先だったが、土曜日の仕事終わりに、街で浴衣と下駄を買った。1時間かけて選んで、オーストラリア国旗のような色調の浴衣にした。


 翌日の日曜。特に急いだわけではないが、担当したすべてのレッスンで時間が余った。だから、すべてのレッスンで花火大会に着ていく浴衣と下駄を見せて自慢した。ラストのレッスンの生徒は「うちにいても暇だから」男。

 飲み込みが早い生徒なので、レッスンは早めに終了。早速、浴衣と下駄を見せた。すると、今までの生徒とは違う反応をした。


「この人、浴衣そっちのけで下駄の鼻緒を指で広げてる。擦れて皮が剥けるのが心配なんだって……」

「浴衣のこと、褒めてくれないなあ。お世辞も言えないなんてコミュニケーション下手? でも親切……」


 男は鼻緒に指を引っ掛けて、ぐいぐい引っ張る。額にうっすら汗がにじんでいる。サラは「もういいよ」と言おうとしてやめた。男に任せることにした。

「『誰と行く?』って聞かないの、たぶん世界で彼だけだよ。私に興味ない? そんなこと聞いたらセクハラになると思ってる?」

「私が外国人だから、女として見られない? でも、こんなに優しい」

 いろいろ考えた。

「無愛想だけど優しい……。ちょっと変わっててミステリアス」


 終了のチャイムが鳴った。男は下駄をサラに返して、花火大会に行く前に下駄を履いて、十分足に慣らすように念を押した。

「サンキュー。バーイ」

 サラは教室を出た。


 快活でアクティブなオージーガール。サラはいろいろ確かめたい。

「よし、来週は浴衣でレッスンだ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。