職人
村に着くと、すっかり日は暮れていた。
私達は、一度お婆さんの家に**戻り**、そしてドンと共に村長の**もと**へ向かった。
「村長、
川の水が止まった原因がわかったわよ」
と姫様は言った。
「本当か、
まぁ上がって座ってくれ。
おい。
お客さんに、
お茶を淹れてやってくれ。
茶菓子もあっただろう」
と村長は言った。
「茶菓子?
そんなのないわよ」
と村長の奥さんは言った。
「ほら。
そこの引き出しに隠したんだ。
ケーキを」
と村長は机の引き出しを指した。
なにか……、
嫌な予感しかしない。
「ちょっと。
あなた。
引き出し、すごいことになってるわよ」
と村長の奥さんは言った。
村長はあわてて引き出しを見に行く。
私たちも後をついていく。
そこには、見事な緑色のケーキがあった。
「なんて、おぞましい光景かしら。
私のケーキも、きっと今ごろ、同じようになってるわ」
と姫様は肩を落とした。
「姫様、
大丈夫です。
どうせ片づけをさせられるのは、
私ですから」
と私は胸を張った。
「なにそれ、
励ましになってないじゃない。
というか、
少し悪口入ってるわよ」
と姫様は私のほっぺを両手でつねる。
「姫様痛い。痛い」
と私は言い、姫様のほっぺを両手でつねりかえす。
「あんたら、本当に高貴な御方なのか?」
とドンは眉をひそめる。
「ひめぇしゃまは、おやさすーいので、こんなこともゆるしてくれるのへす」
と私は答えた。
「はなた。こたえになっへないじゃなひ」
と姫様は言った。
「まぁまぁ、茶菓子はないが、芋をふかすから、それを食べてくれ。
とりあえず落ち着いて」
と村長はなだめた。
「ひかたないわね。せーのではずすわよ。へーの」
と姫様は言った。
私たちは同時にほっぺから手を**放す**。
「それで、なんだっけ」
と姫様はポカンとした顔をしている。
「姫様……、ふかし芋の件ですよ」
と私は答えた。
「いや……、上流の件ですよ」
とドンは言った。
「あぁそうね。ここから上流に1時間半ほど、歩いたところに、大きな巨石があったわ。
恐らく山から落ちてきたのね。そしてその石で、川はせき止められ、大きな湖になっていたの」
と姫様は身振り手振りで説明した。
村長は、ドンの方を見る。
ドンはうなづいている。
村長は腕を組んで、考え込んだ。
「そいつはマズいな」
村長は呟いた。
沈黙が流れる。
「そいつはマズい」
再び村長は呟いた。
「村長。マズいというのは?」
とドンは尋ねた。
「ほら。
そういうのは、ムリに取ると、洪水になるんだ。
原因はわかったが、お手上げだと思ってな」
と村長は唇を噛んだ。
「さすが、村長だけあって、わかっているじゃない。
そうよ。
だからね。
策を考えたの。
ドン。
あの竹を村長に見せて」
と姫様はドンの腕をつつく。
ドンは、外に置いた竹を村長の家の中に持ち込んだ。
「村長。
これは竹という植物で、中が空洞なの。
これを筒に改造して、筒を通して、水を上げて、巨石のところから水を**汲み出して**、川に戻そうと考えているの」
と姫様は身振り手振りで伝えた。
村長は腕を組んだ。
「そんな事は可能なのか?」
と村長は尋ねる。
「実際可能なのかどうかは、やってみないとわかりません」
とドンは答えた。
「先ほど改造と言ったが、何をする」
と村長は尋ねた。
姫様が私に目配せをする。
「この竹の中に、仕切りのようなものがあります。これを抜く作業が必要です」
と私は答えた。
「ちょっと見せてみろ」
と村長は竹の観察を始めた。
「ちょっと待っててくれ」
村長は、家から出て行った。
5分ほどして、村長が一人の老人を連れてきた。
「こいつは職人のゴンザだ」
と村長は老人を紹介した。
「なぁゴンザ。この植物の節をくりぬいて、筒にできるか?」
と村長はゴンザに尋ねた。
「なんとも言えねぇな。それに、なんでそんなめんどくさい事をしなければならない。ワシは仕事で忙しいんだよ」
とゴンザは手を上げた。
「実はな。
村の川が枯れただろ。
あれはな。
上流で川を石が塞いで、湖になってるんだ。
それでな」
と村長は身振り手振りで説明する。
ゴンザの目の色が変わった。
「あぁ、
そういう事か。
筒で水を上げるんだろ」
とゴンザは腕を組んだ。
「ゴンザさん。わかるの?」
と姫様は身を乗り出した。
「なんだ。
この嬢ちゃん。
えらいべっぴんさんやなぁ」
とゴンザは、
しげしげと姫様を見つめた。
「このお方たちが、
村の為に、
石を発見してくださったんじゃ」
と村長は言った。
「なるほどなぁ。
村の部外者が手伝って、
ワシが手伝わないのでは、
道理に反するなぁ」
とゴンザは、
しげしげと姫様を見つめる。
「しかし、べっぴんさんだ」
とゴンザは言った。
「べっぴんさんなのは、よく知ってるから、
何度も言わなくてもいいけど、
それでゴンザさん。この筒で水が抜けるの?」
と姫様はゴンザをつつく。
「やり方によるな」
とゴンザは腕を組んで、
姫様をちらちら見る。
「ならゴンザさんなら、
少し時間はかかるかもしれないけど、抜けるって事ね。
腕良さそうだもんね」
と姫様はゴンザをつつく。
「まぁ、ワシの腕にかかればな。
だいじょうぶだと思う」
とゴンザは鼻をならし、
誇らしげに言った。
「でもさすがのゴンザさんでも、
この竹の節を抜いて、筒にするのは、難しいかな?」
と姫様はゴンザを横目でちらりと見た。
「まぁ、経験はないが、
しばらく時間をくれれば、
だいじょうぶだと思う」
とゴンザは顎をさすり、
考えながら言った。
「でもゴンザさんは、
人気の職人さんだから、
依頼しても詰まっているから無理よね」
と姫様はゴンザをじっと見つめた。
ゴンザは頭をかいた。
「まぁ、仕事の合間に、
やってみよう。
村長、
仕事の手伝いに、
何人か人をくれ」
とゴンザは言った。
「だったら、私とジュナが手伝うわ。ドンは時間ない?」
と姫様は言った。
「大丈夫。やります」
とドンは胸を叩いた。
(お芋ふかせましたよ)
台所から奥さんの声がする。
姫様の目の色が変わった。




