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獣の骨

村長の家には獣の頭蓋骨が、いくつも飾られていた。

しかし、こちらに来てから獣を見たことがない。


「村長さん。立派な骨ね。なんの獣」

と姫様は尋ねた。


「……あぁあれはな。牛じゃよ。家畜の牛」

と村長は苦笑いをした。


「見たところ、家畜を飼っている様子はないけど……」

と姫様は尋ねた。


「昔はこの辺りも緑が多かったんだが、

四年ほど前に川が枯れてな。

家畜も全滅し、それから村も寂びてしまった。

昔はもう少し活気があったんじゃが」

と村長は肩を落とした。


「雨が降らなくなったの」

と姫様は尋ねた。


雨が降らない。

これはエルフ的には、水の精霊の不在が原因だ。


「いや……、昔と対して変わらないのだが、川が枯れてから、ここらへんも枯れて。

今はなんとか井戸もあるから、やっておるんじゃが、いずれはこの村を捨てなければいけないかもしれんな」

と村長はうつむいた。


「これはきっとなにか原因があるわね」

と姫様の目が光った。


あの目は何かを狙っている目だ。


「ねぇ村長さん。私たちが、この事をなんとかしたら、村の救いの女神かしら?」

と姫様は笑顔で尋ねた。


「もちろんだ。でも。そんなことムリだ」

と村長は首を横に振った。


「できるかどうかは、私が決めるわ。

明日ちょっと調査に向かうから、ここらへんに詳しくて体力のある人を貸して。

上手くいったら万々歳だし、行かなくっても当たり前。

まぁちょっとした賭けと思って、やってみない?

私達二人でもいいけど、女二人で行かせるなんて、村長さんも、そんな野暮じゃないでしょ」

と姫様はにやりと笑った。


村長は呆れた顔をしていたが、

どうせやる事もない、と呟き、

村の若者を一人貸し出してくれることとなった。


翌朝、私たちは川の上流に向かうことにした。


同行した若者は、ドンクサザレスマッカートニンクスジューニアペンテポリスサッケンダーミウンダーミツンダーミカイジャリスイギョという名前だった。



「やたら長い名前ね。なんでそんなに長いの?」

と姫様は尋ねた。



「亡くなった私の父が、私が産まれた時に、霊媒師に縁起のいい名前を教えてくれといったそうです。

そしていくつかの名前を教えてもらいました。

しかし父は優柔不断で、決められず……。

結局全ての名前を足して一つの名前にしました」

と彼は、メモを見ながら言った。


「しかし、ドンクサザレスマッカートニンクスジューニアペンテポリスサッケンダーミウンダーミツンダーミジャリジャリスイギョって言いにくいですね」

と私は答えた。


「最後カイジャリスイギョです」

と彼はメモを見ながら言った。


「なに?この面倒くさいくだり、ドンでいいんじゃない。あんたもメモ見ながら、名前言ってるじゃない」

と姫様は少しいらっとした顔で言った。


「助かります。だいたいみんなドンかオイで済ませるので」

とドンは笑った。


「あんたね。それなら”私はドンクサザレスマッカートニンクスほにゃららと言います。長いのでみんなからはドンと呼ばれています。気軽にドンとお呼びください”といいなさい。そのくだり省略できるわ」

と姫様は言った。


「あなたは賢いですね。次からはそうします」

とドンはニコニコした。


私たちは、川をひたすら上流までさかのぼる。

見渡す限り、荒地ばかりで動物たちの気配すらない。


「この辺は、昔は緑が多かったとか……」

と私は尋ねた。


「そうなんです。ある日大きな音がし、地面が揺れたと思ったら、その日から川がひからびました」

とドンは視線を落とした。


「地面が揺れた。地震かしら」

と姫様は呟いた。


「どうなのでしょう。ただ揺れたのは一度だけです」

とドンは言った。


「地震だと、余震があることが多いわね」

と姫様は首を傾げた。


「しかし、姫様。

なぜ上流に向かうのですか?」

と私は尋ねた。


「そうですよ。私も気になりました」

とドンも尋ねた。


「気になる?気になるわよね。私も気になるわ」

と姫様は呟いた。


「姫様……、

もしかして、なんとなく行ってるんですか」

と私は尋ねた。


「ふっ。

私を誰と思ってるの?

エルフガルド王国の二番目の皇女にして巫女でもあるティナ様よ。

なんとなくで、動くことなんてあると思う?」

と姫様は私の目をじっと見た。


「はい」

と私は素直に言った。


「皇女って、お姫様なのですか?」

とドンは驚いた表情で尋ねた。


「ちょっと……、

ジュナ。

私の侍女の癖に、

いう事が塩すぎない」

と姫様はむくれた。


「だって姫様、

ほぼ野生の勘ですもの。」

と私は言った。


「皇女って、お姫様なのですか?」

とドンはふたたび尋ねた。


「うるさいわねドン。見たらわかるでしょ。姫様以外の何者でもない、たたずまいしかしていないじゃない」

と姫様は声を荒げた。


「姫様。

普通の姫様はそんな言葉遣いされないですよ」

と私は姫様の肩を叩いた。


「姫様とは知らず、とんだ御無礼を」

とドンは急にひざまずいた。


「だから嫌なのよ。はいはい。立って立って。普通にしてドン」

と姫様はドンの腕を引っ張り上げる。


ふたたび、歩き出し10分ほど進んだところで、

姫様は急に足を止めた。


「姫様疲れました?」

と私は尋ねた。


「ちょっと待って」

と姫様は何かに気が付いたような様子だった。


「ちょっとドン。ココを掘ってみて」

と姫様は川底を指す。


ドンは言われたまま、杖で川底を少し掘る。

30㎝ほど掘ると、水がじわっと湧き出してきた。


ドンはその水に触れる。

「冷たい……、

水が出てきた」

とドンは目を丸くして驚いた。


姫様はその様子を腕を組んで、じっと観察している。


「姫様……、これは」

と私は尋ねた。


「少しだけど、空気が水けを含んでいるわ。

多分だけど、川は枯れたわけじゃない。

もう少しよ」

と姫様は呟いた。

姫様は再び歩き出した。


私は昨晩の光景を思い出した。

「ねぇ村長さん。私たちが、この事をなんとかしたら、村の救いの女神かしら?」


姫様は、本当に救いの女神になるのかもしれない。

そんな予感がした。

あの時、彼女が私の女神様になったように……。


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