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9話 天王寺ルート4

 まるで彼が今まで受けてきた心の傷の痛みが具現化されたかのように赤い竜巻は周囲の物を次々と破壊していた。

 最初は私と同じ背丈だった竜巻は次第に大きくなり、このままだとビルを巻き込みかねないぐらいには成長していた。

「……リーネ、このままだと街が危ない。何か対抗策はないの?!」

 私の問いかけに反応し、リーネは姿を現す。

「彼が厄災の王に体を乗っ取られる前に彼を浄化できれば助けることは出来るかと……」

 リーネは何か言いかけた言葉をそのまま飲み込み、沈黙を貫いた。

「勿体ぶらずに教えて! 時間がない!」

 このまま彼を放置すればするほど、心の傷は広がっていく。

 また誰かを傷つける前に今度は私が止める。

「彼の心の中に入れば被害を受けずに直接、精神世界の彼と対面は出来ます、ただ現実世界と違うのは失敗すれば貴方の精神も厄災の王に汚染されます。……それでもいいんですか?」

 私の覚悟は既に出会ったときから決まっている。

 外の世界にいる彼と容姿は同じでも性格はまるっきり違う。

 何を考えているのか分からないし、ポーカーフェイスということもあって表情も読み取れない。

 でもそんな凍っていた表情からたまに見せる笑顔はあの彼とは違う良さがある。

 誰かを傷つけないために人を寄せ付けないところや、言葉足らずなとこ、勉強が出来ない私の為に時間を割いてくれるところは彼だけの個性だ。

 外の世界の彼に似ているから助ける訳じゃない、天王寺くんだから助けるんだ。

「構わない、だから力を貸して。リーネ」

 彼女は少し笑いかけたあと、私の手を優しく握る。

 体中に暖かなエネルギーが流れ込んでくるのがわかる。

「気をつけてください櫻葉さん、天王寺くんも準備万端みたいです」

 リーネの言葉を聞き、彼がいた方向を見るといつの間にか赤い竜巻が消えていた。

 天王寺くんの姿はなく、そこに立っていたのは紛れもない厄災の王 真紅の王だった。

 瞳からは光が消え、破壊衝動を体現しているのか、両腕は真っ赤に染め上がっていた。

 ただ完全ではないのか、時折、炎は消えかかっている。

 天王寺くんは今も自分と戦っているんだ。

 彼に近づこうと一歩踏み入れた途端、周囲に炎が燃え広がった。

「俺に……近づくな。触るな!」

 彼の叫び声と共に炎は形を変え、襲い掛かってきた。

 人型の炎を浄化すると、聞こえてきたのは彼の母親が行ってきた罵倒だった。

 触れていく度に心に傷が広がっていく。

 でも私は負けられない。

 次の二体目から聞こえてきたのは周囲の人々に恐れられる孤独感だった。

 心が悲鳴を上げかけているのがわかる、でも私は負けない。

「だって天王寺くんはこの痛みを一人で……何年も耐えてきたんだ! 私なんかよりも我慢強い筈! だから戻ってきて天王寺くん!」

 最後の一体目を浄化する瞬間、私は自分の力を炎に叩き込んだ。

 この炎たちが今まで彼が受けてきた傷なら、戻る先はただ一つ。

 心の中だ。

 私は目を閉じ、彼の心の世界を探す。

「なんて世界なの……」

 まるで地獄だと錯覚してしまうほど辺り一面、炎に包まれていた。

 その中に小さな光の玉を見つけ、私は意識をその光の玉に集中した。

 

 

 目を開くと視界に現われたのは真っ白な世界だった。

 真っ白な世界に一人、座っている男の子がいた。

 周りには壊れたぬいぐるみや玩具が散らばっていた。

 彼の元へ少し近付くと脳内に知らない映像が流れ込む。

「間違いない、天王寺くんだ」

 小さかった天王寺くんの手を引いていたのは優しそうな女性だった。

 ついさっき見たような鬼のような形相はしておらず、慈愛に満ちた表情で彼を見つめていた。

 ……最初は優しかったのか、でも何で。

 そして更に歩むと幼かったころの天王寺くんが母親に誕生日プレゼントを用意している映像が見えてきた。

 母親が喜ぶ姿を見たいと思うのは全子供が思うもの、でも彼の母親は自分に向けたプレゼントである似顔絵をビリビリに破いた。

 ただ喜んでほしかっただけ、涙に包まれたその声は彼女に聞こえることは無かった。

 それからというものの、成長した天王寺くんは良い成績を取らないと罵声を浴びるようになっていた。

 彼に近づいていく度に彼が生んできた今までの否定の言葉が聞こえてくる。

 辛い、助けて、死にたい。

 真っ白だった世界はどんどん血で滲み、輝きに満ちていた世界は見る影も無かった。

 それでも尚、私は歩むのを辞めなかった。

「どうして僕に優しくしてくれるの? 僕は誰かを平気で傷つける悪い子なのに」

 幼い天王寺くんはまるで自分を守っているのか、私を遠ざけるような言葉を投げかけてくる。

 だから私は胸を張って答えることにした。

「誰だって間違いは起こすよ。私だってそうなんだから、だから絶対に見捨てない」

 ずっと頭の中に響いていた彼の言葉は次第に小さくなっていく。

「今度は私が助ける番だよ、隼人くん」

 小さな細い手を取り、私は彼と共に外へ出た。

 

 現実世界に戻ると、炎はきれいさっぱり消えていた。

「そうだ、隼人くんは!?」

 荒れ果てていた地面に倒れていた隼人くんを見つけ、私は急いで彼の元へ向かう。

「目を覚まして、隼人くん。お願いだから……」

 私の願いは通じたのか、隼人くんは意識を覚ました。

「俺、まだ……やり直せるかな」

 彼の震えている手を取り、しっかりと握った。

「君がやり直したいと思ってくれたなら何度だってやり直せるよ」

 隼人くんの体から瘴気と思わしき、黒い煙が消えていくのが見えた。

「そっか、なら、良かったよ」

 私は自分よりも少し大きな体を抱きしめた。

 これからは私が何度でも助けてあげる、だって私は生きる伝説の女なんだから。


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