8話 天王寺ルート3
数日後。天王寺くんが言った通り、破壊衝動が少しずつ彼の日常を浸透していった。
同級生、チームのメンバー達はまだその兆候に気づいていないが、ずっと傍にいる私にはわかる。
言葉の端に少し攻撃性が増すようになってきていた。
一方的に言葉の暴力を他人にぶつけてくる訳ではなく、相手の指摘されたくない部分を的確に述べていく、何度も何度も精神的に不安定になるまで。
あまりにも目に余るので私は指摘することにした。
自分自身で気づいていなかったのか、私の言葉に彼は大きく驚いていた。
申し訳なそうに謝る姿は少し弱々しく見えた。
本人に自覚をさせればきっと大丈夫だろうと思っていた。
翌日、いつも通りに図書室へ向かうと人だかりが出来ていた。
……嫌な予感がする。
人混みをかき分け、急いで中心地に向かうと私は目を疑った。
天王寺くんは他の生徒に羽交い絞めにされながらも、自分の目の前にいる相手を一方的に殴っていた。
状況がわからない、わからないけどこのままにしたらダメな気がする。
私は気が付くと前に出て、彼の前に立っていた。
「何しているの?」
「……」
「黙らない、何か理由があるんでしょ」
野次馬が見守っている中、私は彼の手を無理やり引っ張っていく。
「話なら私が全部聞いてあげるから今はここから離れよう」
学校を抜け出し、私はチームのアジトに向かうことにした。
まだ昼間ということもあり、アジトは光に照らされていた。
アジトに来てから天王寺くんはずっと黙っていた。
彼が話すときまで待とうと考えたけど、せっかちな私には無理な話だった。
「何で他の生徒に手を出したの」
溜息を出しながらも、淡々と事の詳細を語ってくれた。
「……俺の正体を知っていた奴がいたんだ。ソイツとは中学までは仲が良かったけど、些細なことがきっかけで絶縁をした。でもアイツは俺が……母親に黙って不良チームのリーダーをやっていることが気に食わなかったらしい。俺はそれを聞いて目の前が真っ暗になった、そしたら手を……出していたんだ」
私は彼の声色に少しノイズが走ったことに気が付く。
「とりあえず今日は帰った方がいい。……チームのことは任せておいて、私が上手いことやるから家から出ないこと」
少し不安になったが彼は素直に私の話を聞き、家に帰っていった。
翌日、私は天王寺くんの自宅に向かうことにした。
ここ数日で彼の破壊衝動は度を増していっていることも考えて、災厄の王の目覚めが近付いているのがわかってきた。
聖女としての力が天王寺くんと深く関わってきたことで強まってきたのかもしれない。
彼を救えるなら何だっていい。
地図を頼りに天王寺くんの自宅を探していると、住宅街のどこかから大きな声が鳴り響いていた。
声を頼りに近づくと、聞きなれた声が一つの住宅から聞こえてくる。
……天王寺くんの声だ。
窓から激しい言い争いが聞こえてくる。
その内容は聞くに堪えなかった。
自分の息子の言葉に聞き耳を持たず、ありとあらゆる罵詈雑言を彼に浴びせていた。
「天王寺くん、君はずっと風に扱われてきたんだね」
正しい人間になるために方法は間違っているけど不良チームを作って、弱い人々を助けて来ていたのにたった一つの嘘のせいでこんな仕打ちを受けるなんて。
私は彼の為に何ができるのだろうか、たかが小娘に家庭内での不和を治すことなんか出来る訳がない。
でもそれが諦めていい理由になってはいけない。
ここの出来事での彼の言動と今までの行動から次に行うことを予測すれば被害は防げるはず。
「櫻葉、お前なんでここに」
私は運が良かったのか、彼の方から私に近づいてきてくれた。
「君を救うためにちょっとずるいことしちゃった」
本来なら無いはずの地図をリーネに無理やり作ってもらった。
システム通りに動くなんてごめんだ。
「俺はもう君に救ってもらえる人間じゃ無くなった。もう終わりなんだ、何もかも」
「例え誰かがそう決めたとしても私は諦めないよ。君を救えるなら神様にだって逆らえるよ」
長い沈黙が訪れた後、天王寺くんは悲しそうな目をしながら小さく呟いた。
「もう、誰も傷つけたくない。助けてくれ」
その言葉をきっかけになったのか、辺り一面に赤い竜巻が発生した。




