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5話

 天王寺隼人。

 西ヶ原大付属の高等部二年生、学業は優秀で中等部からずっと学年首位をキープし続けている秀才の男の子。

 同級生の女の子からは容姿が中性的なこともあり、可愛がられているらしい。

 と……まあ、私なりに彼のルートに入るために他の学生たちから情報を集めてみたけど、やはり現実世界にいる彼と似ている部分はある。

 正直、気が重い。でも私が彼含む男の子たちを攻略しなければ元の世界には帰れない。

「さ、天王寺さんのとこに行きましょう。櫻葉さん!」

 いつも冷淡な様子を見せるリーネは私の現実世界での諸事情を知った途端、まるで恋愛トークを聞いた女友達のような素振りを見せるようになってきた。

 どうやら彼女はかなり恋愛脳らしい、少しずつだけどリーネのことをわかった気がする。

 

 リーネの話によると天王寺くんは放課後、図書室で勉強しているらしく、彼と一緒に勉強をするだけでかしこさのパラメータは大きく変化するらしい。

 個別ルートに入る前にかしこさを上げないと。

「どうやって勉強に誘うかな……」

 今、現在の私のかしこさのパラメータは百を大きく下回っていてつい最近行われた中間テストでは下から数えた方が早い順位だった。

 そんな順位の私がいきなり勉強に誘ったら絶対に断られるはず。

「自然体で誘えばきっと大丈夫ですよ、このゲームあまり断られる確率は大きく低いので」

「あまりそういう裏側は知りたくなかったな……」

 図書室を目の前にし、私は深呼吸をする。

 大丈夫、いざとなればもう一度セーブデータをやり直せばいいだけ。

 緊張を上手く噛み殺し、図書室のドアを開ける。

 朱色に染まり切った空から漏れ出した光は校舎内を照らし、一人の男子生徒を彩っていた。

 静寂な空間から見える彼の横顔はとても真剣な眼差しで声をかけられる状況ではなかった。

 セーブデータをやり直して一日の行動を見直さないと。

 彼の邪魔をしたらいけない気がする。

「……誰?」

 ドアを閉めようとする音が大きかったのか、天王寺くんは私に気が付いてしまった。

「櫻葉琴音、同じ二年生だけど覚えているかな」

 彼は少し考える素振りをしたが、すぐに思い出した。

「ああ、転校生の。僕に何か用かな」

 ……まただ。

 天王寺くんは作り物めいた笑顔でまた私を見つめている。

 唯一、現実世界の彼と違うところだ。

 人形めいている。

「勉強しているところを邪魔してごめんね。実は天王寺くんに勉強を教えてもらいたくて」

 私は疑問に思いながらも、ごく自然に誘いをかけたつもりだったはず。

 それなのに彼は私の言葉を聞いて信じられないと言わんばかりに批難をした。

「僕が君にマンツーマンで勉強を教える? 冗談はよしてくれ。僕に誰かを教えるなんてことは出来ないよ。これからもずっと」

 まるで自分はその資格はないと言わんばかりに天王寺くんは鬼気迫る表情で怒りを露わにしていた。

 天王寺くんは荷物を急いでバックに入れた後、早歩きで図書室を後にした。

「私……またなんかやっちゃった?」

 あまりの突然の出来事に私とリーネはその場から動くことが出来なかった。

 

 

 恋愛ゲームの世界であってもアルバイトは必須だ。

 可愛い洋服を買うために今日も私は汗水垂らして働く。

 アルバイトの帰り道、私は夕方にあった出来事を少し思い返していた。

 天王寺くんのあの表情、尋常ではなかった。

 顔から流れる大量の汗、何かをこらえるかのように拳を震わせる姿を見て、私は誰かと隣合わせで何かを行うという行動に拒否感があるだけには見えなかった。

 彼に一体何があったんだろう。

「ここを迂回しましょう、この場所は学校の生徒が寄り付かない危険な場所です。何が起きるか分かりませんよ」

 突然のリーネの声掛けに私は思考の海から上がった。

 ビルとビルの隙間にあるこの細い路地を通れば、寮に早く帰れるが素行の悪い生徒がたむろしているせいで誰も通らない。

 私は別に気にしていなかったけど、今日に限ってはリーネが私を止めるレベルだ。

 素直に従った方がいいのだろうか。

 ……いやあの時の事があった以上、いくらセーブをしているからといって痛みは消えることは無いんだからむやみにセーブ頼りに物事を進めるのは辞めておこう。

 そう考えていたのにこの仮想空間は甘くはないみたいだった。

「きゃああああああああ!!」

 路地裏から聞こえてきた悲鳴に私の足は既に動き始めていた。

「大丈夫です……か?」

 現場に駆け付けると、そこには悲惨な光景が待ち構えていた。

 大柄の男性四人が血だらけで道端に倒れており、そこに立っていたのは私がよく知っている人物だった。

「……天王寺くん? 何をしているの」

 彼は顔についた血を服で拭い、尻餅をついていた女性に手を差し出そうとしていたが弾かれた。

「触らないでこの化け物!!」

 恐怖に染め上げられていた女性は彼から逃げるように走っていた。

「何でここにいるの、櫻葉さん」

 私がいたことに気が付いたのか、天王寺くんはまたいつものように人を遠ざけるような素振りを見せた。

「たまたまここを通ったら悲鳴が聞こえたから……」

「そうだとしても、ここに近づかない方がいいよ。ケガするからさ」

「でも、天王寺くんだってケガしているよ」

「関係ないだろ、放っておいてくれ」

 どことなく少し寂しそうな表情を見せ、彼は路地裏を後にした。

「やっぱり見過ごせないな……」


「良いんですか、まだルート変更できますけど」

 リーネは半ば呆れたような顔をしていた。

「いいの。めんどくさい性格の子を分かってあげられるのは私しかいないから」

 こうして私は二面性のある優等生 天王寺隼人ルートに足を踏み入れていく。

 彼の中にある深い闇に触れるとはこの時思ってもいなかった。

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