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3話

 

 私、櫻葉琴音には悩みがある。その悩みは私の初期パラメーターの数値が低いことだ。可愛さ、かしこさ、かっこよさ、美しさ、この四つのスキルの最大値が二百に対して私の初期値は十だ。

 二百に至るまでどう頑張っても届く気配がないし、何より数値が低すぎる。

「こんなんでこのゲームクリア出来るのかな……?」

 朝起きて早々、私は自分の目の前に表示されている初期パラメーターにまた絶望していた。

だってあんまりだ、こんなの自転車で月に行けと言っているようなものだし、何より私はガサツで汚らしい女だと自分でアピールしているんだ。

 ……屈辱でしかない。

「ねぇ、リーネ。私のパラメーターを大きく上げる方法とか無いかな」

 私と契約を交わしたリーネは自身の魂を私の体に入れることで、バグから逃れた。

彼女は私の呼びかけで魂を再構成し、人の姿へ変化していく。雪のような輝きを持つ髪を靡かせ、リーネは優雅に現れた。

 ……同性の私が言うのもおかしいけど、リーネは綺麗だ。私と見た目の年齢は変わらないのに一つ一つの動作が大人びていて見ていて惚れ惚れする。

 

「朝から何を言うかと思えばそんなことですか、……良いでしょう。教えて差し上げます、今後に支障が出たらいやですから」

 リーネは呆れながらもパラメーターを大きく上げる方法を教えてくれた。

 この世界は乙女ゲームの世界ということもあり、主人公が攻略対象をスムーズに攻略できるようにパラメーターに沿った各施設が存在している。

 例えば運動場で運動すればかっこよさが上がり、教室で友達とファッションやメイクについて話をすれば美しさが上がる。

 こういった風に決められた日に施設を利用すればパラメーターは上がるとリーネは言う。

「ここからが重要です。攻略対象の男子たちといっしょにパラメーター上げをやれば通常よりも大きく上がります。まあ、五十上がるところが百に変わるだけですが」

 

「それでも充分だよ、リーネ! それで他の攻略対象の子たちはどこに?」

 

「ええ、今日ですと……二階堂明という三年生のキャラクターが運動場にいるみたいですね」

 学園のマップを目の前に表示させると、運動場には確かに二階堂というキャラクターの名前が出ていた。

 リーネ、バグの影響でシステムを把握できるようになったと言っていたけど、流石にここまでいくと開発者の域だ。

 彼女の正体は確かに気にはなるけど、今はそれどころではない。

 一刻も早くパラメーターを上げて攻略対象の子たちを全員攻略しないと私は元の世界に帰れないし、何より現実世界に最高値に仕上がったスキルを持っていけない。

 もう手段は選んでいられない。

 

 学内へと移動し、運動場へ向かっているとモブのキャラクターたちが廊下で何やら話し込んでいる声が聞こえてくる。

「二階堂先輩がいるサッカー部、マネージャー募集しているみたいだけど、私たちも入部してみる?」

 

「入部したいのは山々だけど……なんか顔採用みたいなのがあるみたいだよ」

 

 うわぁ……今の現代社会で顔採用しているとか二階堂とかいう男、何様なの。

 少し立ち寄りたくない気分になってきた。

 

「ここで二階堂明のイベントを逃しますと後々後悔しますよ?」

 実体化をすでに解いていたリーネは彼女たちの話を聞いていたのか、溜息をついていた。

 まだ春だというのに彼女の息に触れているだけで体の芯が凍えるような気持ちになる。

 このまま立ち止まっていたら、廊下全体が氷河期に突入しそうだ。

 

「わかった、行ってみるよ。直接本人に聞いた訳ではないし、決めつけるのはダメだね」

 

 運動場に続く扉のドアノブに手をかけ、外へ出ると私は……段差に躓いた。

 

「きゃあ!」

 

 私は忘れていた、例え現実世界で運動神経が良かったとしてもここは乙女ゲームの世界。

 現状の私は最底辺のステータスだ! ぶつかる……!

 

「っと、どこ見て歩いてんだお前」

 私は運が良いのか、悪いのか。

 今日のお目当てだった二階堂明に私はお姫様抱っこをされていた。

 陽に焼けた健康的な肌に無造作にかきあげられた茶色の髪、風になびくたびにまるで獅子のたてがみのように揺れ動く。

 サッカーのユニフォームから見える鍛えられた筋肉を見て私はつい、声が漏れてしまった。

「あ、ありがとうございます」

 恥ずかしさのあまり、急いで彼の手から離れる。

「あまり見ない顔だな、名前は」

 

 二階堂はまるで獲物を品定めするライオンのような目で私を見つめる。

 

「櫻葉琴音です、サッカー部のマネージャーになりに来ました」

 

 マネージャーと聞いた瞬間、二階堂は大きな溜息を吐いた。

 

「……マネージャー希望か、どうせお前も俺目当てで入部しようと考えているんだろ。ハッキリ言って邪魔だ」

 

 マネージャー希望といった途端、二階堂は嫌悪感をこれでもかというぐらいに示す。

 確かに彼の言う通りだが、私にはれっきとした理由がある。

 私は少し言い方に腹が立ち、反撃に出ることにした。

「何か自分が有名人だと言いたいみたいですが、私貴方の名前一度も聞いたことがありませんよ。うぬぼれないでください」

 

 まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔で二階堂は呆気に取られていた。

 それと同時に少し安心したような表情をしていたのを私は見逃さなかった。

 

「ふん、まあ良いだろう。マネージャーとして入部は認めてやる、正し一週間俺のトレーニングのサポートをすることが条件だ」

 

 一週間のトレーニングサポートは想像以上に地獄だった、強豪サッカー部のキャプテンである二階堂は練習の量が他部員より多く、マネージャーは彼をフォローすることが出来なかった。

 何故なら彼女たちは人気のサッカー部のマネージャーという立場が欲しかっただけで、特にサポートもしていなかったらしい。

 むしろ部の雰囲気を乱すばかりで二階堂先輩自らがマネージャーたちを首にしたと他部員から話を聞き、少し申し訳ない気持ちになった。



「櫻葉、パス練習手伝ってくれないか」

 部活終了後、他の部員が帰っている中で二階堂先輩はまだ練習をしていた。

 

「いや先輩またですか……流石に寮に帰った方がいいと思いますよ」

 

「まだ俺はやれる......心配しなくても大丈夫だ。ほら、ぼさっとしないでやるぞ」


「でも......」


 明らかに誰が見ていても疲れているのは明白だった。


「俺には支えなきゃいけない家族がいるんだ、放っておいてくれ。......早く練習するぞ」



 私は言われた通り、スパイクに履き替えて彼が蹴ってきたボールを止めてそのまま打ち返した。

 

「櫻葉、やるじゃねーか。見直したぞ」

 

 私自身、自分の能力が上がっていることに驚く。

 一週間ともにサッカーの練習をしていただけでかっこよさのパラメーターが最高値にまで近づくとは思わなかった。

 私、成長しているんだ。

 

 練習を終え、身支度を整えているとリーネがいつの間にか実体化していた。

「パラメーターが大きく変わりましたね。貴方なら出来ると思っていました」

 彼女なりに褒めているのがわかるが、嬉しそうには見えない。

「これで厄災の王に対する準備が進み、次のフェーズにようやく入れます」

 

「厄災の王? 何それ」

 あまりにも乙女ゲームには不釣り合いな単語が聞こえ、私はもう一度問いかけたがリーネは微笑むだけで答えようとはしなかった。

 

「明日もまた朝が早いのでしょう、早く帰りましょう」

 

 上手く誤魔化されたような気が……

 


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