29話 ノーマルエンド
私の視界にかけられていた霧が頭の中のピースが埋まり始めたことで徐々に晴れていく。
彼女の姿を私は知っていた。
久遠さんは一本一本が手入れされている黒い髪をよく靡かせ、私がよく落ち込むと慌てながらも私の好みに合わせたゲームを持ってきてくれた不器用な人だった。
私が彼女と初めて会ったのは親戚の葬式だった。
当時の私はまだ幼く、親に連れられて名前も顔も知らない親戚の葬式に行った。
両親は親戚の人達と会話に夢中で私の相手をする暇もなかった。
正直に言って帰りたい気持ちが強かった。
周りは誰も知らない大人ばかりで、子供がいても自分より年上の子達ばっかりだった。
途方に暮れていた時、久遠さんが私の元にやって来た。
「良かったら私といっしょにゲームで遊ばない?」
ぎこちない笑顔だったのは思いだした今でも覚えている。
子供の私から見ても久遠さんは子供との会話に慣れていないのが丸わかり。
私はそれがおかしくておかしくてからかった。
「おかーさんにしらない人とはなすなっていわれてるからはなさないよ」
「ええ、私一応、お母さんと面識あるんだけどなぁ」
少し戸惑いながらも、彼女はバックから横長の携帯ゲーム機を取り出した。
そして得意げな顔をして私に告げる。
「お姉さんが作ったゲームで遊んでみない?」
私は幼かったこともあり、すぐ甘い誘いに乗った。
「ゲーム、楽しい?」
「うん! くおんおねーさんが作ったゲームたのしいよ!」
久遠さんが作ったゲームはどれも難しいものばかりだったけど、私が楽しんでプレイしているときの顔はまるで母親のように優しい顔つきだった。
「……うん、そしたら今度はもっと面白いゲームを持ってくるからね」
私と久遠さんはその後も家が近いこともあってか、親が仕事でいないと時はよく面倒を見てくれた。
仕事で忙しい筈なのに私の無理なお願いにもすぐに乗ってくれて遊んでくれて、私は久遠さんのことが大好きだった。
ずっとこのまま仲良く遊んでいけると思っていたのに現実は甘くなかった。
私が小学校に上がってから、久遠さんは家に来る回数をどんどん減らしていった。
……当時の私は気づいていなかったけど、この世界に入って初めての攻略を終えた時に見た夢。
あれはまさしく久遠さんの記憶を映したものだった。
私が知らないとこでずっと苦しんできたのに私は思いだせなかった。
心の中で勝手に蓋をして思い出させないようにした。
中学時代に私が鮮血の女王になったという噂をどこで聞いたのか、久遠さんは私の家に来たことがあった。
「琴音、今は皆の正義の味方になって楽しいかもしれない。でもいつか傷つくことになるのは貴方なんだよ」
久遠さんは私がまだ純粋で幼かった子供だと思っていたのが丸わかりだった。
私を心配していたこともわかっていた、それでも私は聞き入れることが出来なかった。
皆に頼られるということが嬉しくてたまらなかったから。
「うるさいな、放っておいてよ! 私なんかどうでも良いくせに母親面しないで」
久遠さんはそんなどうしようもない私を最後まで見捨てなかった。
私が返信を返さないことも知っていながらも、私を心配したメールを送り続けた。
そして突然、メールが来なくなったある日。
久遠さんが自宅で亡くなっていたことを親から聞いた。
「……私のせいだ、私がちゃんと忠告を聞いていたら久遠さんが死ぬことはなかった。私が久遠さんと出会わなかったら……」
信頼していた友人に裏切られた時と重なっていたこともあり、私の精神はボロボロに近かった。
人間の体は優秀なのか、私がこれ以上追い詰めないように精神的ショックが大きかった久遠さんの死を思い出させないようにしてくれた。
体の機能としては正解なのかもしれない、でも私はこれまで大事なことも忘れてのんきに生きてしまった。
だからもうこれ以上、自分を許すことは出来ない。
「貴方とは長い付き合いだからね、今なに考えているかわかるよ。……私が死んだのは自分のせいだと思っているでしょ? それは違うよ」
私が考えていたことは既にお見通しだった。
やっぱり久遠さんは私の大好きなお姉さんのままだった。
「私が死んだのは自分のせい。周りには私を理解して助けてくれる人がいたのに私は救いの手を拒んだ。だから悪いのは私だよ、私が悪い」
久遠さんは学生時代、サークルの仲間といっしょにゲームを制作していたと話をしてくれた。
かげがえのない大切な思い出で今でも忘れることはないと言った、少しだけねじをつけ間違えたせいで解散しちゃったけどと苦笑いしながら言った。
「それでも諦めずにゲームを作れたのは琴音、貴方にもう一度笑顔になってもらいたかったからなんだよ。だから自分を責めないで」
私は誰かを傷つけることしか出来ないと思っていたのに。
大好きだった人の支えに私はなれていたんだね。
胸に溜め込んでいた大きな水は気づくと零れ始めた。
そして私はある事実に気付く。
このゲーム、黄金のシンフォニアをどうやって私の家に送ってきてくれたのか。
「それは根性で送ったってことにしといてくれないかな」
昔から久遠さんは嘘をつくのが下手だ、わかりやすい。
「それでこのゲームは楽しかったかな?」
鈍感な私でもわかる、これが久遠さんとの最後の会話だ。
「貴方が私にこのゲームをくれたから、私はここまで成長できました。貴方がいなかったら、私はずっと大切なことから逃げ続けていたと思う。本当にありがとう」
久遠さん、いやお姉さんは最後に微笑んだ。
「そう言ってくれて私は幸せ者だね。大好きな子が大人になっていく姿を見れないのは寂しいけど、琴音が自分の答えを見つけてくれたなら思い返すことはないかな」
真っ白な空間は徐々に崩壊していき、周囲の景色が壊れていく。
私はそのまま真っ暗な空間へと落ちていった。
目を覚ますと、私は見慣れた空間へいた。
……見間違える筈がない、現実の世界だ。
「ただいま、私」
そう呟くと、今まで体験した思い出が浮かんでき始めた。
自分自身の暴力体質に耐えながら孤独に生きて来た不良グループのリーダー。
間違った選択をしたせいで将来を壊したが、最後まで抗おうとした元アイドル。
自分の夢を叶えるために周りからの理想と戦ったサッカー部のキャプテン。
みんな大切な人で私に大事なことを教えてくれた人達。
過去の失敗もこれから起きる失敗も全部自分の物。
もう私は逃げない。
「また一から始めていこう」
だから見守ってて、お姉さん。
私は今日も前を向いて生きていくから。




