25話 二階堂ルートエピローグ
先輩の件から数日後、私の元に一枚の封筒が届いていた。
「宛先人は……」
封筒の裏に書かれていたのは私がよく知る名前だった。
二階堂先輩は全国大会で優勝を勝ち取った後、学校を休み始めた。
周りには特に何も言わずに突然いなくなったせいで学内では退学説が流れていた。
何度も連絡はしていたのに先輩は連絡を返さなかった。
私はそんなことないと思っていたからひとまず、連絡があって一安心。
封筒の封を開けると、そこには一枚のチケットと手紙が入っていた。
チケットには大学サッカーの詳細な内容が書かれており、手紙には電話に出れなかったことを謝る内容が書かれていた。
そしてそれを見計らったのか、私のスマホが突然鳴り始める。
「もしもし。今、大丈夫か?」
電話からいつも聞きなれた優しい声が耳に響いてくる。
正直、言いたいことはあったけど、気持ちを押し殺して電話に出る。
「何ですか、いきなり。私、マネージャーだから忙しいんですけど」
嘘だ、本当は忙しくも何ともない。
今日の部活は休みだから。
「明日、もし大丈夫ならここの学校に来てほしい」
電話口からでもわかる明るさに満ちた声に少し安堵する。
「先輩がそこまで言うのなら行きますよ、マネージャーなので」
翌日、私は無理を言って部活の休みをもらい、先輩から指定された学校に来ていた。
「千葉聖堂大学ってプロ排出してる強豪校だよね……?」
恐る恐る構内に入ると、遠くからでもわかる沢山の人の歓声が聞こえてくる。
歓声が聞えてくる場所に行くと今、まさに専用グラウンドで試合をしている真っ最中だった。
結構、白熱しているのか、中々点が決まらないようだった。
「おう、来てくれたのか」
声がした方向へ振り返ると、先輩が手を振っていた。
そこで私はある違和感に気付いた。
「……先輩、オファーは?」
少し申し訳なさそうな顔をして、先輩はこう告げた。
「最初にもらったオファーは断った。それも含めて違う場所で話そうか」
私は休日でも空いている大学の食堂に案内をされた。
先輩はとても言いづらそうにしていたけど決心したのか、口を開き始めた。
「俺はさ、櫻葉。お前もわかっている通り、臆病なんだ俺は。結局、周りの大人と話をして大学で実績を作ることにした。今の俺に足りないのは度胸なんだ、笑うだろ?」
「笑うなんてことはしませんよ。先輩が自分で悩んで選んだ答えなんですから」
だから先輩は自由登校が許される特待生制度を使って、大人たちと話し合いをしていたのか。
やっぱり二階堂先輩はすごい。
他人に理想を押し付けられても挫けずに立ち直ることが出来た。
自分の負の部分を認めて受け入れることが出来た。
「私には絶対真似なんか出来ませんよ」
「俺に大事なこと教えてくれた奴が何を落ち込む理由があるんだ」
屈託のない笑顔で先輩は私に笑い掛ける。
その笑顔に私は迷っていた。
自分が過去に他人に作られた理想像に縛られて、正義に酔って人を傷つけたことを。
私は最低な人間だ。
学校で虐められていた友達を助けるためにやってきたことが、学内の噂で広まったことで私は女の子たちの正義の味方になっていた。
櫻葉さんは弱い女の子たちの味方という理想に私はあろうことか、浮かれてしまった。
どこかで終わらせるべきだとわかっていたのに。
学校内で些細な揉め事があった際に私は事情もよく調べずに相手の言う通りに暴力に加担してしまった。
彼女たちに助けてと言われ、私の心は舞い上がってしまった。
何も考えずに他人に自分の舵を任せた。
後で話を聞いてみれば私に助け船を出した子が全ての元凶で、多くの生徒にちょっかいをかけていたことがわかった。
確かに言われて見れば、あのときの彼女の目は本当に助けて欲しい人の目ではなかった。
私はここで自分が今までやってきたことが全て間違いだったことに気付いた。
他人に目を行き過ぎていて大事なことを見失っていた。
……気が付くと私は二階堂先輩に自分の過去を一から全部話していた。
きっと嫌われるな、これは。
私はそれだけのことをやってきたのだから。
「……それだけか? 俺の方がもっと酷いだろ、何時間も部員を酷使していたんだそ」
「えっ、嫌わないんですか」
意外だった、てっきり怒られると思っていたのに。
「誰だって間違えるもんだろ。産まれてから聖人君主なんて奴はいない。それに櫻葉は何がいけなかったのか分かってるだろ?」
そうだ、最初からわかっていたはずだ。
私がいけなかったのは勇気をもって辞めることをしなかったこと。
ただそれだけのことだ、どこかで止まるべきだったのに褒められたことで調子に乗ってしまった。
「先輩には敵いませんね」
誰かを救ったつもりが救われるなんて思いもしなかった。
「俺はさ、将来、誰かに誇れるような人間になった時にプロになろうと思ってる。だから応援してくれるか櫻葉」
「もちろんです!」
元の世界に戻った際に私は過去に傷つけた子たちに謝らなきゃいけない。
きっと簡単には許してはくれないだろう。
でも何もしないまま、過ごすのはもっと駄目だ。
あの人に見合った人になれるように頑張らないと。
二階堂先輩といっしょに試合を見た帰り道、学校を目にすると突然、頭痛が走った。
前にも同じような経験があるような……?
そう、確か私は見知らぬ男性に出会っていきなり体が動かなくなって……
「なんだ、やっぱり覚えていたんだ」
目がぼやける中で視界に現われたのは一人の影だった。
段々と視界がクリアになっていき、暗闇に隠れていた人物の正体がわかった。
今時、珍しい制服の第一ボタンをきっちり占め、まるで日本人形のように整った顔立ちをした青年が立っていた。
目が合った瞬間、私の体が光り出す。
「最初のころと比べて聖女の力が強まっているんだね、関心関心」
「貴方、何、者……?」
「初めまして。僕は生徒会長の獅童凛。最後の厄災の王にして最後の審判」
砕けた口調に惑わされそうになるが、彼から溢れ出る瘴気は本物だった。
油断も隙もない。
まるで掴みどころがない水のような奴。
「今日はお疲れのようだから、また明日話そう」
そう告げると、彼は振り返りもせずに泡となって消えていた。
これが最後の攻略の相手、獅童凛。
何故だか胸騒ぎがしてならない。




