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24話 二階堂ルート5

「俺に逆らうとどうなるか、体に教えてやるよ」

 グランドにいた全ての人間がこちらを振り向くほど、虚像の王から漏れ出すプレッシャーは凄まじいものだった。

 どこにも逃げ場はなく、ただ死を待つだけの空間になり果てたこのグラウンドに赤津くん達十一人は前を向くことしか出来ない。

 本来なら私が介入して虚像の王、二階堂先輩の心の中に入り込めばいいだけだが今回はそれが出来ない。

 虚像の王を倒すには同じやり方で挑むしかないのだから。

 私に出来ることは彼らを信じることのみ。

 ……ただ巻き込んでしまった以上、私には責任がある。

「赤津くん、私には応援するしか出来ないけど頑張って」

 私は握手をするふりをして聖女としての力を一部だけ彼に分け渡した。

 もし、傷を負ってしまっても致命傷じゃない限りはどんな傷でも回復する。

 私に出来るのはここまでだ。

「絶対に先輩の為にも目を覚まさせますから!」

 変な誤解をしながらも赤津くんは戦地へと歩いていく。

 この試合はただの試合ではない、人間と厄災の王による争いだ。

 絶対に負けられない戦いだ。

 誰もが虚像の王の勝利を確信する中、試合の合図が鳴り響く。

 やはり腐ってもトップチームの主将、他の選手とは比べものにならない技術力をすぐに発揮していく。

 一枚、二枚、三枚とアタックを仕掛けてきたディフェンスをまるで赤子をあやすかのように軽々と交わしていき、ゴールを決める。

 だが私は見逃さなかった。

 虚像の王の周りには味方の選手がカバーに入っていたのにも関わらずに点を取った。

 確かにサッカーは点を取れば勝ちのスポーツだが、このスポーツは一人だけのものではない。

 キーパーやディフェンス陣がいるから簡単に点は入らないし、ミッドフィルダーがいるからゲーム展開が単調にはならない。

 そしてフォワードが彼らの思いを受けて点を取りに行くからこそ、サッカーというスポーツは成り立つ。

 チームで勝たなければ意味がない。

 その点では赤津くん達のチームは技術力が無い分、味方同士の適格な声かけとパス回しを駆使して相手チームのディフェンスラインを崩していく。

 トップチームは確かに選ばれるだけの実力はあるがチームとして成り立ってない。

「二階堂先輩、俺はアンタの人を活かすプレーに憧れてサッカーを始めたんだ。……それがなんだよ、このざまは」

 赤津君はディフェンスラインの裏を狙ったパスを的確に処理し、ゴールを決める。

「……たかが同点になったぐらいでいい気になるな」

 苛立ちを隠せなかったのか、次のプレーが始まるとドリブルに乱れが生まれていた。

 そしてそれを見た赤津くんはすぐさま攻撃を仕掛け、ボールを奪うとサイドに走りだしていたサイドバックにパスを回した。

「お前ら早く戻れ! この役立たずが!!!」

 赤津くんは言っていた。

 二階堂先輩はまるで空中にもう一つの目が空中に浮かんでいるのかと思ってしまうぐらいに空間把握能力に長けており、各ポジションに適した指示を出すことが出来ると。

 誰もが気持ちよくなれるサッカーを二階堂先輩は作り上げたんだと彼は言った。

「やめろ、やめろ、やめろ! やめてくれ!!!」

 虚像の王の咆哮は虚しく空に消えていく。

 最後に聞こえたのはボールがネットに入り込んだ音だけだった。

 

 

「……どうしてだ?」

 ゴールを決められたあと、虚像の王の声は震えていた。

 そしてそれに反応するように周囲に黒い霧が立ち込める。

「俺はあいつらと比べて上手い。だからこそ完璧な王にならなきゃいけないのに……こんな連中に負けたらプロになんか一生なれない!」

 赤津君たちはトップチームと戦った影響で今のこの状況を見ても逃げることが出来ない。

 私がやるしかないんだ。

 先輩をここまで堕とした責任は私にもあるのだから。

「自分の心まで傷つけるプロに何の意味があるんですか」

 私は知っている。

 二階堂先輩は誰よりも自分に厳しく、皆に優しい。

 だからこそ自分を曝け出すことが出来ない。

「俺は……何でプロになりたいんだっけ?」

 次の瞬間、私は気が付くとスタジアムのピッチに立っていた。

 これは……二階堂先輩の心の世界。

 観客席には誰もおらず、反対側のゴールに立っていたのは二階堂先輩だった。

 私はピッチに転がっていたボールを見つけ、先輩がいるゴールへと向かっていく。

 ゴールへ向かう最中に私を止めようと、先輩の記憶が降りかかってくる。

 プロチームのスカウトマンから多額の報酬を告げられたあと、誰にも言えず一人でプレッシャーと戦っている姿。

 サッカー部の監督やチームメイトに勝手に理想像を植え付けられ、それを演じる苦悩。

 みんなの夢を叶えるために先輩の心が崩れていくのがわかった。

 心の痛みは全て私に伝わっていく。

 虚像の王を、二階堂先輩を元に戻せるのは私にしか出来ないことだ。

「二階堂先輩」

 ゴール前にたどり着くと、先輩は私の声に振り返った。

「なあ、櫻葉。俺はどうしたら良かったんだ。周りからは理想の姿を押し付けられ、家族からは期待の眼差しを向けられる。俺に逃げ場なんて無いんだ」

 先輩の目から涙が大粒の涙が零れていく。

 正直、これから言う言葉は今の先輩を傷つけるかもしれない。

 でもこれを過去に言われた私だから言える。

「……先輩、私は今からあなたに酷いことを言うんで覚悟してください」

 私はどんどん先輩がいるゴールへ近づいていく。

「私が一番むかつくのは他人に生き方を曲げられること。自分の舵は自分の意思で取らなきゃ生きているなんて言えません。だから先輩、どんな結果になってもそれを受入れる覚悟を今から身に着けていきましょう」

 私が放った渾身のシュートは先輩が守るゴールネットを突き破った。

「自分の舵は自分で取る……か」

 先輩は自分自身で答えを得たのか、ピッチ上に倒れこんだ。

 そして同時に闇に染まっていた心の世界が消失した。

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