22話 二階堂ルート3
深夜十二時、昨晩の出来事のせいか、私は寝れずにいた。
そりゃそうだ、明日から私は誰も味方がいない状況でまたマネージャーをやらなきゃいけない。
怖くないと言えば嘘になる、不安で仕方ない。
でも逃げる訳にはいけない、彼を見てると昔の自分を見ている気になる。
慕ってくれる人達の想いに答えるために自分の身を犠牲にしてしまう。
そんな大馬鹿者を私は放っておける訳が無かった。
寮を出ると、冷たい風が私の身に降り注ぐ。
夜の学校は当たり前だが人はいない。
日中は人で溢れかえっている購買も教室も今は静寂を保っている。
まるで私だけしか人類はいないみたいだ。
現実世界でも夜の学校には縁が無かったから少し新鮮な気がする。
「そろそろ帰ろう」
ちょっといるつもりが長くいすぎたな。
明日に関わるから早く寝ないと。
寮に帰ろうとしている道中、私は目を疑う光景を見てしまった。
もう一時を回ろうとしているのにグランドには見覚えのある人物が……二人いた。
「……先輩?」
グラウンドには二階堂先輩が一人でシュート練習をしていた。
そしてその横には瓜二つの顔をしたもう一人の先輩が立っていた。
これ、どういうこと?
先輩は人格が厄災の王の力で変わった訳じゃないならあれはなに?
今まで不可思議な出来事に巻き込まれてきたけど、今回ばかりは頭が追いつかない。
先輩には申し訳ないけど、ちょっとだけ話を聞いてみよう。
二人に存在がバレないように私は抜き足差し足で近くにあった木の裏に隠れた。
「今日の部活の有様はなんだ、あれじゃいつか部員は倒れるに決まってる!」
先輩は横に立っていたもう一人の二階堂先輩のユニフォームの襟を感情に任せてきつく引っ張った。
「それで倒れるなら俺たちの王国にはいらなかった人材だったということだ。それにお前はアイツらに何をしてやれる? いきなり優しかった先輩に戻ったら誰もお前についてこないだろ」
「それは……」
「わかってるなら口を挟むなよ。俺はお前が考える理想の王になってやってるんだ。お前はいつも通り黙って夢の道を描いていればいい」
私が思っていた以上に先輩はかなり追い詰められているように見えた。
誰もが二階堂先輩に完璧な孤高の王様像を押し付けることで、先輩は誰にも自分の本音を話せていない。
あのままだと、いつかきっと理想の自分と今の自分の境目がわからなくなる時が来る。
私が茜という友人と出会えたことで自分が行ってきた過去の出来事に向き合えることが出来たように今度は私が誰かを救う番だ。
翌日、学校に登校すると中庭の前に大きな人だかりが出来ていた。
その原因の発端はやはり二階堂先輩だった。
二階堂先輩はスーツ姿の男性と話し込み、時折、笑顔を見せていた。
だけど先輩の笑顔には少し疲れが見えた。
野次馬の会話からプロチームのスカウトマンだということに気付き、私は急いで中庭に向かった。
私の気のせいかもしれない、でも先輩の存在が一瞬だけ消えたような気がした。
私が思っていた以上にこの世界に同じ存在が二人いるという状況はまずいかもしれない。
中庭に降りると、二階堂先輩はベンチに座って空を見ていた。
「……先輩、何だか調子悪そうに見えますよ」
誰かに心配されることが意外だったのか、先輩は私の声に疑いの目を向けてきた。
「プロになれるなんて凄いって言わないのか?」
「今は言える状況じゃないのは分かりますよ、だって私マネージャーですから。部員の体調ぐらい分かってないと」
「そんなこと言われるの久しぶりだな。……小学生の頃に親に怪我を心配された以来だ」
私は耳を疑った。
……この人は私が思っている以上にずっと孤独で戦ってきたんだ。
「先輩は今、楽しいですか? 私はそう思えなくて」
「……どうかな、最近わからなくなってきた。昔はプロになるのが夢だったんだ、だけど今は俺のせいで誰かを傷つけることが多くなってきた。正直、もう逃げ出したいよ、何もかも」
先輩の言葉に私は昔を思いだした。
友達を守るために行ったことがきっかけで私を慕う人が増え、いつしか私は鮮血の女王と呼ばれるようになった。
私はただ友達を守りたかっただけで、誰かを傷つけるつもりは無かったのに私につけられた異名は私を離してくれなかった。
櫻葉琴音は常に強者であればならないという理想を守るために私は……沢山人を傷つけた。
「私も同じです。……なんとなくで始めたことが誰かを傷つけることになって私は嫌になって逃げだしました。でも先輩はまだ戻れます、だから誰かに頼ることから始めませんか?」
自分でも先輩の前だと嫌な過去を喋れるのが不思議で仕方なかった。
「……ありがとう。でもそういう訳にはいかないんだ、現実ってやつは。お前と話をしてちょっと気は楽になった」
「それだと先輩の心が……っ」
二階堂は目を伏せ、少し沈黙の後、笑った。
「じゃあな、櫻葉。また部活で」
この日を境に先輩は私の前に現われることは無かった。
グラウンドには孤高の王がいるだけだった。




