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19話

 翔太朗は今ある地位を捨ててまた新たなスタートを切った。

 私も変わらなきゃいけない時が来たかもしれない。

 現実世界に戻ったら、彼に私の本当の姿を打ち明けよう。

 私は貴方が嫌いな不良だということを。

 トニーランドを出ると既に外は赤く染まっていた。

「あんなに人がいたのにやけに静か……」

 いくら閉園間際だといえ、流石に有名なテーマパークならまだ人はいる筈。

 ……まさかまた厄災の王の仕業?

 リーネに問いかけても一切反応は無かった。

 むしろ最初からいなかったような感覚にさえ陥る。

 おかしいとは思っていた、肝心な時には反応はしない。なのに攻略に行き詰まりそうな時にだけ出てくる都合のいいキャラ。

 ゲームだから当たり前なのかもしれない、でも彼女はこの世界が偽りだということに気付いている。

「どうやら私がいなくても大丈夫そうね、琴音」

 いつも聞きなれた声がした方向を向くと、風景がいつの間にか変化していた。

 人の感情が集まるテーマパークがあった空間は白く塗りつぶされ、そこには新たな色が足されていく。

 ゲームだから背景もすぐに塗り替わる?

 いやいくら何でも規格外すぎる。

 そんなことが出来るのはゲームの製作者だけ。

「貴方、リーネじゃない」

 目の前にいるのは確かにリーネだ。

 雪の結晶を溶かしこんだような透明な髪を靡かせ、こちらを見据えている。

 私が黄金のシンフォニアの主人公だったらすぐに自分が言った発言を撤回する。

 ……だけど私は外から来た人間だ、製作者に踊らされるゲームキャラクターじゃない。

 私の瞳には「リーネ」という一人の少女の皮を被ったもう一人の外から来た人間が見える。

「そう、確かに私はリーネじゃない。なら誰と言いたいところかもしれないけど今は答えられないわ」

 女は観念したのか、リーネの皮を脱ぎ去った。

 自分の体格よりも大きな椅子に座り込み、目元を隠している前髪から私を見つめていた。

 私はこの女性をどこかで見た覚えがある。

 信頼していた仲間に裏切られ、孤独の中で誰かのためにゲームを作り続けた人だ。

「わかりました。でもこれだけは教えてください……何のためにこのゲームを作ったんですか」

「……暗闇の中から私を救ってくれた子に良い大人に成長してもらいたかったからかな」

 確かにこのゲームは攻略対象が問題に立ち向かい、立ち直っていく話だ。

 彼女を救ってくれた子に向けたゲームならその子にやってもらえばいいだけ。

 これは私がやる必要はない。

 そう今までの私なら否定していた、だけどこれはあまりにも答えがわかる謎だ。

 頭の中で答えは出ているのに何かが邪魔して言い出せない。

「次の攻略対象を攻略すれば扉は開かれるわ。その時になったら思い出してくれればいいの。……琴音ならきっと孤独に苦しんでいる彼のことも救えると思うから」

「待って! まだ話したいことが……っ! リーネ!」

 彼女に触れようとすると、どんどん遠ざかっていく。

 まるでブラックホールに吸い込まれているようだった。

 私は何を忘れているのだろう。

 頭の中にある扉に触れても反応は無く、耳元には無機質な機械音声が流れるだけだった。

『セーブをしますか?』

 私は迷わず……

 

 

 気が付くと私は見慣れた校舎にいた。

 校舎でただ一人佇んでいることで暗い気持ちが増していく。

 そうか私は次の攻略から一人でやらないといけないのか。

 気は重くなったがやることは変わらない。

「この気配……厄災の王?」

 翔太朗とも隼人くんとも違う気配。

 私は気配の正体を知っていた。

「二階堂先輩、なの?」

 グランドへ向かうとサッカー部は寮の門限を過ぎていても練習をしていた。

 私がマネージャーをやっていた時とは違う異質な雰囲気がグランド内に浸透している気がする。

 大勢いるチーム率いてきた王様 二階堂明先輩はサッカーに対しては誰よりも真剣だ。

 チームメイトが帰っても一人で自主練をやるぐらい真面目で努力家な人だ。

 そんな彼が学校のルールを破ってチームメイトに練習を強制させるなんてことは有り得ない。

「お前らは俺のキャリアを輝かせる道具でしかないんだ。黙ってついてこい」

 やっぱり今回は先輩を攻略しないといけないのか。

 たった一人で。

 


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