18話 蘇芳ルートエピローグ
翔太郎のオーディションから約一週間が経った頃、彼から突然連絡が来た。
「明日、トニーランドに来い。来なかったら泣く」
意味のわからない連絡に戸惑いを隠せなかった。
でも正直、オーディションの結果が気になっていたのは事実だ。
私は短期アルバイトとしての契約期間が終わってしまったせいで、最後まで結果を知ることは出来なかった。
だからまた彼と会えるのは正直嬉しいかもしれない。
勿論、変な意味は無い。
「だって私には心に決めた人がいるのだから」
純粋に青く誰の色にも染まり切っていない青い空に向かって言い訳をかましながら、翌日を迎えることになった。
トニーランドは西ヶ原大学付属高校駅から三駅離れた場所にあり、一日の来場数が一万人を超えることもある有名な大型レジャーランドらしい。
平日にも関わらず、ランド内は人で溢れかえっていた。
翔太朗が言うにはヒーローショーが見られる施設に行けば会えるらしいけど……
そこに行くまでに体力削られそうだな。
案の定、読みは当たっていたのか、人混みの波に飲まれていたせいで私の体力はゼロに等しかった。
先に翔太朗から渡されていたチケットを係員の方に見せると、少し驚いた顔をしていた。
驚くのは当然だったかもしれない、私が案内された席は芸能人がお忍びで来るためのVIP席だった。
周りを見渡しても私が知っている芸能人はいなかったけど、私のような一般人が来ていいような席では無いという事だけはわかる。
「よ、約束通り来てくれたみたいだな」
翔太朗は自分が指定した時間通りにやって来た。
こういう約束は必ず守ってくれるのが彼の良いところだったりする。
「そりゃあ、一応元マネージャーだし。来ないわけにはいかないでしょ」
「相変わらず素直じゃない奴だな……今日は大事な話があってお前を呼んだんだ」
いつにも増して真剣な表情に私は身構えた。
「オーディションの結果はやっぱり駄目だった。でも正直わかってたんだ」
「そんな、あれだけ練習していたのに受からないなんて……」
私の目から見てもあの日の主役は翔太朗だったはずなのに。
「お前の言いたいことはわかるよ。でもずっと練習していた奴に俺が勝てる訳なかった」
以前までの翔太朗だったら適当な言葉を言って誤魔化していたと思う、でも今の彼は違う。
私が見ている彼の目は館内の暗闇を消し去ってしまうほど、情熱に満ち溢れていた。
「そこで俺は気付いたんだ、俺に足らないのは諦めない心だって。それに気づかせてくれたのは紛れもないお前だった」
「私は別にそんなすごいことはしていなよ、マネージャーやるのに精一杯だっただけ」
「そういう変なところで謙虚なとこ含めて俺はお前を好きになったんだよ」
突然の出来事に私は何も言えなかった。
いきなりおでこにキスする馬鹿がいるか!?
「す、蘇芳翔太朗!!」
「そろそろショーが始まるからじゃあなっ!」
とびっきりの笑顔を振りまいて闇に溶け込んでしまった。
何も言う言葉が浮かばない……私には彼が待っているのに。
ヒーローショーが始まると、以前彼が言っていた一からやり直すという言葉の意味が分かった。
翔太朗は主役であるヒーローでもなく、そしてヴィランでも無かった。
彼はヴィランの手下でヒーローに簡単に倒される役だった。
一時は多くのファンを抱えていたアイドルグループのリーダーが今はヒーローショーの雑魚役にまで落ちぶれたと言う人もいるかもしれない。
でも彼のやられっぷりは会場のボルテージをあげるために必要だった。
持ち前の身体能力を活かして、ヒーローに挑んでやられていく姿は目に焼き付くものがあった。
今まであったキャリアを捨ててまで、地道に頑張っていく姿に私は……
「本当にこのままでいいのかな、私」
このゲームをクリアすればゲーム内で上げたステータスを現実に引き継げるとリーネから聞いていたけど、翔太朗のように苦境な立場に立たされても諦めない心を見たら間違っているような気がしてくる。
私は私らしく生きていく。
どんなことがあっても翔太朗のように立ち向かわないとダメなんだ。




