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17話 蘇芳ルート5

「俺にやり直す資格なんかねえよ」

 蘇芳の一言で瘴気は再び力を取り戻していく。

 瘴気は徐々に彼の後ろに集まっていき、大きな姿へと変化しようしていた。

 その形はまるで新しい進化を秘めている蛹のようだった。

 蛹からはとてつもない闇の力を感じる……

 このままにしていたら得体の知れない化け物が生まれるのも時間の問題。

 もしかして今回のルートがタイムリミットをつけられているのはこういうことだったのか。

 既に私は二回もゲームオーバーになり、やり直している。

 慎重に行かないといけないのがわかっているのにこの現状を見ていられない自分がいた。

「なら私といっしょにやり直そう、怖くなんか無いよ」

 全身の力を抜き、片腕にありったけの聖なる力を集めていく。

 ちょっと痛いかもしれないけれど、歯ァ食いしばってね。

 軸足を固定し、大きな音と共に私は蘇芳の後ろにいる悪意の塊を拳で打ち抜いた。

 衝撃音と共に打ち抜かれた塊は光の中へ消えていったのが分かった。

 肩の荷が下りたのか、蘇芳は倒れていた。

「アンタの本気のダンス、早く見せてよね」

 この言葉が聞こえたのか、悲しみで溢れていた劇場は終幕をした。

 

 

 目を覚ますと、私は何故か椅子に座っていた。

「あ、ようやく起きた? そろそろ蘇芳くんのオーディション始まるよ」

 声をかけてきたのは同じ事務所に在籍しているマネージャーの先輩だった。

 少し話を聞いてみると蘇芳くんの力なのか、会場にいた人達は自分たちが眠らせられていたという事に気付いていないようだった。

 その後もオーディションは問題無く進んでいき、いよいよ蘇芳くんの番が訪れてきた。

 さっきの事もあるし、少し様子を見に行った方がいいな。

「あ、櫻葉ちゃん」

 控室から出て来たばかりの蘇芳の顔は気のせいか、晴れやかな顔をしていた。

 まるで憑き物が落ちたような。

「……体調は大丈夫なの?」

「問題ない、むしろ良いぐらいかな。逆に俺の……力のせいで変な気分になっただろ」

 心配するつもりが、逆に心配されちゃったな。

「俺さ、少し考えたんだ。オーディション前に言うのはおかしいけどこれを機に一からやり直そうかなって」

 やり直すということはつまり、今の作り上げた地位を捨てるということ。

 生半可な覚悟じゃ出来ないはずだ。

「手を抜くつもりは勿論無い、だから見ていてくれ。ベンナッシュのリーダーの最後の有志を!」

 オーディションスタッフに呼ばれた蘇芳は最後に私と握手を交わし、ステージへ向かっていった。

 緊張しているのは握った手の汗でわかった。

「がんばれ、蘇芳」

 観客の歓声と共に幕を開けた。

「……お願いします」

 審査員の誰もが眉をひそめている。

 それは当然かもしれない、真実を知らない彼等からすれば蘇芳は曰く付きの人物だ。

 でもそれも今日で終わりだ。

 その覚悟が今の蘇芳から感じられた。

 会場から音楽が鳴り始めると、場の空気は一変した。

 最初の一拍、彼の体が跳ねるように動いた。

 そこから先は、魔法のようだった。

 脚がステップを刻み、腕が空を切る。

 肩の動き、腰のひねり、指先の角度まで全てが洗練されていて、作り物じゃない彼だけのダンスが見る人全ての目を奪っていた。

 見ているだけで息を飲んでしまう。

 ただ綺麗だけじゃない。

 汗に滲むシャツ、張り詰めた空気、震えるような集中。

 全部が彼を物語っていた。

 彼の今までの努力は傍で見ていて分かっていた。

 あの虚構の中でアイツは蘇芳はずっと自分を責めていた。

「仲間を正しく導けなかった俺は最低だ」

「俺はファンを傷つけた最低な奴だ」

 でも今は違うと私は否定できる。

 今、ステージで踊っている蘇芳はちゃんと立ち上がることが出来た。

 虚構じゃない、本物の蘇芳翔太朗だ。

 最後のターンを決めて、彼は軽く息を切らせながらポーズを取る。

 ほんの一瞬、会場が静まり返った。

 そして次の瞬間、大きな拍手が沸き起こった。

「……やったね、翔太朗」

 私は思わず呟いた。

 涙なんて出る訳ないと思っていたのに。

 気付けば頬に一筋、流れていた。

 彼の背中にはもう罰は背負っていなかった。

 彼自身の意思で踏み出した、まっさらな一歩だった。

 そして私は確信する。

 ここから蘇芳翔太朗の物語は始まっていくんだなと。

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