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15話 蘇芳ルート3

 元ベンナッシュのメンバーが昏睡状態になってから蘇芳の様子は誰が見てもおかしかった。

 どんなに平気そうな顔をしていてもパフォーマンスに覇気が無くなっているのがわかった。

 やっぱりこれは厄災の王の力だ、あの時の公園の出来事もセーブデータをやり直す前に起きた事も全部。

 私は彼の撮影の合間にリーネと少し話をすることにした。

「……リーネ、いるなら出てきて」

 数か月使われていない資材倉庫へ入ると私は自分の体の中で眠っているリーネに呼び掛けた。

 私の呼びかけに応えたのか、火の玉のような形から人型へと変化していく。

「貴方が聞きたいことはわかっています、彼の事でしょう」

 今、眠りから覚めたはずなのにリーネは既に私が聞きたいことをわかっていた。

 話が早くて非常に助かると言いたいところだけど、彼女の物分かりの良さがたまに恐ろしく感じる時がある。

「うん。彼の昔の仲間が突然前触れもなしに昏睡状態になった。私がずっと傍にいたのにも関わらず」

 公園で見たバグが見せた過去の映像、セーブデータをやり直すことになった蘇芳の謎の能力。

 このことから蘇芳の厄災の王としての能力は天王寺くんとは違った面で強力だ。

 少しでも選択肢を間違えばセーブデータをやり直さないといけない。

「彼が自分で能力を使っている感じはありますか?」

「うーん、私が見ている限りはそうは思わなかったかな。能力を使っていた時も目が虚ろだった」

 公園で初めて能力に巻き込まれた時、彼の顔から生気は感じられなかった。

 まるで無意識に能力を使っているような……

 そこで私はある事実に気付く、どうして私はこんな簡単な出来事に気づかなかったのだろう。

 厄災の王に襲われる前に取り憑かれた攻略対象たちを攻略する、つまりそれは裏を返せば彼らが厄災の王として自覚を持ってしまえば攻略は不可。

 勿論、私は現実世界に帰れなくなる。

 今まで蘇芳は無意識的に能力を使っていたのが自分の元仲間までを巻き込んでしまった。

「これ……やばいんじゃ」

 心臓の音が少しずつ大きくなっていく、まるでこの後起きる出来事がわかっているような。

「気づいたようですね。私が言えることはただ一つ、自分の意思をしっかり持つことです」

 リーネはそう言ってまた私の中へ戻っていった。

 こうしている間にも誰かが能力に巻き込まれているかもしれない、戻らないと。

 急いで撮影スタジオに戻ると予想は当たっていた。

「……俺はただ、マネージャーと普通に話をしていただけなのに」

 蘇芳の目の前で倒れていたのは私の上司である鈴鹿さんだった。

 彼は自分でも何が起きたのか、分かっていない状態だった。

 周囲の人たちは勿論、厄災の王なんてものは知らない。

 だからこそ彼らは今、起きた出来事に対処するしか無かった。

 鈴鹿さんは無事に救急車に運ばれ、少し時間が経ったあとに撮影は再開することになった。

「ちょっと、蘇芳くん! やる気ないんだったら帰ってくれるかな!」

 だが蘇芳の調子は戻らなかったのか、カメラマンの人に何度も何度もやり直しをさせられていた。

「すいません、私からも注意はしとくのでもう一度やらせてあげてください!」

 鈴鹿さんがいない以上、彼を守ってあげられるのはマネージャーである私だけだ。

「……お前」

 私が頭を下げるのが意外だったのか、驚いた顔をしていた。

「さ、気を取り直していこうよ! 鈴鹿さんならきっと大丈夫だから」

 こうして蘇芳は調子を取り戻したのか、撮影は成功に終わった。

 

「……悪かったな、さっきは」

 事務所へ戻ると第一声、蘇芳は私に頭を下げた。

 正直、意外だった。

 アイドルとしての実力はあるのはわかっていたけれど、ちゃんと人に謝ることは出来るのか。

 ……ならなんでベンナッシュは解散したんだ?

「別に。ちゃんと仕事をしてくれたからいいよ。それとさっき病院から連絡があって鈴鹿さん命に別状はないって」

 これはハッキリいって嘘だ、でも彼の覚醒を一時的に抑えられるなら私はいくらでも悪者になってやる。

「鈴鹿さんは……俺がグループの解散の原因になった時でもずっと支えてくれた恩がある。だから本当に良かったよ」

 蘇芳の過去、週刊誌では面白おかしく書かれていたけれど、ずっと傍にいたから分かることがある。

 やる気がないと言っていたのにも関わらず、ちゃんと仕事に向き合っている。

 アイドルに対しても手を抜いていない。

 それなのに自分を悪く言うような素振りが目立つのは過去に何かがあったに違いない。

 でも簡単に過去を聞いていいものなのかな。

 するとゲームシステムは私を嘲笑うかのようにまた選択肢を出してくる。

「神妙な顔してどうしたの?」

 優しそうな表情で私に笑いかける蘇芳に私は……切り込まなきゃいけない。

「もし、辛いんだったら話はしなくてもいい。過去に何があったか、教えてくれるかな」

 蘇芳は私の一言で顔の表情を変えた。

「……俺は最低な人間なんだよ、メンバーの期待を裏切った。ただそれだけの事」

 明日のオーディションがあるからと蘇芳は逃げるように事務所を出て行った。

「本当にこれで良かったのかな」

 翌日、私の予想は大きく当たることになった。

 

 オーディション会場は約二百人が入ることができる小規模なライブハウスだった。

 会場に入るとそこに広がっていた光景は地獄のようなものだった。

 オーディションのスタッフ、お客さんたちは地面に倒れており、特設ステージには蘇芳一人だけが立っていた。

「……ごめん、櫻葉ちゃん。俺、やっぱり駄目な人間だったよ」

 彼の一言でオーディション会場は黒い瘴気に飲まれていった。

 


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