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14話 蘇芳ルート2

 私は今日から正式に蘇芳翔太朗のマネージャー見習いとして働くことになった。

 マネージャーさんは彼に雑な対応を取られても嫌な顔を一つせず、彼が再び輝けるのを信じて仕事を見つけようとしていた。

 でも、近くで仕事を見学していてわかったことがある。

「彼と仕事をしていてもいつ彼が不祥事を起こすか分からない」

 あるテレビ局のプロデューサーは渋い顔をしながら語る。

「次、ウチのアイドルに手を出したら容赦はしない」

 大人気アイドルグループを多く抱える事務所の社長は青筋を立てながら語る。

 そう、彼はどんなに実力があっても虚構に逃げてしまうせいで業界からの評判が圧倒的に悪い。

 今更ながら改めて不祥事の多さに頭を抱えるしか無かった。

 

 ジリジリと地面から来る熱気から逃げるように私たちは冷房が効いているカフェにやって来た。

「……ごめんね、こんな事態に巻き込んで」

 マネージャーさんは頭を抱えていた。

「いえ、別に私は好きでやっているだけなんで」

 そうは言ったものの、大人がうなだれている姿を見ているとやはり心配になってくる。

 部外者だった私が突っ込んでいいのかな。

 色々と試行錯誤をしていると、私がそわそわしているのが分かったのか、彼女は口を開いた。

「言いたいことはわかるよ、どうしてあんな奴に一生懸命になるのかって。皆、彼の態度に呆れて辞めちゃった人ばかりだし」

「ならなんで見捨てないんですか」

 彼女は少し考えた後、ため息をついた。

「私、彼がベンナッシュのリーダーをやっていた時からのファンだったの。とてもファン思いで握手会があった時なんか、ファン一人一人の顔や趣味まで覚えていて全部誠心誠意に対応してくれた。だからあんなことがあっても私は見捨てないって決めているんだ」

 彼女は誰が見てもファンの鑑だった。

 どんなに彼が虚構に逃げてもこの人は手を差し伸べ、見守ってくれる。

 私には分からない絆があるのが見えて来た。

 ならどうして……彼はいつまでたっても現実と向き合えないのだろう。

「今の時間ならきっと練習しているはずだから事務所に行ってみなよ」

「え、でも……」

「私の事はいいから、行きなよ。貴方なら彼の心を溶かせるかもしれない」

 上司に命令された以上、私は事務所に行くしかなかった。

 

 事務所に併設されているスタジオに行くとマネージャーさんの言う通り、本当に彼は練習をしていた。

 スピーカーで音楽を流しながら、普段の彼からは想像出来ないような野性的なダンスを鏡の前で踊り、スマートフォンで自分の動作を一枚一枚見直していた。

「だからこそなんで虚構なんかに逃げるのかな」

 素人目から見ても蘇芳の踊りはプロ級だ、私がオーディションの審査員だったら満点を出してしまうレベル。

 やっぱり昔、なにかあったのかな。

「見てないで入りなよ、マネージャーなんだから」

 ふと気が付くと目の前に蘇芳が立っていた。

 汗で張り付いている練習着を見るに相当な時間練習していたのが分かった。

 普段着と違って意外と筋肉がついていることに私は思わず釘付けになっていた。

「はは……バレてたか」

「それで、見ていたなら俺が言いたいことは分かるよな」

 彼が言葉を言い放った途端、私の目の前には二つの選択肢が現れた。

 ダンスを見て素直に思ったことを話すか、昨日の出来事について聞くか。

 ここで選択肢を間違えれば私はマネージャーさんといたカフェにまで戻されることになる。

 慎重に言葉を選び、私は……

「それより昨日、変な場所にいたよね。また変なことしたらマネージャーさんが可哀そうだよ」

 失敗した。

 直感が当たったのか、私は彼の背後から溢れ出る黒い瘴気に気付くことが出来なかった。

 瘴気は私の体をどんどん包み込み、そして最後には意識を奪っていった。

「……逃げて何が悪いんだよ」

 彼の重い一言は私の胸に響いた。

 

 意識が覚醒した私はマネージャーさんの話をしっかり聞き、そして大急ぎで事務所に戻ってきた。

 油断、していた。

 彼は今、大きな分かれ道にいる最中だったんだ。

 私が真実を知るために急いだせいで彼に逃げる選択肢を与えてしまった。

 次は間違えない。

「見てないで入りなよ、マネージャーなんだから」

 私はイレギュラーな存在だ、選択肢が来る前に私なりの声を届けられるはず。

「さっきのダンス、正直いってかっこよかったよ。……貴方にファンがいる理由、わかった気がする」

 私が褒めることが意外だったのか、大笑いをした。

「そっか、そっか。そんなに俺の事好きになっちゃったのか」

「好きになってない、調子に乗るな」

 思いっきり加減をして蘇芳の肩を軽く殴った。

「オーディション、やっぱり出ることにした。素直に見てくれたのはお前とマネージャーさんだけだったよ」

「なんでいきなり……?」

「自分でも分からない、でもここで諦めたらあいつらに顔向けできない気がしてさ」

 私は彼を誤解していたかもしれない。

 誰だって嫌なことがあったら逃げたくなるのは当然、蘇芳は逃げるやり方が人とは違うだけのこと。

 また虚構に堕ちそうになったら私が今度は救いあげる。

 スタジオにあったテレビから衝撃的なニュースが流れる。

 

「オーディションに参加する候補生が昏睡状態に?」

 思わず私は蘇芳の顔を見る。

「は……どうして」

 彼は恐らく……自分が厄災の王になっていることに気付いてないようだった。

 まさか自分がベンナッシュの元メンバーを昏睡状態にしたことなんてことを。

 

 


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