12話
翌日、私とリーネは今後の作戦について話し合うことになった。
「本当に何で次がアイツなの……」
机の上に広げられた資料を指でなぞる。
そこには「蘇芳翔太朗」のプロフィールがまとめられていた。
元アイドルグループ「ベンナッシュ」のリーダーで現在はソロ、爽やかなルックスから女性人気が高い。
でもその裏では素行不良の噂が多く……
「書いてある内容がすごいんだけど。ナンパ、遅刻魔、暴行疑惑、週刊誌常連って、本当にアイツが攻略対象であってる?」
「ええ、間違いなく彼が攻略対象ですよ。それに素敵じゃないですか」
「でも……」
「現実世界に戻って好きな彼にまた会いたいのでしょう?」
リーネの無言の圧力に耐えられる自信が無かった。
この世界で最高値に上げたパラメータを現実世界に引き継げば、彼に見合った女になれる。
どんな手を使おうとも必ずやり遂げると決めたには……やるしかない。
何もない私に誰も見向きなんてする訳ないのだから。
「貴方ならきっと彼のことも救えるはずです、大丈夫。それとこれは大事なことなので伝えておきますね。……今回のルートからタイムリミットが設けられるみたいです」
「タイムリミット?」
リーネが言うにはこの蘇芳翔太朗ルートでは天王寺隼人ルートと違い、少し難易度が上がっているらしく、少し選択肢を間違えるだけでやり直しになるらしい。
「ですがこれはあくまでも正規版での話です、バグが発生している以上はどこからバットエンドになるかは私でも分かりません」
「つまりこまめなセーブが大切ということね」
一回バットエンドを迎えている私にとってセーブの大切さは身に染みていた。
とりあえずこの蘇芳翔太朗ルートに入る前の共通ルートをセーブしておこう。
「私はひとまずいつも通り、霊体化しているので蘇芳翔太朗ルート頑張ってください」
彼女の励ましを受けてもなお、気が重かった。
「さて、と。やるしかないみたい」
自分に言い聞かせるように気が進まない手を動かし、マップを開いた。
蘇芳の顔はまだハッキリ見ていないからか、マップにはハテナマークが浮かんでいるだけだった。
放課後になり、移動すると蘇芳翔太朗が校門前で誰かを待っている素振りを見せていた。
ウチの高校の制服を着ているってことは同級生なのか……
「ん? 君は……」
「……アンタのせいでケーキ逃がしたんだけど」
本人は忘れていたのか、ケーキという言葉を聞いてすぐに思い出したようだった。
「ああ、あの時の。ごめん、ごめん。綺麗な顔を見たらすぐに思い出したよ」
「絶対、嘘」
まるで悪びれもなく蘇芳は冗談を続けていく。
「本当だって、まあこれも運命なんだし……この後デートでも行かない? なんなら芸能人紹介しよっか?」
「……」
本当にこの人のどこがかっこいいんだろう、全くときめきもしない。
「やっぱり君、面白いね。見込みがあるよ、マネージャーに」
彼は不意にサングラスを外し、まっすぐ澄んだ瞳で私の目を見つめてくる。
「冗談なら面白くないよ、つまらない」
「いやいや本気本気。今までのマネージャーは皆、俺の過去に期待するか、幻滅するかのどっちかなんだよね。でも君、俺のことマジでどうでも良さそうだった」
「……うん、実際そうだけど」
「最高じゃん、それ」
彼はこれがアイドルだと言わんばかりにニコリと笑うが、私にはそれが笑顔には見えなかった。
その笑顔には何か寂しさがあるように見えた。
「気が向いたらこの電話番号に電話してね、そしたら事務所の人が対応するだろうから」
一枚の紙きれを渡し、蘇芳は手をひらひらさせて校門の外へ歩いていった。
彼から渡された紙切れを見ると、そこに書いてあったのはメールアプリのIDだった。
おそらく彼のものだろう。
「本当、なんなのアイツ」
紙を握りつぶし、急いで彼の後を追った。




