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10話 天王寺ルート エピローグ

 隼人くんを救ったその日の夜、何故だか私は強烈な眠気に襲われていた。

 明日の学校への準備をしようと考えていたのに体は鉛のように重かった。

「……仕方ない、寝よう」

 ゲームの世界とはいえ、私は一人の少年を救った。

 あまり慣れないことをやってきたから体が疲れたのだろうと勝手に解釈し、布団の中へと入った。

 体に身を任せ、ゆっくり瞼を閉じた。

 静まり返った部屋の中に届いたのは心地の良い子守唄のようなノイズ。

 少しずつ意識は遠のいていき……

 気付けば私は真っ暗な映画館にいた。

 周りを見渡しても私以外誰一人、存在していなかった。

 目の前の大きなスクリーンには私がこれまで体験してきた隼人くんとの日々が映し出されていた。

 まるで上映が始まる前のコマーシャルのような感じだ、そもそもこれは誰が見ていたんだ?

 私の脳内には既にはてなマークで埋め尽くされていた。

 暫くすると上映が始まるブザーが鳴り、館内は徐々に暗くなっていく。

 真っ白なスクリーンに映し出されたのは一人の小柄な女性だった。

 彼女は真っ暗な部屋の中で黙々とパソコンに向かい、文章を書いていた。

「私は誰かに笑って欲しかったのに、ただそれだけだったのに」

 館内から響く女性のナレーションは聞いているだけで心が苦しかった。

「もう戻れないのならいっそ……」

 彼女の一言で場面は切り替わった。

 

 次にスクリーンに映し出されたのは大勢の人で賑わう教室のような場所だった。

 先ほどのシーンとは異なり、明るく人々の笑い声が聞こえてくる。

 机に集まっていたのは前の場面で孤独に執筆活動をしていた女性だった。

 周りにいたぼんやりとした影たちと幸せそうにゲーム制作について語り合っていた。

 だけど段々と周りの声が少しずつ変化していった。「

「金になる」

「売れれば何でもいい」

「客の声なんか聞かなくていい」

 そんな聞きたくもない言葉が耳に聞こえてくる。

 最低だ、この人達。

 幸せそうに笑っていた女性の顔は見る影もない。

「……あの日、約束した事も皆、忘れていた。理想なんてものは存在しないことを改めて知った。私なんかいなくてもいい存在なんだ」

 彼女はメンバーに何も告げずに一人で外へ出て行った。

 その姿を夕日だけは照らしていた。

 

 また場面は切り替わっていた。

 女性はまた一人、暗い部屋でパソコンに向かって作業をしていた。

「あれこの人、さっきと違って笑ってる?」

 暗い印象は変わらないけど、雰囲気がちょっと柔らかくなったような気がする。

「一度は諦めかけた。……でも」

 彼女の机には何も書いていないパッケージと天王寺隼人編と書かれていたメモ、そして誰かは分からない小さな女の子と写った写真が置いてあった。

 一瞬、その写真に笑いかける女性の顔が映る。

 その顔は誰よりも幸せに満ちていた。

「君が私に生きる希望を与えてくれた。もう一度、夢を見ていいって思えるようになったんだ」

 どうしてだろう、私の目には何故か涙が浮かんでいた。

「私、こんな人知らないのに。どうしてこんなに温かいの……」

 溢れ出る涙が目の前の映像を流していき、私の意識はそこで途切れた。

 

 ふと空気が揺れた。

「おはよう、琴音」

 重たい瞼を擦ると、目の前にリーネが立っていた。

 柔らかな銀髪を靡かせて、優しくどこか切なげな表情を見せていた。

 同性ながら少し、目を奪われた。

「今日もまた頑張りましょう。この世界から脱出するために」

「うん、言われなくてもね」

 知らない内にリーネの好感度が上がっていたことに気づくのは数秒後だった。

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