1話
T県夏木市、東京から約三十分以内にあるこの都市にはある噂が蔓延っていた。
若干十五歳で市内の不良をたった一人で締め上げた伝説の女番長、鮮血の女王がいると。
「お前があの鮮血の女王か?」
逢魔が時、空は真っ赤に染まり切っていく中、人通りが少ない路地裏で私は自分よりも背丈の高い男二人に囲まれていた。
か弱い可愛らしい少女の私が大の男二人に囲まれているのに街を歩く人々は誰も私を見ることはしない。
「……もし、そうだと言ったらどうするの」
まさかよりにもよって私一人のときに絡まれるとは運がないな。
「ウチの後輩がお世話になったからなぁ、先輩としてお礼はいわないどっ!?」
───金的必勝、下卑た笑いを浮かべた大男は突然の出来事に対応しきれずに股を抑えて倒れた。
「て、てめぇ!?」
一瞬の隙を狙い、私は一直線で路地裏から抜け出した。
「もう私は不良は辞めたんだよ」
T県夏木市にいた鮮血の女王という伝説の不良は私のことだ。
幼少期から両親に自分の身は自分で守るべきだと教えられた私は空手を習い、それが上手くハマったのかみるみる実力は伸びていった。
中学生になり、体も大きくなった私は妙なことに変な正義感が湧いてしまった。
自分の友達を虐めた子を喧嘩で倒しちゃったら、気づくと私はみんなの正義の味方になっていた。
鮮血の女王とかいう大層な名前をつけられたせいで、色々な不良チームと争ってきた。
他人に迷惑をかけまくっている奴、弱者を搾取している奴と数えるだけでもキリがない。
ある事件をきっかけに私は不良を辞めた。
そんな中で私は……運命の人と出会った。
彼の髪は絹のようになめらかで、そして少女のような可憐な容姿、そして時折見せる少年らしいあどけなさが残る可愛いらしい笑顔。
私は一目見た瞬間に彼に夢中になった。
「ごめんね、気持ちは嬉しいんだけど。流石に男としての面目が立たない気がする……」
申し訳なそうな笑顔で彼はやんわりと私を振った。
彼の言葉で気づいた、私は他人にばかり目が行き過ぎる。
私は神に誓った、もう他人の為に自分を犠牲にする必要はないんだってことを。
私はその日をもって鮮血の女王の座を降りることにした、可愛らしい女の子になって彼に好きになってもらうために。
そして現在、鮮血の女王の座を降りたのにも関わらず、さっきのような得体の知れない男達にたまに襲われる。
いい加減疲れてきた。
「おー、ようやく喧嘩終わった感じ?」
「はあ、茜も手伝ってくれたら良かったのに……」
追手を撒いた私は中学時代に苦楽を共にした諏訪茜と合流をすることができた。
茜はガードレールに座っているだけで多くの人たちの目を奪っていた。
芸能人顔負けの整った容姿を持ちながら、私と同じ不良チームに参加をして綺麗な顔
をよく傷だらけにしていた。
当時、余りにも疑問に感じた私は本人に直接話を聞いた。
「なんで琴音といっしょにいるのかって? そりゃあいっしょにいて楽しいからだよ」
ふん、おもしれ~女。
何はともあれ、私と茜は高二になった今も一緒にいる。
場所を変え、ファミレスに移動した私たちは本当に他愛のないどうでも良い話で盛り上がった。
茜はアルバイトで読者モデルもやっているから、最近の流行りもすぐに入荷できちゃう。
……成功するとは限らないが。
「ほーんとに勿体無いよね、琴音は。こんなにかわいい顔をしているのに」
真っ白な肌をした細長い指が私の顔をゆっくり触っていく。
同じ同性であってもたまに茜はドキッとさせるような素振りを見せてくる、私が男だったらイチコロだ。
「私も原因が分かれば良いんだけど、全くわからないのが現状だよ」
茜は私の言葉がツボに入ったのか、大笑いをした。
「だって琴音、アンタ、普通の男の子よりも喧嘩が強いんだよ? 男の子は皆、女の子を守りたい生き物だってことを理解しないと」
―――――脳内に稲妻が走る。
「う、嘘でしょ……」
私はショックで頭からカロリーという言葉を消し去り、夢中で食べることにした。
茜と別れた帰り道、突然スマホから着信が鳴り響いていたことに気づいた。
「差出人は不明……? 何かファイルが付いている?」
駄目だとわかっていたのにも関わらず、私はファイルを開いた。
ファイルに入っていたのは十年前に亡くなった一部で有名なゲームクリエイターの記事だった。
「誰だろう、これ。何か見覚えのある人のように見えるけど……」
記事には有名なゲームクリエイターと書いてあるから、どこかで見かけたのかな。
少し気味が悪いと思い、送られてきたアドレスはゴミ箱へと放り込んだ。
自宅へ帰ると、お母さんから私宛の荷物があると言われ、箱を受け取ってみると少し重かった。
プロゾンで何か購入した覚えはない……はず。
自分の部屋に行き、箱を開けてみると中に入っていたのは四人のイケメンが描かれている黄金のシンフォニアという乙女恋愛ゲームだった。
「もしかして……茜が私に送ってきた、とか? いや茜に限ってそれはないはず」
こんな周りくどいやり方は茜は好まない。
そうなるとこのゲーム、どうするべきかな……
ゲームなんて小学生以来やったこともないけど、恋愛ゲームなら私でもできるとは思う。
「やってみるか、久しぶりに」
もしかしたら今の私に必要なことがわかるかもしれない。
恐る恐るCDをパソコンへ挿入すると同時にタイトルが表示される。
眩い光が私を優しく包み込み、私の意識は電子の海へと消えていった。
黄金のシンフォニア 栄光への道。




