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第4話:不穏な影と協力者

【シーン1:謎の人物の出現】


「ふふ、ヴァイスマン様も息子さんも、本当に素敵な笑顔でしたわね。人の心が通じ合うというのは、何よりも温かいものですわ」


ロゼッタは満足げに言いました。夕暮れ時、探偵事務所からの帰り道。ロゼッタはリリアとオスカーと共に、アパートへと続く石畳の道を歩いています。


「ええ、お嬢様のお力があればこそでございます。わたくしも、あのような感動的な場面に立ち会わせていただき、胸が熱くなりました。お嬢様の共感覚は、まさに奇跡としか言いようがありません」


リリアが優雅に微笑みます。


「私の分析によれば、今回の解決はロゼッタ様の共感覚による感情の読み取りが、論理的な推理を補完した結果です。データとしても非常に興味深い事例でした。今後の研究にも役立つことでしょう。特に、誤解が解けた瞬間の感情の波形は、特筆すべきものです」


オスカーが眼鏡を上げ、付け加えます。


「ふん、お前らもロゼッタの真似して、すぐ感動しやがって。俺がいなきゃ何もできねーくせに。もっと俺に感謝しろってんだ。俺が共感覚を活性化してやってるんだからな」


ティムがロゼッタの肩で、ぶっきらぼうに呟きます。


「ティムったら。でも、本当に皆のおかげですわ。わたくし一人では、何もできませんもの。リリアもオスカーさんも、ティムも、皆がいてくださるから、わたくしは頑張れるのです。皆は、わたくしにとって、かけがえのない…」


ロゼッタはくすくす笑いながら、空を見上げました。


その時、路地裏の影から、黒いローブをまとった不審な人影が、すっと現れました。彼らは静かに、確かな足取りでロゼッタたちに近づいてきます。ロゼッタの心に、不意に冷たい感情が流れ込んできました。


「…っ! 何でしょう、この感情…とても、冷たくて、そして…『貪欲』…? 何かが、わたくしの心を掴もうとしているような…ひどく、不快な感覚ですわ…」


ロゼッタは思わず立ち止まり、胸元を押さえました。


「お嬢様、何かございましたか? お顔色が優れませんが…」


リリアがすぐにロゼッタの異変に気づき、警戒するように周囲を見渡しました。


「ロゼッタ様、何か感じ取られたのですか? 彼らは…一体何者なのでしょうか? その服装、その気配…尋常ではありません」


オスカーも眼鏡の奥の瞳を鋭くし、ローブの人物たちに視線を向けます。


「おい、ロゼッタ。あいつら、お前の共感覚を狙ってやがる。気をつけろ! 早く逃げろってんだ! 奴らの目は、獲物を見る目だ!」


ティムが焦ったように叫びました。


「狙って…? わたくしを…? どうして…?」


ロゼッタは困惑したように呟きます。


「お嬢様、わたくしの後ろへ! 一歩たりとも、お嬢様には近づけさせません!」


リリアがロゼッタの前に躍り出ました。


【シーン2:リリアの戦闘】


ローブの人物たちは、ロゼッタの言葉を聞いたかのように、一斉にロゼッタに手を伸ばします。


「わたくしがお嬢様をお守りいたします! 何者であろうと、お嬢様に指一本触れさせません! 覚悟なさい!」


リリアはメイド服の裾を翻し、素早い体術でローブの人物たちを次々となぎ倒していきます。その動きは、普段の穏やかなリリアからは想像もできないほど、正確で力強いものでした。


「リリア…!? ま、まるで舞を踊っているようですわ…! こんなにも、お強かったなんて…!」


ロゼッタは驚きに目を見開きます。


「リリアさんの戦闘能力は、私の予測を上回る…いえ、驚異的です。ロゼッタ様、私の後ろへ! 彼らは複数います、油断は禁物です! 私も援護します!」


オスカーもロゼッタを庇うように前に立ち、懐から護身用の小さなナイフを取り出します。彼はリリアほどではないものの、的確な動きでローブの人物の一人を牽制します。


「ふん、学者様もやるじゃねーか。だが、リリには敵わねーな。動きが鈍いぜ。もっと素早く動けってんだ」


ティムが感心したように呟きました。


「ティム殿、今はそのような比較をしている場合ではありません! ロゼッタ様の安全が最優先です! 私の動きは、あくまで牽制に徹しているだけです! リリアさんの負担を減らすのが私の役割です!」


オスカーが真剣な顔で反論します。


ローブの人物たちは、リリアとオスカーの連携に戸惑った様子を見せました。彼らは数で勝っていましたが、リリアの圧倒的な戦闘能力と、オスカーの冷静な対処に、次第に劣勢に立たされます。


「くっ…今回は退くぞ! 目的は達せられなかったが、深追いは無用! 次の機会を待て!」


ローブの一人が低く呻き、他の者たちに合図を送ると、彼らは素早く路地裏の闇へと姿を消していきました。


「お嬢様、ご無事ですか!? お怪我はございませんか!? どこか痛むところは!? 念のため、全身を診させていただきます!」


リリアはすぐにロゼッタの元へ駆け寄り、全身をくまなく調べます。その顔には、安堵と、わずかな疲労が浮かんでいました。


「ええ、リリア。わたくしは大丈夫ですわ。リリアが守ってくださったおかげで…本当に、ありがとう存じます。リリアがいてくださって、本当に良かった…わたくし、本当に怖かったですわ…」


ロゼッタはリリアの手を握り、感謝の気持ちを伝えました。


【シーン3:ジンの情報提供】


探偵事務所に戻ったロゼッタたちは、今回の襲撃について話し合いました。


「お嬢様、彼らはただの強盗ではございません。その動き、その連携…明らかに訓練された集団でございます。ただならぬ気配を感じました。一体、何者なのでしょうか…」


リリアが真剣な顔で言います。


「彼らがロゼッタ様の共感覚を狙っていたのは間違いありません。しかし、一体何のために…? その目的が不明瞭なのが、最も危険な要素です。私の知識にも、該当する組織は見当たりません」


オスカーが眼鏡を外し、額を揉みながら考え込みます。


「ふん、だから言っただろ? お前らを狙ってる奴らがいるって。俺の言葉を信じねーから、こんな目に遭うんだよ。もっと俺の言うことを聞けばいいんだ」


ティムが呆れたように言いました。


「ティムったら。でも、本当に怖かったですわ。あの人たちの『貪欲』な感情が、とても…わたくしの力が、悪用されてしまうのではないかと…そう思うと、胸が苦しくなります…」


ロゼッタは不安そうに身を震わせました。


「お嬢様、ご心配なさらないでください。わたくしが必ずお守りいたします。お嬢様のお力は、決して悪用などさせません。わたくしが命に代えても、お嬢様をお守りいたしますから」


リリアがロゼッタの手を優しく握ります。


「リリアさん、彼らの正体を探る必要があります。ジン殿に協力を要請しましょう。彼の情報網ならば、何か掴めるかもしれません。この街の裏社会の情報は、彼の右に出る者はいませんから。彼ならば、彼らの素性も探れるはずです」


オスカーが提案しました。


リリアはすぐにジンに連絡を取り、港の倉庫街で会いました。


「黒いローブの集団…能力者を探してるって噂の奴らか。最近、この街でも妙な動きがあるって聞いてたんだ。まさか、お嬢さんを狙ってるとはな。厄介なことになったぜ、まったく」


ジンは低い声で呟きます。


「ジン殿、何かご存じなのですか? 彼らの目的は一体…? どのような組織なのでしょうか?」


リリアが問いかけます。


「ああ。奴らは『孤高の守り手』なんて名乗ってるらしい。特殊な能力を持つ人間を『保護』するとか言って、連れ去ってるって噂だ。だが、その目的は誰も知らねぇ。ただ、妙な連中だってのは確かだ。関わらない方が身のためだぜ」


ジンはそう言うと、リリアに小さな紙切れを渡しました。そこには、組織のシンボルらしき紋章が描かれていました。


「『孤高の守り手』…? そして、『保護』…? 彼らは、一体何をしようとしているのでしょうか…まるで、私たちを狙っているかのように…」


リリアは首を傾げます。


「ああ。俺の仲間にも、最近、妙な奴らに声をかけられたって奴がいる。能力者を探してるってのは、間違いねぇだろうな。気をつけろよ、メイドさん。お嬢さんにも、用心しろって伝えとけ」


ジンは真剣な顔で言いました。


【シーン5:夜の誓い】


事務所に戻ったリリアは、ジンから得た情報をロゼッタとオスカーに報告しました。


「お嬢様、オスカー。ジン殿の情報によれば、彼らは『孤高の守り手』と名乗る組織で、特殊な能力を持つ人間を『保護』しているようです。しかし、その実態は…どうにも不穏な気配がいたします。彼らの言葉とは裏腹に、その行動は…」


リリアが言葉を選びながら報告します。


「『保護』…? それが、あのような『貪欲』な感情に繋がるのでしょうか…? わたくしには、理解できませんわ…まるで、何かの獲物を狙うかのように…」


ロゼッタは不安そうに呟きました。


「私の分析によれば、『保護』という言葉は、彼らの真の目的を隠すための隠れ蓑である可能性が高いです。能力者を『保護』し、その力を利用しようと画策しているのかもしれません。あるいは、彼ら自身の歪んだ理想を押し付けようとしているか…いずれにせよ、危険な思想であることは間違いありません」


オスカーが眼鏡を上げ、冷静に分析します。


「くそっ、やっぱりロゼッタを狙ってやがったか! 俺がぶっ飛ばしてやる! 妖精の力、見せてやるぜ! 奴らなんか、一ひねりだ!」


ティムが怒りに震えるように叫びました。


「ティムったら。でも、本当に怖いですわ。わたくしのこの力が、誰かを傷つけてしまうのではないかと…そう思うと、胸が苦しくなります…わたくし、どうすれば…」


ロゼッタは俯き、不安そうに両手を握りしめました。


リリアはすぐにロゼッタの隣に座り、優しくその手を握りました。


「お嬢様、ご心配なさらないでくださいませ。わたくしが、どんなことがあってもお嬢様をお守りいたします。お嬢様のお力は、決して誰かを傷つけるものではございません。

 お嬢様は、人々の心を癒し、笑顔を取り戻す、素晴らしいお力をお持ちでございます。わたくしが、それを証明いたします。わたくしが、お嬢様の盾となりますから」


オスカーもまた、ロゼッタの前に歩み出ました。


「ロゼッタ様、私も誓います。私の知識とこの身を賭して、ロゼッタ様をお守りいたします。ロゼッタ様の能力は、決して悪用させてはなりません。

 私たちは、ロゼッタ様と共に、この街の平和を守り抜きます。それが、リーベンベルク家に仕える者の使命ですから。

 何があろうと、ロゼッタ様をお一人にはさせません」


「リリア…オスカーさん…わたくし、本当に嬉しいですわ。皆がいてくださって、本当に心強いです。わたくし、頑張りますわ!」


ロゼッタの瞳に、温かい光が宿ります。


「ふん、俺もいるんだからな。お前ら、もっと俺を頼れよ。俺の精霊魔法があれば、どんな奴らだって、一ひねりだぜ…多分な。俺もロゼッタを守ってやるからな」


ティムがぶっきらぼうに言いますが、その声には、ロゼッタを守りたいという強い決意が込められていました。


港街エテルナの夜の帳が降り、アパートの窓からは、小さな探偵事務所の温かい光が漏れています。謎の組織の影が忍び寄る中、ロゼッタ、リリア、オスカー、そしてティムの絆は、さらに強く結びついたのでした。


彼らは、この街の平和を守るため、そしてロゼッタの能力を悪用させないため、共に立ち向かうことを誓ったのです。

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