表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

第9話:決着の時

【シーン1:リーダーの悲劇】


港の倉庫。ロゼッタはまっすぐにレオンを見据え、力強く宣言しました。


「わたくしは、孤独ではありませんわ。わたくしには、リリアも、オスカーさんも、ティムも、そして街の皆がいますもの。わたくしは、一人ではございません。だから、あなた様の理想は、間違っていますわ」


ロゼッタの声が、静かな倉庫に響き渡ります。その言葉は、レオンの冷たい表情に、わずかな動揺を刻みました。


レオンの表情がわずかに歪みました。彼はロゼッタの共感覚の強さに気づき、その力を利用しようと、無言で精神的な圧力をかけ始めます。目に見えない重圧が、ロゼッタの心を直接締め付けました。ロゼッタの顔が苦痛に歪みます。


「…っ! あああ…!」


ロゼッタは呻き、膝から崩れ落ちそうになりました。頭の中に、何千もの冷たい声が響き渡るような感覚に襲われます。


「お嬢様!」


リリアが叫び、レオンに斬りかかろうとします。その動きは、迷いなく、そして迅速でした。


「ロゼッタ様!」


オスカーもナイフを構え、レオンの隙を突こうとしました。その瞳には、ロゼッタへの深い心配が宿っています。


しかし、レオンの共感覚の力は、リリアとオスカーの動きを鈍らせ、彼らの精神に直接干渉し始めます。


リリアの脳裏には、ロゼッタが危険に晒される悪夢のような幻覚が、オスカーの脳裏には、古文書に記された能力者の悲劇が、鮮明に蘇ります。二人は苦しげに顔を歪め、その場に膝をつきました。


「くっ…これは…! お嬢様…わたくしは…わたくしが、お守りしなければ…なのに…!」


リリアが頭を抱えます。その声は、悔しさに震えていました。


「精神的な…干渉…! 恐るべき能力…! ロゼッタ様…逃げて…! 私の知識が…役に立たない…!」


オスカーが歯を食いしばります。彼の顔は、苦痛と無力感で歪んでいました。


「ふん、お前らごときが、俺を止められると思うな。能力を持たぬ者には、この苦しみは理解できぬ。

 ロゼッタ、さあ、私のもとへ来い。

 お前も、私と同じ孤独を抱えているはずだ。能力を持つ者ゆえの孤独をな。

 お前だけは、私を理解できるはずだ」


レオンは冷たい目で二人を見下ろします。その声には、確かな支配欲が混じっていました。


「わたくしは…孤独では…ありません…!」


ロゼッタは苦しげに言葉を絞り出します。全身が震え、意識が遠のきそうになります。


その時でした。ロゼッタの肩にいたティムが、大きく身を乗り出しました。小さな体が、怒りに燃えるように輝きます。


「てめぇ、ロゼッタの仲間を弄ぶな! 人の心を弄ぶなんて、許さねー! 俺の精霊魔法、くらえ!」


ティムが叫ぶと、その小さな体から、まばゆい光が放たれました。精霊魔法『閃光フラッシュ』!


光はレオンの精神干渉を一時的に遮断し、リリアとオスカーの幻覚を打ち消しました。二人の体が、わずかに自由になります。レオンもまた、突然の光に、一瞬だけ動きを止めました。


「リリア! オスカーさん! 今ですわ!」


ロゼッタが叫びます。その声には、ティムが与えてくれた一瞬の希望が込められていました。


「お嬢様!」


「ロゼッタ様!」


リリアとオスカーは、再び立ち上がり、レオンへと向かいます。ティムの精霊魔法は、彼らに一瞬の隙を与えたのです。


【シーン2:共感覚の対話】


リリアとオスカーがレオンに迫る中、ロゼッタは剣を構えるレオンに対し、戦いを拒否しました。


「レオン様…わたくしは、あなた様と戦うために来たのではありません。あなた様の苦しみを、理解したいのです。その孤独を、わたくしの共感覚で、感じ取りたいのです」


ロゼッタは静かに言います。その瞳は、レオンの心の奥底を見つめるようでした。


「理解だと? 貴様ごときに、私の何が理解できる! 能力を持たぬ者には、私の孤独など、永遠に理解できぬ! お前も、私を理解できないだろう!」


レオンは冷たく言い放ち、再び精神的な圧力を強めようとします。彼の顔には、苦痛と怒りが混じり合っていました。


「いいえ! わたくしには、できます! ティム、力を貸して!」


ロゼッタはティムに呼びかけました。


「ふん、仕方ねぇな。ロゼッタ、お前の共感覚を最大限に引き出してやる。奴の心の奥底まで、見通してやれ! 奴の本音を暴いてやるんだ!」


ティムが叫び、ロゼッタの肩で強く光を放ちます。精霊魔法『増幅』!


ロゼッタはレオンの心に触れました。すると、レオンの過去の記憶が、まるで自分のことのように流れ込んできました。それは、あまりにも鮮明で、ロゼッタの心を深く揺さぶります。


幼い頃のレオン。共感覚の力ゆえに、家族から恐れられ、使用人から避けられる日々。


「化け物…」「近寄るな…」「あの子は、私たちとは違う…」


冷たい言葉が、幼いレオンの心を深く深く傷つけていきます。彼は、いつも一人で、書斎の隅で震えていました。


信頼していた友に裏切られ、能力を悪用されそうになった絶望。その友は、レオンの力を利用しようとしただけでした。


「なぜだ…なぜ、私を理解してくれない…! なぜ、誰も、私を受け入れてくれないのだ…!」


孤独の中で、レオンは歪んだ理想を抱き始めました。


「能力を持つ者だけが、真に理解し合える理想郷を築くのだ…そうすれば、もう誰も、私のように苦しまない…」


その記憶は、あまりにも悲しく、ロゼッタの胸を締め付けました。レオンの孤独が、ロゼッタ自身の孤独と重なり合うようでした。


「レオン様…あなた様は…ずっと、お一人で…そんなに、苦しんでいらっしゃったのですね…」


ロゼッタは涙を流しながら、レオンの心に語りかけます。その声は、優しさと、深い共感に満ちていました。


「黙れ! 貴様に何がわかる! 私の孤独など…誰にも理解できぬ…!」


レオンは動揺し、精神的な圧力が乱れ始めます。彼の心は、ロゼッタの共感によって、大きく揺さぶられていました。


【シーン3:リリアとオスカーの助太刀】


レオンの感情が不安定になり、共感覚の暴走で周囲に精神的な圧力をかけようとした瞬間、リリアとオスカーが動きました。


「お嬢様を傷つけることは、断じて許しません! あなた様の苦しみは理解しますが、お嬢様を巻き込むことはできません!」


リリアが叫び、素早い体術でレオンの動きを封じます。彼女の動きは、レオンの精神干渉をものともしないほど、研ぎ澄まされていました。


「リリアさん、お見事です! レオンの能力は、感情の乱れによって暴走する傾向があります! ロゼッタ様、今です! 彼の心の奥底へ! 私の知識が、あなたを導きます!」


オスカーも古文書の知識から得た、共感覚の暴走を抑える方法をロゼッタに叫びます。彼はナイフでレオンの動きを牽制し、リリアの動きをサポートします。


「くっ…このメイドと学者が…なぜ、私の精神干渉を…! なぜ、私を止めようとする…!」


レオンは苦しげに呻きます。彼の能力は、二人の揺るぎない覚悟の前では、力を失いつつありました。


「お嬢様…わたくし、見えます…ティムが…ティムが、お嬢様の肩で、光っています…! なんて、なんて可愛らしい…!」


リリアがレオンを制圧しながら、驚きの声を上げました。レオンが放った能力の衝撃と、ロゼッタの強い想いが、リリアの潜在的な認識能力を覚醒させたのです。


「リリ! やっと見えたか! 俺はティムだ! ロゼッタの相棒だぜ! お前ら、もっと頑張れよ! 奴を止めるんだ!」


ティムが嬉しそうに叫びます。その小さな体は、喜びと興奮でぴょんぴょんと跳ねています。


「リリアさん、ティム殿が見えるようになったのですか!? これは、私の研究にとっても、極めて重要な…」


オスカーも驚きに目を見開きます。戦いの最中にもかかわらず、彼の学者としての好奇心が刺激されています。


「ええ、オスカー! ティムが、こんなにも可愛らしいなんて…! お嬢様、わたくし、もっと頑張れますわ! お嬢様のためなら、どんな困難も乗り越えられます!」


リリアは、ティムの姿が見えるようになった喜びで、さらに力を込めてレオンを抑えつけます。


「リリア…オスカーさん…ありがとう存じます!」


ロゼッタは涙を流しながら、レオンの心に深く語りかけ続けました。


【シーン4:レオンの改心と旅立ち】


ロゼッタの言葉と、リリアとオスカーの協力で、レオンは次第に正気を取り戻しました。彼の瞳から、冷たい光が消え、深い悲しみが浮かび上がります。


「ロゼッタ…お前は…私を…理解してくれるのか…? 私の孤独を…」


レオンの声は、震えていました。その声には、長年抱え続けてきた苦しみが滲んでいます。


「はい、レオン様。あなた様は、ずっとお一人で、苦しんでいらっしゃったのですね。でも、もう大丈夫ですわ。能力を持つ者も、持たない者も、皆、心を通わせることができます。

 わたくしが、それを証明いたします。あなた様は、もう一人ではありません」


ロゼッタは優しく言いました。彼女の言葉は、レオンの心の氷を溶かしていくようでした。


「私の…理想は…間違っていたのか…」


レオンは膝から崩れ落ちました。彼の心から、歪んだ理想と、それに縛られていた孤独が解き放たれていきます。その表情には、長年の重荷が降りたかのような、安堵の色が浮かんでいました。


「レオン様、あなた様は、決して一人ではございません。あなた様を理解しようとする者が、ここにいます。そして、これから、もっと多くの人々が、あなた様を理解するでしょう」


リリアが優しく語りかけます。その手は、レオンの肩にそっと触れていました。


「私の分析によれば、レオン殿の能力は、正しい方向へ導かれることで、真に人々の役に立つ力となるでしょう。過去の過ちを悔い改め、新たな道を歩むべきです。その知識を、人々のために役立てるべきです」


オスカーが冷静に、しかし温かい声で言いました。


「ふん、やっと目が覚めたか、レオン。お前も、ロゼッタの優しさに触れて、少しはまともになったな」


ティムがぶっきらぼうに言いますが、その表情には、安堵の色が浮かんでいました。


レオンは自分の過去の傷から生まれた歪んだ理想と、それが結果的に多くの人に迷惑をかけたことを認め、心から悔い改めました。


彼は、共感覚の力を持つ者も持たない者も、共に生きていける世界をロゼッタに託し、組織を自主的に解散させることを誓いました。


「ロゼッタ…ありがとう…私は、新たな道を模索するために、この街を去ろう。いつか、お前のように、真に人を理解できる能力者になれるよう…」


レオンはそう言い残し、静かに倉庫を後にしました。彼の背中は、以前のような冷たさではなく、どこか穏やかな光を帯びているようでした。


【シーン5:穏やかな夜】


事件が解決し、探偵事務所には平和が戻りました。アパートの食卓には、リリアが作った温かい料理が並んでいます。香ばしい匂いが部屋中に広がり、皆の空腹を刺激します。


「事件が解決して、本当に良かったですわね。レオン様も、きっと新しい道を歩んでくださるでしょう。わたくし、そう信じていますわ。リリアのポトフも、今日の喜びを分かち合うように、いつもより一層美味しいですわね!」


ロゼッタはにこやかに言いました。温かい湯気が、彼女の顔を優しく包みます。


「お嬢様、そうおっしゃっていただけて光栄でございます!

 本日は、お嬢様が大変なご活躍をなさいましたから、わたくしも腕によりをかけました。このポトフは、お嬢様のお好きな野菜をたっぷり入れて、じっくり煮込みましたのよ」


リリアが嬉しそうに頷きます。その表情は、達成感と、ロゼッタへの愛情に満ちていました。


「私の分析によれば、リリアさんのポトフは、栄養バランスと味覚の双方において、極めて高い完成度を誇ります。

 特に、本日の具材の組み合わせは、疲労回復に効果的な成分を多く含んでおり、理にかなっています。

 レオン殿の改心は、ロゼッタ様の共感覚による感情の深い理解と、我々の連携がもたらした結果です。データとしても、極めて興味深い事例でした。今後の能力者研究に、大いに役立つことでしょう」


オスカーが眼鏡を上げ、真面目な顔で言います。彼の言葉には、リリアの料理への純粋な賞賛が込められていました。


「あら、オスカー! あなた様が、わたくしの料理を褒めてくださるなんて…珍しいですわね。いつもは、栄養成分の数値ばかり気になさるのに…」


リリアは、オスカーからの予想外の褒め言葉に、頬をほんのり赤らめ、照れくさそうに視線を逸らしました。その様子は、普段の毅然とした彼女からは想像もできないほど、可愛らしいものでした。


「ふん、学者様も相変わらずだな。リリも、俺が見えるようになったからって、浮かれすぎだぜ。相変わらず、騒がしい奴だ。もっと落ち着けってんだ。俺は、もっと静かに飯を食いたいんだよ」


ティムがロゼッタの肩で、ぶっきらぼうに言います。


「あら、ティム! あなた様が見えるようになった喜びを、わたくしが表現して何が悪いのですか!? オスカーのように、感情を抑え込むばかりでは、お嬢様への愛も伝わりませんわ!

 あなた様も、わたくしに文句ばかり言わずに、もっと素直になさったらどうですの? わたくし、あなた様のことが見えて、本当に嬉しいのですから!」


リリアがプンプンと頬を膨らませます。オスカーからの褒め言葉で、少し浮かれているようです。


「な、何を仰るのですか、リリアさん! 私の愛は、論理的かつ普遍的なものであり、感情的な表現に頼る必要は…」


オスカーは顔をさらに赤らめ、慌てて反論します。彼の視線は、リリアの顔と、目の前のポトフの間をさまよっていました。


「あらあら、リリアもオスカーさんも、わたくしの知らないところで、随分と息の合ったやり取りをなさっていらっしゃいますこと。

 まるで、お二人のための公開恋愛相談会のようですわ。

 わたくしのことで、そんなに熱心に言い争っていらっしゃるなんて、本当に可愛いらしいですこと。

 お二人とも、わたくしのこと、本当に大好きですものね? わたくし、全部聞いていますからね?」


ロゼッタの声が、静かな夜の部屋に響き渡りました。その言葉に、リリアとオスカーはぴたりと動きを止め、互いに顔を見合わせました。二人の頬は、林檎のように真っ赤に染まります。


「お、お嬢様!?」


「ロゼッタ様!? ま、まさか…その…全部…!?」


二人は同時に叫び、慌てて目を逸らしました。ティムはそんな二人を見て、腹を抱えて笑っています。


「ふふ、ごめんなさい。でも、皆がいてくださって、本当に嬉しいですわ。わたくし、もう孤独ではありませんもの。皆は、わたくしのかけがえのない家族ですものね」


ロゼッタは温かい笑顔で言いました。チームの絆はさらに深まり、温かい団欒の時間が流れます。


港街エテルナの夜空には、満月が優しく輝いていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その他の作品もぜひ!
ガイア物語(代表作)
 壮大な異世界ファンタジーサーガ 同時並行的に複数のストーリーが展開します
時間貸し『ダンジョン』経営奮闘記
 異世界でビジネススキルを使い倒す異色ファンタジー!
幻想文学シリーズ
 日常に潜むちょっとした不思議な話。ちょっと甘酸っぱい話。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ