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9.領館で働く人の確保

「ここがタナトスさんのお店よ」


 少女たちに連れられた場所には立派な店構えをしたレストランがあった。でも、店は閉まっているらしく、中から人の気配がしない。


「今日もお店やってないね。もしかして、もう町を出て行ったんじゃ……」

「数日前はいたから、まだ居るはずだわ。お店にいないなら、隣の家にいるかもしれないわ」

「なら、家を訪ねましょう」


 店に人の気配が感じられないと、少女たちは隣の建物に移動した。そこには、こじんまりとした一軒家が建っている。


 その家がタナトスさんの自宅か。少女たちがその自宅を訪ねようとした時、突然扉が開き中から人が出てきた。


「借金を今月中に払えなかったら、借金のカタにレストランは貰うからな!」

「そんな! 今月中になんて無理です! せめて、今年中になんとかなりませんか!?」

「こっちもカツカツなんだよ! そんなに待ってられるか! いいか、金を用意しなかったらあのレストランは貰うからな!」


 二人の男性が言い争いをしている。怒鳴り声を上げた男性は不機嫌そうに立ち去ると、残った男性は悔しそうに項垂れた。


「あなた……」

「父さん……」


 すると、建物の中から女性と少年が出てきた。二人は心配そうに男性に寄り添った。その男性が顔を上げた時、こちらに気付く。


「あっ……君たちは」

「お久しぶりね、タナトスさん」

「ははっ、情けないところを見られてしまったようだね」


 タナトスさんは恥ずかしそうに頭をかいた。


「タナトスさんも大変なのね……」

「まぁ、今はどこだって大変さ。ウチみたいな店は沢山あるんじゃないかな?」

「そうですね……。あっ、そんなタナトスさんに紹介したい人がいるんです」

「俺に紹介したい人? もしかして、後ろにいる人かな?」


 タナトスさんがこちらを向くと私は前に出た。


「はじめまして、レティシアというわ」

「はじめまして、タナトスです。俺に用があるんですか?」

「えぇ、少し話をしてもいいかしら?」

「だったら、家の中で話しましょう。ここは人の目があるから」


 奥さんが私たちを家の中に招待してくれるそうだ。その方が話しやすい。


「すいません、気が利かなくて。さぁ、中にお入りください」


 ◇


「全員が座れる場所ではなくてすいません」

「私たちは大丈夫だよ!」

「レティシアさんに付き添っているだけだから、気にしなくていいわ」

「後ろの方で立っていますので、気にせずに話をして下さい」

「そう? ありがとうね」


 応接間に通された私たちはソファーに座り、少女たちは私の後ろで立ってもらっている。


「それで、俺に話とはなんですか?」

「今、私が住んでいる館には働いている人が少ないの。だから、その館で働いてくれる人を探しているわ。この少女たちに料理人の伝手があるって聞いて、あなたを訪ねに来たの」

「なるほど。では、俺に館の料理人をしてほしいと言う事ですね」


 話を聞いたタナトスさんは難しい顔をした。


「このご時世で仕事をもらえるのはありがたいです。でも、俺はレストランを手放す気はないんです」

「レストランの経営は大丈夫? さっき、不穏な話をしていたみたいだけど……」

「町がこの状態になってから、客足が遠のいて……。今じゃ、レストランに入る人はいません」

「みんな、仕事がなくなって高級なレストランに入れなくなったみたいで。なんとか、お金を借りて経営してきたのだけれど、それも限界で……」


 タナトスさんと奥さんはとても暗い顔をした。どうやら、レストランの経営状態はかなり悪いらしい。


 それはきっと町の状態がかなり悪いせいだ。仕事がなくなり、住民の生活が圧迫されている。このままじゃ、この町が死んでしまう。


『レティシアに提案をします』


 その時、叡智が話しかけてきた。


『借金を今月中に支払わないとレストランが奪われてしまうようです。なので、レティシアが借金の肩代わりをするのです。その借金返済に一時的に館で働いてもらう、というのはどうでしょう。レストランの再開は町の状態が良くなってから始めてもらうと良いでしょう』


 なるほど、借金の肩代わりか。婚約破談でもらった違約金は全て私の口座に入っている。だから、そのお金を使えば良い。


「タナトスさんに提案があるの。レストランの借金、私が肩代わりするわ。だから、町が復興するまでの間だけでいいから、私の館で働いてくれない?  館で働きながら、私に借金を返してくれればいいし、町が復興した後でレストランの経営を再開させて、それで借金を返していく事も出来るわ。この提案だと、レストランを手放さなくても良くなるんじゃないかしら」

「そ、そんな事が出来るんですか!?」

「えぇ、私なら可能よ」


 私の提案にタナトスさんは身を乗り出した。先ほどまで暗い顔をしていたタナトスさんと奥さんがとても明るい顔になる。


「あなた! レティシアさんの提案を受ければ、レストランを手放さなくても済むわ!」

「あぁ! まさか、救いの手が伸ばされるなんて、思っても見なかった!」


 奥さんとタナトスさんは手を取り合って喜んだ。そして、私に向き合うと頭を下げてきた。


「どうか、よろしくお願いします! あなたのところで働かせてください!」

「あの……借金返済に私も働きたいです。もし、良ければ私も雇ってもらえませんか?」

「僕も! 僕も働きたい」


 タナトスさんに続き、奥さんとお子さんも名乗り出てくれた。えーっと、二人はどんな事が出来るのだろう?


『奥さんは一般的な家事が出来るみたいです。なので、宿舎の管理人というのはどうでしょう? 時間があれば、領館の手伝いをしてもらう手もあります。お子さんの年齢は十二歳くらいに見えます。小間使いにうってつけでしょう』


 宿舎の管理人と小間使いか、どれも必須な人材だ。


「家族全員、私が雇うわ。これからよろしくね」


 そう言うと、タナトスさん一家は喜び、再び私に頭を下げてきた。

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