8.少女たちの救出
「やめてくださいっ」
「へへっ、仕事が欲しいんだろう? だから、紹介してやろうっと思ったんだよ」
「だったら、なんでここに押し込んできたわけ?」
「ここのほうが何かと便利だからだよ。分かるよな?」
「変な事をしようって魂胆でしょ!」
「分かってんじゃん。なら、安心して襲えるわ」
急いで路地に駆けつけると、少女たちが男たちに取り囲まれていた。その体を捕まえようと手を伸ばした時、私は声を張り上げる。
「待ちなさい!」
「なんだー?」
男たちは不機嫌そうに振り向いた。だけど、私の姿を見ると嫌味な笑顔を浮かべる。
「へぇ……こっちはべっぴんさんだなぁ」
「なんだ? 俺たちに構って欲しいのか?」
「俺はこっちでもいいぞ」
私を標的に変えたみたい。でも、その方が楽でいい。
「その子たちに危害を加えることは許さないわ。もちろん、私にもね」
「威勢は良いみたいだな。だけど、俺たちに勝てると思っているのか?」
「三対一だぞ?」
「まず、お前から組み敷いてやる!」
男たちはすぐに私に向かってきた。
『まずは掴みかかって来るでしょう。避けた後に一撃を食らわせましょう』
「了解!」
剣を抜くと、男たちが近づいてくるのを待つ。
「へへへっ、俺が一番だ!」
男がだらしのない顔をして掴みかかってきた。その手を避けると、一歩踏み込んで剣で腹部を切りつけた。
「うっ!」
男はうめき声を上げてその場に蹲った。
『次は抱きついて来ますので、踏み込んで剣の柄で横腹に一撃をおすすめします』
「分かったわ」
次の男を見ると、両腕を広げて距離を縮めてくる。
「へへっ、いただきます!」
私の体に腕を回そうとしてきた。お陰で隙だらけだ。その男に向かって踏み込みと、剣の柄を思いっきり横腹に突き立てた。
「うっ!」
二人目の男もその場に蹲り動かなくなる。
「だったら、俺が! 痛い目を見せてやる!」
最後の男も諦めず向かってくる。
『右手で殴ってきます。避けて』
「避けるだけじゃつまらないでしょ!」
もう、叡智ったら安全な予測しかしないんだから。
私は叡智の指示を無視して、体に力を入れて一気に距離を縮めた。
「何っ!?」
一瞬で男の目の前に飛び出すと、剣で首を叩く!
「ぐっ!」
その衝撃で最後の男も蹲った。三人の男たちは痛みで蹲っているが、血は出ていない。
「良かったわね、刃の潰れた剣で。刃が付いていたら今頃あなたたちは死んでいたわ」
無駄な殺生はしたくなかったので、今回は刃の潰れた剣を持ってきていた。お陰で路地が汚れなくて済んだ。
「どう? まだやる?」
「うぅっ……くそっ!」
「行くぞ!」
「覚えてやがれ!」
剣をちらつかせると、男たちは悔しそうな顔をしながらこの場を立ち去った。これで、邪魔者はいなくなった。
剣を鞘に戻すと、少女たちを見た。少女たちは男たちがいなくなったのを見ると安堵した様子だ。
「もう大丈夫よ。怪我はなかった?」
「はい! あの……助けて下さってありがとうございます」
「お姉さんのお陰だわ」
「本当にありがとう!」
声を掛けると少女たちは私に近寄ってきた。
「この町は不埒な男がいるのが一般的なの?」
「人が少なくなってから、町の雰囲気が悪くなってきたんです」
「もしかして、お姉さんは町の外の人?」
「えぇ、そうよ。昨日来たばかりだから、この町のことは何も知らないの」
「この町に何か用事が? もうこの町は終わりなのに……」
やはり、町の状態は良くないみたいだ。色々情報を得たいけど、今やる事はそれじゃない。
「急な話なんだけど、あなたたちは仕事を探しているの?」
「あの男たちの話を聞いていたの? この町が寂れちゃって働く場所がなくなったの」
「それで仕事がないかお店を回ったんだけど、どこも不景気で雇ってもらえる所がなかったんだ」
「そしたら、それを見ていた男たちが付いてきて仕事を紹介してやろうって言われたんです。でも、怪しかったから逃げていて……」
なるほど、そんな経緯があったのね。すると、叡智が少女たちの詳しい情報を伝えてきた。
『この少女たちの能力を分析すると、掃除、洗濯、配膳、片付け、備品管理などメイドとして基本的なことが出来るみたいです。少女たちを助けたことにより、レティシアへの好感度も高いです。信頼している状態なので、就職先の斡旋をすると断られることはないでしょう』
じゃあ、私が領館で働くように誘うと断れないってことね。それなら、遠慮なく誘えるわ。
「仕事を探しているなら、私の所に来ない? 今、働いていた人がやめちゃって困ってたの。メイドの仕事よ、出来そう?」
「えっ、仕事を紹介してくれるの? メイドの仕事ね、それなら私たちでも出来そう!」
「お姉さんなら信頼できる! ねぇ、お姉さんの所で働こうよ!」
「さっき出会ったばかりなのに、いいんですか?」
「もちろん、大歓迎よ」
「「「やったぁ!」」」
少女たちをメイドに誘うと喜んでくれた。これで、セリナの仕事が減る。あと、早急にいないと困るのは……料理人ね。
「ねぇ、他に働いてくれる人を探しているんだけど……料理人でいい人いない?」
「料理人? ……あっ! それなら、あてがあるわ!」
「そうだね! タナトスさんのお店が閉まっちゃうって言ってた!」
「タナトスさんはこの町一番のレストランを経営している料理人なんです。紹介します!」
どうやら、この少女たちは良い人材を知っているみたいだ。これで、探す手間が省けた。
少女たちは私を先導して町の中を進んで行った。