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6.私と叡智とセリナ

「大体資料の場所は把握したわね。あとはそれを読み込んでいくだけだけど……」

『直に日が暮れます。資料の読み込みは明日以降が最適でしょう』

「でしょうね。今からやったら、寝る時間までお仕事をしちゃいそうだわ」


 執務室にある資料の種類の把握は終わった。どれも重要そうな資料ばかりで、読む前から気合が入ってしまう。事務室の隣にも資料室みたいなものがあったけれど、あれはさほど重要そうなものではなさそうだ。


 ということは、この執務室にある資料を読み込むだけで領内の現状が見えてきそうだ。この町に着いてから気になっていた町の惨状を思い出すといい結果は得られないだろう。


「ふふっ。山積みの問題とかにも直面しちゃうのかしら。なんだか、楽しみになってきたわ」

『言っておきますが、今までの苦労とは別次元だということをお忘れないようにお願いします。今回の苦労はレティシアを大いに悩ませるものだと推察します』

「今まで私が悩んできてなかったような口ぶりね。叡智が思う以上に悩んできたわよ。その度に課題を乗り越えていったじゃない」

『課題を乗り越える快感を知ったレティシアがワーカーホリックにならない事を祈ります』

「ワーカーホリックって?」

『異世界の言葉で仕事中毒に陥った人のことですね。仕事に夢中になりすぎて、他の事が疎かになっているんです』


 仕事中毒? まぁ、意味は分かるけれど……あんまり良い印象はないわね。


「大丈夫よ! 今までだって、色んな事を満遍なくやってきたじゃない。一つのことだけでは終わらせないわ」

『だと、いいんですけれど』

「何よ、信用ないわね」


 私が仕事だけの人間になると思ったら大間違いよ。今まで色んな学問、芸術、武術を治めてきた私がワーカーホリックになるなんて! 見てなさい、なんでもこなせるスーパー領主になってみせるから。


「でも、変に時間余っちゃったわね。手持無沙汰でなんだか落ち着かないわ。何か出来る事はあるかな? やっぱり、少しでも仕事を……」

『すでにワーカーホリックの片鱗を見せているじゃないですか』

「いや、これは……」


 今まで王女として忙しく過ごしていたから、暇な時間になるとそわそわして落ち着かないのよね。だから、そんな暇な時間に庶民向けの小説も読み漁ってきたわけだけど、今はそれも手元にないし……。


 何か出来る事はないだろうか? うーん……あ! そうだ!


「ねぇ、そろそろ夕食の時間よね」

『夕食まで二時間ほどあります』

「で! 今、領館に人が誰もいないじゃない」

『町に食べに行くしかありませんね』

「いいえ、違う手段があるわ」

『違う手段ですか?』


 思いつかなかった叡智が不思議そうに聞いてくる。ふっふっふっ、それはね?


「私が夕食を作ればいいのよ!」


 どん! と胸を叩いて強く宣言した。しばらく叡智は無言だったけど……。


『はぁ……レティシアの新しい物への挑戦好きは病気ですね』

「何よその言い方! 叡智だって新しい事を教える時はイキイキと教えてくれるじゃない! だ、か、ら! 料理への新しい挑戦は二人のためになるのよ!」


 新しい事を始めるのってワクワクしちゃう。どんな大変さが待っていて、それを乗り越えた時の快感を考えるとテンションが上がって来るわ!


「料理……一度やってみたかったのよね。あの美味しい料理が人の手でどんな風に作られるのか、想像しただけで楽しくなっちゃうもの。王宮も出たし、私を縛るものは何もない! 行くわよ、叡智!」

『……承知いたしました』


 呆れたような声が聞こえるけれど、無視! 叡智だって教えるのが好きだから、きっと喜んで教えてくれるに違いないわ。


 この新しい挑戦を領地運営の第一歩とする!


 ◇


「わぁぁっ、どうしたんですか、これ!」


 テーブルに並べられた美味しそうな料理を見て、セリナが歓声を上げた。


「もちろん! 私と叡智が作ったのよ! しかも、初めて!」

「初めてでこんなに美味しそうな料理をですか!?」


 パン、スープ、サラダ、メインディッシュ。どれも彩り豊かで、美味しい匂いが漂っている。


「さぁ、一緒に食べましょう」

「えっ、でも……」

「良いじゃない、一緒に食べちゃって。私はもう王女じゃないんだから」

「では、お言葉に甘えて……」


 二人で席に着くと料理を食べ始める。まずはスープだ。スプーンですくって食べると、あっさりとしていながらもコクのある旨味を感じる事が出来た。王宮で出ていた料理と遜色ない味だわ。


「わっ、美味しいです! 初めてでこんなに美味しい料理を作れるんですね!」

「ふっふっふっ、凄いでしょ!」

「実行するレティシア様も凄いですが、これを作らせた叡智様の知識と指導力も凄いですね」

『恐れ入ります』

「叡智も褒められて嬉しそうよ。ほら、新しい挑戦は良い物でしょ?」

『挑戦にも限度というものがあります。そもそも、レティシアは暇な時間が嫌いだからと言って、なんでもかんでも際限なく手を付けて……』

「あー、叡智がまたうるさく説教をする! 美味しい料理が美味しくなくなっちゃうじゃない!」


 叡智の声を黙らせようとしようにも、叡智は黙らない。くどくどと私への説教を始め、料理を食べるのを邪魔してくる。


「なんとなく、叡智様の言っていることが分かるような気がします。叡智様も大変ですね」

『セリナは私の声が届かないのに、良く分かってくださいます。それに比べ、レティシアと言ったら……』

「あーもー! 私を仲介して二人で話そうとしないでー!」

「でも、レティシア様はいつでも仲介していいとおっしゃってましたよ?」

『約束を違えるのですか?』

「もう! 食事の時は静かに食べる物でしょ!」

「ふふっ、そうですね」

『また言っていることが……』


 セレナはおかしいと笑い、叡智が呆れている。今は自分が作った初めての料理を堪能したいの!

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