51.商品化
「じゃあ、荷物を目一杯積んで!」
私の指示で協会員たちが荷台に荷物を積んでいく。荷台が荷物でいっぱいになると、みんなで浮遊の力を確認する。
「この量を積んでも、まだ大丈夫そうですね」
「だが、限界はここまでだろう。少し、高さが減っている」
「それでも凄い。一トンは大丈夫だっていうことだろう? これは、物流の革命になる!」
荷物を積んだ荷台で様々な検証が進められる。積める荷物の量、高さ、横幅。その時の浮遊の様子をしっかりと記録しておく。
「次は実際の移動を見て見ましょう」
ただ浮いているだけの検証ではダメだ。荷台は止まっている時よりも動いている時の方が多い。実際に荷台を馬に引かせて、その様子を確認した。
「馬一頭でこれほどの荷物を積んだ荷台を軽々と引っ張れるなんて……」
「荷台を引く負荷がないから、馬に乗りながら移動出来るんじゃないか?」
「馬が引かずとも、人が引っ張っても大丈夫なんじゃ……」
馬が軽々と荷台を引く様子を見て、様々な考えが浮かんでくる。今までの輸送の概念が崩れていくようだ。
「良い調子で検証が進んでいくわね。これなら、すぐに商品化ができるんじゃないかしら」
『検証のデータをまとめています。このままデータを積み重ねて、適切な商品を作り出しましょう。設計図などは私の方で考えます』
「叡智がやってくれるの? だったら、間違いないわね。じゃあ、このままデータを積んでいくわ」
叡智が設計をしてくれるなら安心だ。きっと、すごい荷台が出来るに違いない。いいや、荷台どころか他の物も開発してくれるだろう。
とりあえず、今は荷台の開発に集中だ。
「次は稼働時間を見て見ましょう」
◇
検証は問題なく進んでいく。様々なデータを手に入れて、それを叡智に読み込ませていく。それをもとに足りないデータを洗い出して、また検証をする。その繰り返しで、確実に商品化へのデータを蓄積していった。
そして、叡智が――。
『検証は完了です。設計図を描きましょう』
とうとう、商品の設計図の構築が終わったらしい。私はすぐに机に向かって、叡智のいう通りに設計図を描いた。出来上がった設計図を見て、高揚感が沸き上がって来る。
「これが浮遊する荷台ね。名前は何にしようかしら?」
『フロートキャリーというのはどうでしょう。異世界の言葉を組み合わせてみたのですが……』
「フロートキャリー……いいわね! じゃあ、フロートキャリーで決定よ!」
設計図を描いた、名前も決まった。あとはこの設計図通りに作るだけだ。私は出来上がった設計図を手に持って魔道具協会へと向かった。
◇
魔道具協会に設計図を持ち寄ると、早速職人たちが設計図通りにフロートキャリーを制作していく。
まずは荷物を積む、荷台の部分。職人が切り出した木材を繋ぎ合わせて、重たい積み荷を積んでも壊れないように頑丈に作っていく。
荷台の部分が終われば、次は合成石を取り付ける作業だ。合成石を付ける場所は荷台の四隅の端に決まり、その四隅に合成石を魔鉄で取り付けていく。
その後、四隅を魔鉄で繋ぎ合わせて、力を流動させる配線を作る。これで、浮遊の力が安定してくれるはずだ。
様々な職人の手で作られた、一つの魔道具。それが完成した。見た目は普通の荷台に見えるが、その四隅には合成石がしっかりと取り付けられていて、そこを起動すれば浮遊する。
「じゃあ、動かすわよ」
私は合成石を起動させた。すると、荷台は浮遊の力を得て浮かび上がる。その瞬間、周りが騒めく。
「よし、始めは良い感じですね」
「では、ちゃんと稼働をするかテストをしていきましょう」
「このテストが終われば……」
今までの検証データの蓄積で出来た荷台。これからが本番のテストだ。みんな固唾を呑んでそのテストの様子を確認していく。
荷物を積んでいない時の稼働実験。問題なく浮かんで動き、傾いたりはしていない。これなら、荷物を積んでも大丈夫そうだ。
次に荷物を積んだ状態で稼働実験。一トンもの荷物を積んでも、しっかりと浮かんでいる。動かしてみると、荷物を積んでいない時よりも動きは緩やかだが問題のない範囲だ。
その状態で大きく曲がったり、蛇行したり、と様々な進み方を試してみた。だが、荷物が落ちる心配はなく、とてもスムーズに進んでいる。
様々な実験をして――とうとう最後の実験が終了した。その瞬間、ワッとなって職人たちが声を上げる。
「完璧ですね! 不備が見当たらないです!」
「やりましたね、レティシア様!」
「よくここまで形に……おめでとうございます!」
みんな口々に完璧に出来た魔道具にお祝いの言葉を言う。その喜びようは無邪気な子供のようで、緊張で重くなっていた心を軽くしてくれる。
「みんな、ありがとう。ここまでこれたのは、みんなが協力してくれたからだわ。私の一人じゃない、ここにいるみんなの力のお陰よ」
差し出される手を握り、また差し出された手を握る。その握手の応酬で大変だが、私もみんなと握手をしたかったからその手を握った。
お祝いの言葉は飛び交っているが、これは終わりではなく始まりだ。私たちはようやく一歩を踏み出していける。みんなの嬉しそうな顔を眺めて、魔道具展示即売会に思いを馳せる。
「魔道具展示即売会までにフロートキャリーを量産するわ。みんな、ここからが力の見せ所よ!」
私の言葉に職人たちは真剣な表情で頷いた。あとは、量産あるのみ!




