43.障害発生
鉄鉱石と魔石の採掘が進み、鉄と魔石と魔鉄の製造が可能になった。
あとは、自領での魔道具の生産が始まれば、領の収入をもっと増やすことが出来る。そうすれば、財政だって立ち直るはず。
領館に戻った私はすぐに売買の連絡を周辺の領にした。元々周辺の領はランベルティ地方の素材を有効的に使い、共に発展してきた仲だ。
だから、今回も量産の態勢が整って喜んでいるはず。――そう思っていたのに。
「……これは、どういうこと?」
届いた手紙を見て、私は驚愕していた。それらは各領主からの手紙で、商品の売買は出来ないという意思を示したものだった。
どの領主も、口を揃えたようにこう書いていた。
『申し訳ないが、今回の取引は見送らせていただきたい。事情をご理解願いたい』
理由は書かれていない。まるで、裏で示し合わせたような統一された拒絶。私は唇を噛み、椅子にもたれかかった。
「これじゃ、商品を売れない」
新しく整えた採掘場。増員した労働者。量産体制を整えるために用意した様々な素材。それらは全て、売れることを前提に動いていた。
過去に売ったものだから、今回も売れると思っていた。だが、現実は上手くいかない。
「まさか……誰かが、裏で手を回した……?」
『十中八九、継母が関わっていることでしょう』
「はぁ……こんなところにも手を回してくるなんて」
折角、量産体制が整ったのに、あんまりの仕打ちだ。
「どうすればいいかしら?」
『断ってきたのは、以前に取引のあった領です。なので、新規開拓をしましょう』
「というと、新しい領に取引を持ちかけるのね。でも、そうすると輸送コストがかかってしまうわ」
取引できないのは周辺の領だけだ。継母も全ての領に手をつける余力はなかったのだろう。
新しい領に取引を持ち掛けるのはいいが、二領も離れていると輸送コストがかかってしまう。そうすると、利益は下がってしまうだろう。
何か良い手立てはないか……。腕を組んで考えている時、慌ただしく扉が開けられた。現れたのはハイドとガイだ。
「レティシア様、大変だよ!」
「どうしたの?」
「魔道具の販売先がほとんどなくなってしまったんだ」
「……やっぱり、そっちにも手が回っていたのね」
領同士のやり取りから、商会のやりとりまで制限させられたことになる。これは、かなり厄介な手を使われてしまった。
「そちらの領とは取引出来ないって言う事ね」
「そうだが……何故、分かった?」
「こっちにもね、同じ手紙が届いたのよ。どうやら、継母が手を回したみたい」
「継母というと……王妃様が?」
「えぇ。私を目の敵にしているのよ。だから、活躍なんてさせない気なんでしょうね」
まさか、正面から妨害してくるなんて……。いつもはなんてことない妨害だったけど、今回は効くわ。
「今は以前取引のあった領は諦めましょう。きっと、そう長くは続かないはず」
「じゃあ、一時的だということか……。でも、それを悠長に待っている時間はない」
「そうだな。今すぐにでも収入が欲しい状況だ。販路を確保する必要がある」
「とにかく、今は売り先を見つけないと」
私は地図を広げ、ランベルティ地方を中心とした周辺領を指でなぞった。近隣は全滅。だが、少し範囲を広げれば、取引の可能性がまだ残っている領はある。
「この中で、以前接触のなかった領を当たってくれない? できれば、魔道具の取り扱いがある商会も同時に洗って」
「了解!」
「分かった!」
「私は領主に掛け合ってみるわ。ゼナの様子はどうかしら?」
「ゼナさんならもう少しで話がまとまりそうって言ってたよ」
「じゃあ、そっちが終わったらこっちをすぐに手伝ってくれるように伝えて」
「分かった」
指示を飛ばすと、ハイドとガイが機敏に動いてくれる。慌ただしく部屋から出て行くと、部屋はまた静かになった。
「ふー……とりあえず、こんなものかしら」
『一難去ってまた一難ですね』
「そうね。ふふっ……」
叡智の言葉を聞いて、思わず笑みが零れる。考えるのは継母のこと。いつも妨害ばかりしてきたけれど、今回も良いタイミングで仕掛けてきた。
やりそうだとは思っていたが、本当にやってくるとは。流石、あの継母だ。
「また継母の妨害だけど、今回もしっかりとやり込めてやるわよ」
『あの人も諦めが悪い人ですね。お陰で、レティシアが変な方向に成長してしまいました』
「変って何よ。たくましいって言って欲しいわ」
『苦境で笑う事が出来るなんて、レティシアだけですよ。レティシアにはスローライフは出来ませんね』
「今、流行りの奴ね! その内、体験してみたいわ!」
『レティシアの体験するスローライフはスローライフじゃなくなるような予感がします。レティシアには戦記が似合っているかもしれませんね』
「失礼ね! 私だって休息は必要よ!」
状況は追い詰められているけれど、この状況を楽しんでいる自分がいる。それもこれも、頼もしい相棒がいるから悲観せずにいられるのかもしれない。
次の関門も叡智と一緒に乗り越えるわよ!