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3.ここまでの道のり

 私の名前はレティシア・プロヴァンス。プロヴァンス王国の第一王女で年は十八歳。お父様譲りの透き通るような青い目と今は亡きお母様の艶やかな銀髪を受け継いだ、正真正銘の王女様。


 小さい頃にお母様が亡くなり、お父様は継母を迎え入れた。初めは優しかった継母も、跡継ぎの王子を生んでから様子が変わった。私を目の敵にし始めたのだ。


 その頃の私は学問、芸術、武術において秀でた才能を発揮して神童と言われていた。次期女王も夢ではない、と持て囃されていた。


 継母としては、自分の子を次期国王にしたいと思ったのだろう。私を冷たく突き放し始めた。私は認められようと必死に勉学に勤しみ、もっと出来る子になろうと努力した。


 だけど、努力すればするほど継母は冷たくなる一方。いくら頑張っても振り向いてくれない継母の事は諦めよう。そう思って離れた時から、継母は私に無理難題を押し付けるようになった。


 相手にしたくなかったが、無理難題をクリアしないと叱咤されるのは目に見えていた。だから、それを次々とクリアしていく。すると、日増しに継母の私への態度が悪化していった。


 継母は私の失敗を望んでいたみたいだけど、当時はそれに気づかずにクリアしたため、継母の目論見を見事に潰していたみたいだ。それを何度も繰り返すと、修復不可能なくらいに私と継母の関係は悪化した。


 王宮は私にとって窮屈で息苦しい場所になっていった。


 年数は過ぎ、私は結婚適齢期に差し掛かる。すると、今まで冷戦状態だった継母が私の結婚相手を見繕ってきたのだ。あの継母が私のために動いた? その不可解な行動には疑問が残った。


 だけど、私の疑いとは裏腹に交際は順調に進み、正式に婚約を結ぼうというところまで進んだ。だけど、それに待ったをかけた存在がいた。生まれた時から私に備わっていた、叡智という存在。


 叡智は私の近くにいる目に見えない不思議な存在。色んな知識を兼ね備えた存在で、私が叡智を兼ね備えた才媛の姫と呼ばれるようになったのは全て叡智のくれる知識のお陰だった。


 その叡智が私に言ったのだ。婚約者には女がいる、と。


 私との交流を見ていた叡智は婚約者であるセリオントに女の影を感じたみたいだ。誠実そうで優しい雰囲気のセリオントに他の女性が?


 私は初めは疑った。だけど、叡智が嘘をいう事はない。だから、私はセリオントではなく長年の友の叡智を信じた。


 それから、もう一度婚約の契約書を確認すると、そこには結婚後は理由があれば女性を囲ってもいいという文言が載っていた。これは、結婚後に女性を囲う意思があるということだ。


 そうなれば、結婚後は悲惨な出来事が待っている。だから、私たちはこの契約を破談にするために知恵を絞った。


 それが、婚約中は婚約者以外の異性と交際しないこと、という文言を付け加える事だった。その文言の追加は受け入れられた。どうやら、相手はそれを障害とは思ってもなかったみたいだ。


 これが計画の第一歩。それから相手がしっぽを出すまでひたすら無駄な交流を進めた。だけど、セリオントは中々女性の影を出さなかった。


 これでは婚約を破談には出来ない。そこで新たに案を考えた。結婚後、しばらくの間結婚の契約決定を先延ばしにすることだ。


 しっぽを出すなら、契約が破談にならない結婚後だろう。だから、罠を張る。新婚期間中はまだ婚約者の契約を継続させる罠だ。


 婚約契約を伸ばす事は私に甘いお父様にお願いすると、すぐに了承してくれた。だけど、これは継母には秘密だ。もし、セリオントと繋がっていて情報を流されたら危ない。


 そして、結婚式当日の初夜にとうとう本性を現した。


 事前に用意していた記録の魔道具を使い、セリオントたちの行動や言動を記録、すぐにお父様に提出した。私に甘いお父様はもちろん大激怒。すぐにセリオントは拘束され、見事契約は破談になった。


 だけど、話はそれでは収まらない。


 婚約を破談にする初期の頃、叡智は破談になった後の事を予想してくれた。導き出された答えは――継母によって王家を追放されることだ。


 その手段として使ってくるのが王家直轄領の領主になること。継母は必ずこの手を使ってくると叡智は断言した。


 叡智が言うのならば、絶対だ。セリオントとの交流を進めながら、領地運営の勉強もしていた。領地運営の勉強はとても面白いもので、私は強い興味を持った。


 今まで色んな事に挑戦してきたけれど、領地運営は今までの挑戦よりも遥かに難しいものだ。その難しさが私の心に火を付けた。


 それに追放されれば、この窮屈な王宮から逃げ出すことが出来る。王女というしがらみから解放される日の事を思うと、心が躍った。


 他の女に興味を示すセリオントとの婚約は嫌だ。という気持ちから、早く婚約破棄して王家追放をされて自由になって領地運営を任されたい。そう強く思うようになった。


 そして、今日。それが叶ったのだ。


 嬉しさのあまりベッドに飛び込み、ゴロゴロと転がった。


「はぁー。ようやく自由の身になって領地運営が出来るのね。すっごく楽しみ! ねぇ、叡智はどう思う?」

『あの継母の事です。栄えている領地を預ける可能性はゼロに等しいでしょう』

「えっ!? じゃあ、栄えていない領地を預けることを考えているってこと!?」


 確かに、叡智の言う通りかもしれない。あの意地悪な継母が栄えている領地を預けるとは考えにくい。でも、王家の威信を大事にする継母の事だから、よっぽど変な領地を預ける事もないだろう。


 王家の威信を考えながら、適した領地を預けてくる。これは凄く面倒くさそうな匂いがするわ!


「ということは、大変な領地運営になるってことね!」

『大変なのは苦労が多いという事。なぜ、苦労をそこまで喜んでいるのか分かりません。あぁ、失礼しました。レティシアは苦労がお好きな変わり者でしたね』

「変わり者だなんて失礼よ! 働き者って言って欲しいわ」


 叡智ったら一言多いんだから。でも、否定が出来ないところが悔しいわよね。


「こうしちゃいられないわ! 王宮にいる時間は短い。今の内に王宮にある領地運営に役立ちそうな本を片っ端から読み込むわよ!」

『それなら私がいるじゃありませんか』

「教えられて理解出来るのは、ちゃんと下地があるからよ。その下地づくりをしなくっちゃ。よし、図書館に籠るわよ! 分からなくなったら、叡智の説明を期待しているわ」

『分かりました』


 私の領地よ、待っていて!

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