22.みんなの力を一つに
『すぐに行く事はオススメしません』
叡智から言った言葉は私の背中を押すようなものではなかった。
『このまま行くと百パーセント、敵意をむき出しにされます』
「でも、会わないことには始まらないじゃない」
『今のままはダメです。手を打ってから会いに行けばいいと思います』
「ふーん。その手って何?」
この後に及んで手を打つ必要がある?
『まずは生活の質を向上させましょう。十分な生活費を渡して生活に支障がないようにするのです。そうすると、私たちに向けられる敵意は少なくなります』
「まぁ、鉱員たちが困っていることを解消して上げるのが一番の手だと思う。けど、それには時間がかかるわよね」
『ひと月ほど様子を見るのがいいでしょう』
「ひと月! そんなに待っていられないわ!」
ひと月あれば、色んな事が出来るのに! 指をくわえて待っていろっていうの? 相変わらず、回りくどいやり方をするのね。
「だから、すぐに会いに行くわ」
『効率的ではないので却下です』
「でも、それだと話が進まないでしょ。魔石と鉄が含まれた地層を探すのは私なんだし、私が動いたほうがいいわ」
『話を聞いてくれなかったら無駄足になります。ここはじっくりと攻めたほうがいいでしょう』
中々引き下がらないわね。少しでも早く展開させたいのに、このままじゃ進まないわ。
「絶対に私が説得する。諦めない。だから、行ってもいいでしょう?」
『そういう慢心がダメなのです。諦めないとかの話じゃなくて、効率的に』
「もう、叡智の分からず屋。叡智の作戦をやったら、待っている間に町の人達が減っちゃうでしょ。のんびりとなんかしてられないわ」
私と叡智の気持ちが重ならない。時々、こういう時がある。そういう時はどちらかが折れるまで言い争いをするのだが……。
「叡智様はなんとおっしゃっているのですか?」
「私を敵意のある場所に行かせるのは非効率だって言って聞かないのよ。ねぇ、一緒に説得してよ」
「鉱員がレティシア様に敵意をですか……。その場所にレティシア様を行かせるのは危険ですね」
私が危険? そんなの大丈夫よ、だって私は強いもの。それは叡智が良く知っていると思うんだけど……。
「叡智様はきっとレティシア様の事が心配なのですね。だから、必死で止めているんだと思いますよ」
「叡智が私の心配を?」
「レティシア様が行こうとしている場所は敵意が増した鉱員が住んでいる場所。そんなところに、こんな人数で押しかけたら何をされるか分かりません。だから、叡智様は行かせたくないんだと思います」
効率的じゃないって却下されたけど、本心は違うところにあるっていうの?
「ねぇ、叡智。今の話は本当?」
『……違います。私は非効率なのが嫌なだけであって』
「ふーん、私の事を心配してくれているんだー。私が強い事を知っているのに、それでも心配してくれているんだー」
今の話を聞いて愉快な気持ちになった。効率的な話をしているんじゃなくて、ただ私を危険な場所に行かせたくなかったからなんだね。叡智も優しい所があるわ!
「どうやら、叡智様はレティシア様の事が心配みたいだね」
「だな。とても大事にしているように思うぞ」
『なっ! 私はただ! 非効率が美しくないだけで、心配はそんなにっ』
「ざんねーん! 叡智の声は届きませーん!」
三人の言葉を聞いて叡智は焦っているようだけど、弁明の余地はない。だって、私にしか声が届かないのだから。
「ふふっ、心配なら心配って言ってくれればいいのに。それなら、やりようはいくらでもあるわ」
『やりようって……どうせ力で解決するのでしょう?』
「力づくで分からせようとしてきたら、思いっきりやり返してやるわ!」
私をそこらへんにいるか弱い女子だと思ったら大けがすることを教えてやらないとね。
『そんなことをしていると、信用してくれなくなりますよ』
「分かってるわよ。だから、力は最終手段。まずは話し合いで鉱員たちを説得してみせるわ。叡智が知恵を絞ってくれるんだから、私は行動するしかないじゃない」
叡智の知識には感謝している。いつもそれで助けられた。だけど、それだけじゃダメ。私もそれに合わせて行動をしないといけない。立ち止まっていては、何も始まらないのだ。
「私たちには信用がない。これからは真摯に対応して信用を勝ち取らないといけない。だから、敵意があるからって怯んでちゃダメよ。味方になって貰えるように努力するべきだわ」
「……そうですね。なら、私たちも行動しないといけませんな」
「そうだね。現状を変えるには行動が一番だ」
「この町を良くしてやろうぜ!」
そうだ、行動をして現状を打破しよう。結果はおのずとついてくるだろう。
「鉱員への説得は私がやるわ。あと先にやりたいのは、やっぱり税収の事よね。今のままだと町民が逃げてしまうわ。早くどうにかしないと」
「では、私が役場に掛け合いましょう。今の時点で税金を下げるのは、反対意見が多くなりそうですからな。その説得は私に任せてください。ハイドとガイはレティシア様と一緒でもいいですか? 一人で行かせるのは心配ですから」
「ゼナ一人で大丈夫かい?」
「大丈夫です。こういうのは得意ですから」
「なら、俺たちはレティシアについていく。俺たちも役に立ちたいからな」
役割分担が決まった。私、ハイド、ガイは鉱員たちの居住区に行き、仕事の再開をお願いする。ゼナは町民の税金を引き下げるために、役場に赴いて説得をする。うん、仕事が本格化してきたわ!
「みんなの力を一つにして、この困難を乗り越えるわよ!」




