2.王家追放
「セリオント・フィダンツァ公爵子息! 契約違反につき、その身柄を拘束しに来た!」
盛大に扉が開かれ、先頭を行く官吏が大声を張り上げた。すると、後ろに控えていた騎士たちが部屋になだれ込んでいく。
朝に似つかわしくない状況に寝ていたセリオントとアザリエはベッドから飛び起きた。
「な、なんだ!?」
「何よ、これ!?」
裸の二人を騎士たちは取り囲み、剣を突き出した。思ってもみない状況にセリオントたちは混乱しているようだが、すぐに気を取り直す。
「何をしに来た! ここはフィダンツァ公爵家の屋敷だぞ! 勝手に騎士を向けるな!」
「契約違反をしたのはセリオント、貴様の方だ」
「契約違反? なんだそれは。俺は契約違反なんてしてないぞ」
「だったら、そこで寝ている女はどういうことだ?」
「これは結婚してから運命の出会いがあったんだよ。俺はこのアザリエを妾にすると決めた。結婚後なら、事情さえあれば妾をとってもいい話になっているはずだ」
セリオントはあくまでもアザリエは結婚後に囲い込んだ愛人だと主張した。私たちの政略結婚には様々な契約があり、それを破るとこの契約は破談になる仕組みになっている。
その中に結婚前は他の異性を囲わない、という物がある。だから、セリオントは結婚までアザリエの事を隠していたみたいだ。だけど、それはちゃんと結婚を承認してからだ。
「残念だったな。レティシア様との夫婦になる契約書はまだ受理されておらん」
「……は?」
官吏の言葉にセリオントは間抜けな顔をした。だけど、すぐに笑い出す。
「はははっ! 何を冗談を! 昨日、しっかりと契約書に記入したじゃないか!」
「残念なのはお前の頭だ。あれは契約書にサインをした後、大司教の印がないと効力を発揮しない」
「印なら押して……」
そこで、ピタリと止まった。部屋が静寂に包まれると、私はセリオントに近づいて教えてあげる。
「私たちはまだ正式な夫婦じゃありません。夫婦もどきと言っておきましょうか」
「まだ正式な夫婦じゃ……ない?」
「こういう場合を見越して、印を押すのをひと月待ってもらっていたんですよ。まさか、結婚式の初日でしっぽを出すとは思いませんでしたが」
セントリオは今も信じられないような顔をしている。だから、もう一度伝えてあげる。
「私たちはまだ夫婦じゃありません。よって、セリオント様は結婚前に異性を囲う契約に違反した事になります」
「そんな、まさか……嘘だ!」
「嘘なんかじゃありません。では、これから王宮でその証明を見せましょう。それだと納得してくれるでしょう」
「連れていけ!」
信じられないとセリオントは喚くが、これが現実だ。官吏が声を上げると、騎士たちは裸の二人をシーツでグルグル巻きにして運び出した。
私もここに用が無くなった。喚く二人を見ながら、私たちも王宮へと向かった。
◇
セリオントの契約違反によって、この結婚はなくなった。契約に反したフィダンツァ公爵家には莫大な賠償金の支払いが命じられ、様々な既得権益を王家に献上するはめになった。
フィダンツァ公爵の権威は失墜し、セリオントはその責任を取らされ廃嫡された。アザリエも男爵令嬢だったらしく、同じように責任を取らされて廃嫡され、二人一緒に市井に落とされた。
これで話はおしまい。という訳にもいかなかった。
「王家に出戻りとは……王家の恥です!」
継母に呼ばれると開口一番にそんな事を言われた。
「ま、まぁまぁ。私はレティシアが戻ってきてくれて嬉しいぞ」
継母の隣に座っていた国王であるお父様は怒り心頭な継母を宥めようとしてくれていた。でも、継母は私の事を良く思っていないので、怒りは収まらない。
「私が整えた結婚を破談にして、王家に出戻りなんて……! あなたは王女としての自覚はちゃんとあるのですか!? ちゃんと自覚をしていれば、出戻りなんてことにはならないはずよ!」
継母は私が出戻った事にご立腹のようだ。それもそうだ、自分で必死になって整えた縁談を結婚式初日で破談にしたのだから。王妃としての顔に泥を掛けられた気分ななのだろう。
「言っておきますけど、あなたが嫁げる先はもうなくてよ! 上級貴族たちにはすでに婚約者がおり、そこに割って入る事は出来ません! 中流以下の貴族に嫁がせることも可能ではありますが、それだと王家の威信に関わります!」
継母にとって大事なのはお腹を痛めた子だけで、継子の私のことなど本当はどうでもいい。でも、王妃だから体裁を保たなければならない。だから、そんなことを言って、相手を探さないと宣言しているようなものだ。
「よって、このまま王家に戻すことは出来ません。降嫁するのに適した貴族がいないいま、取れる手段は一つです」
――とうとう来た。
「王家直轄領の領主となるのです」
私がこのまま王家に戻ることを良しとせず、代案として王家直轄領の領主になる事を勧められた。勧められたというよりは、もう決定事項なようなものだ。
「王家は追放です! あなたはこれから領主となって、その土地で生きなさい」
――その言葉を私は待っていた。
「はい。分かりました、お継母様」
感情を出来るだけ消して、私は承諾した。
◇
継母の話は終わり、私はしばらく自室に戻ってきた。そして、周りがいないことを確認して、感情を爆発させる。
「やっっっったーー! 作戦大成功!」
『おめでとうございます』
歓喜に満ち溢れる私の頭に無機質な声が届く。
「ふふっ、叡智のお陰で願いが叶っちゃったわね」
『恐れ入ります』
すべては叡智と私の筋書き通りになった。