11.領館始動
「ようこそ、フォリンダの領館へ。私が領主のレティシア・アナスタージよ」
応接間に通したみんなの前で自己紹介をすると、ゼナ以外のみんなが驚愕した顔になった。
「レティシアさんって……領主だったんですか!?」
「ふふっ、そういえば言ってなかったわね」
「言ってなかったって……そういうものは早くいうものだろう!?」
「大っぴらに言えなかったのよ。ごめんなさいね」
「やはり、そうでしたか……」
みんなが信じられないといった顔をした中、ゼナは落ち着いて事実を受け入れていた。
「レティシア様、自分の事を紹介していなかったのですか?」
「言っても信じてくれないと思ってね。ここに来たら、嫌でも信じられるでしょ?」
「それはそうですが……。悪戯が成功したような顔をしないでください」
セリナに叱られてしまった。でも、みんなが驚いた顔を見れてとても楽しかったわ。
昨日、領館で働く人達を見つけてきた。そのみんなには領館の前に集合と言ってあったので、問題なく領館の前にみんなが集合してきた。
領主の私が出迎えに行くのもダメなので、セリナに頼んで応接間まで連れてきたところだ。昨日は軍服のような私服を着て、今日は貴族の令嬢が着るようなドレスを着ていたから、想像していなかった姿を見てみんなは驚いていた。
まぁ、詳しく説明するのはこの姿の方が楽だったから説明していなかっただけなんだけどね。お陰でみんなはすぐに私を領主として見てくれた。
「という訳で、これからは私がみんなの上司になる予定だから、そこのところよろしくね」
「今まで馴れ馴れしくしてしまって、ごめんなさい!」
「いいの、いいの。言わなかった私が悪いんだから気にしないで。それで、私が上司でもみんなはここで働いてくれる?」
再度問いかけると、首を横に振る人はいなかった。よし、領館で働くこと決定ね。
「じゃあ、まずは住む場所……宿舎を案内するわ」
「では、皆さん。私に付いてきてください」
セリナが扉を開いて出て行くと、みんなが後についていく。私も気になったので、その後を付いていった。
◇
領館と宿舎は別々の建物になっている。裏玄関を開けて外に出て、少し歩けばすぐに着く。その宿舎に入り中を見て回った後、部屋割りを決め、制服を支給した。
その後、荷物の整理をしてもらい、制服に着替えてもらった。
「うん。みんな、似合っているわ」
談話室で待っていると、みんなが制服を着た姿で現れた。人数は少ないけれど、とりあえずこれで回していくしかない。
「これでみんなは一緒に働く仲よ。働く前に少しの交流を深めましょうか」
お互いの名前も知らずに働くのは都合が悪い。私の言葉にみんなが反応して、お互いに名乗り始めた。
「私の名前はミナよ。よろしくね!」
「レイナっていうわ。これからよろしく」
「オルカです。よろしくお願いします」
元気溌剌な少女はミナ、女性らしい少女はレイナ、丁寧な対応をするのはオルカだ。それにタナトスさんの奥さんはトリス、そのお子さんの名前はレック。ゼナが連れてきた少年はストリムという名前らしい。
一度に名前を言われると、覚えられないわね。そういう場合は叡智が役に立つ。
『顔、声、名前を一致させました。記憶しましたので、お困りがあったらお聞きください』
こうして、私の補助記憶として便利な存在だ。困った事があれば叡智はなんでも知っているから、なんでも答えてくれる。知っていればだけどね。
そうして、みんなでワイワイと交流をしていると緊張した雰囲気が溶けだしてきた。最初の交流は成功かな?
「交流も深めたし、領館に戻って仕事の説明をするわ」
「では、皆さん。付いてきてください」
私が先頭になって宿舎を出て行くと、セリナの後にみんなが付いてくる。
ようやく、この領の事について知ることが出来る。一体、この領はどうして財政破綻寸前までいったのか……。その原因は一体何かしら?




