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強欲と英雄  作者: とろろ
第三章 転変動乱
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夜戦②

超かぐや姫超面白い

鬼飼立黄には才能があった。

「命を踏みにじる」才能が。


初めて気づいたのは妹を守るため、

まだ小学生のころだったか。

妹を殴ろうとした父を抑えつけ、無我夢中で殴り続けた時だった。


奪われたくなかった。

守りたかった。

兄なのだから。

たとえ妹に誤解されようとも。

どこに行くにも自分の後ろを歩き、服の裾を掴みながら楽しそうに笑う少女がいつか1人で歩くこととなっても、


父の顔を、腹を胸をただ殴り続け、その音が激しくなるにつれ、父の出す音が減ってきた頃、自分の暴力性と、その総量に気づくしかなかった。


そこから少し時は経ち、小学校卒業式を終え、妹と家に帰ると父と母はいなかった。

そこから先の記憶は今でも鬼飼は意識して思い出さないようにしている。

盗みもやった。恫喝もした。

妹だけは、どうか。

そんな願いと共に、社会のルールとはかけ離れた行為を何度も何度も。

そんな繰り返しの中、超えないようにしていた

「殺人」の一線。その線を踏み越えそうになったことがある。


その日はなんだか嫌な朝だった。

妹が小学校に向かったことを確認し、いつもの仕事へ向かい雑居ビルの中で相手を待つ。取引相手の売人が扉を開けるのと、幼界の発生は同時だった。


そこからは早かった。

売人と自分の近くに湧いた怨牛から逃げ惑う中で、売人に背中を殴打され、身代わりにされそうになり、無我夢中で掴んだ足をそのまま折った。


直接殺そうとした訳では無い。

ただそれでも鬼飼の中では、「殺す」ために取った行動であることに変わりはない。


怨牛の突進が、売人を轢き殺そうと、認識できない声をあげるのをただ見ていた。


「阿頼耶」


亡獣と売人の間に空気の壁ができあがり、

襟足の長く、闇より真黒な髪色の男。


2人はその男に救出されていた。


売人は自らの脚を折ったことを鬼飼に糾弾するが、王善と名乗ったその男と外で数分話をし、なにかに怯えるように折れた足を引き摺りながら逃げていった。


「---さて、それでは次は君の話を聞きましょうか。」

「いや、、話すも何も訳がわかんねェよ。」


頭が吹き飛ぶほどの勢いと衝撃。


「敬語。常識をどこかに忘れてしまったのですか?」


王善の手が中指を弾いた形で自分の顔の前にあった。デコピンをされていたらしい。


ただ親からの暴力にも

同級生との喧嘩にも

裏世界でのいざこざにもなかった。

自分を真正面から見た・見ようとしたが為の叱責のように感じた。


「あ、すま、すみません」


「なんだ。いい子じゃないですか。偉いですね君は。」


その一言が理由だったのか、

もっと違うところに理由があるのかは分からない。

ただ、父を初めて殴った日から背負い続けてきた荷が、降りたようなそんな感覚。

その感覚のまま鬼飼はただひたすら泣いた。


ひとしきり泣き終えたのを確認し、王善は鬼飼へと確認する。


「君、さっき私が何をしたか見えましたか?」


「変な壁というか。空気が硬くなッたような感じがしました」


「ふむ。合格。明日からウチに来なさい。」


「へェ!??」


「間抜けな返事ですね。もう一度デコピンでもいいのですが状況が状況なので許しましょう。

明日から毎日、朝9時にここに来なさい。」


「....助けてくれたことは本当にありがてェと思ッてます。でも妹が..」


「ああ、問題ありませんよ。お金なら渡します。」


「ハァ!!?」


衝撃音。今回は許しては貰えなかったようだ。


「うむ。君は頑丈ですね。」


指を振りながら王善は笑う。


「しっかり叩いてあげますよ。」


次の日から勉強及び幼界での戦闘のための訓練をひたすら仕込まれた。


「ほらほら、貴方には他の人より今使える時間に対してやらないといけないことが多いのですから。へばっては行けませんよ。」


「...押忍!!」


訓練場で転がされ、血反吐を吐き、それでも戦うために立ち上がり続ける。


「王善隊長だいぶハードですよこれ。鬼君気合いだけでたってますって。」


「だからですよ。宇道。貴方もやりますか?」


「遠慮しておきます。頑張れよ鬼」


宇道と呼ばれた隊員は苦笑いしながら下がる。

鬼飼にとってその時間は、苦しくも嫌なものではなかった。


王善は鬼飼に、

妹を守る術

居場所

仲間

を与えてくれていたことに気づくのに、そう時間はかからなかった。



-----


「てめェは宇道さんを殺した。」


「だから?」


「殺す!」


「先に指導でしょう。」


背中から顕現する鬼の振りかぶった一撃はまたも蜃気楼を掴もうとしたかのように箕島からすり抜ける。


鬼飼は背後からの回し蹴りをもろにくらい吹き飛ぶ。


「先程から何度繰り返すのですか。そろそろ諦めたらどうです?」


「うるせェな....!!」

「白遊」


白刃の触れた門が捻れながら箕島の頭上へ、


「これも先程見た..」

「『爆ぜろ』」


落下する門だったものが唐突に破裂し、

箕島はまた手元のナイフで「なにか」を行いすり抜けるように攻撃を躱す。


「利き手は左

魁具土命で触れたなにかを条件にすり抜けてる。

恐らく人体でも攻撃そのものでもない。

ほぼ同時なことから有効時間は短いのか?

跳躍はだいたい2m

挟まれた時は片方の裏側に回ろうとする癖がある。

確認できた能力使用は恐らく5回

きめぇネクタイにキレやすい性格。

ブル先輩の攻撃を受けずに躱すってことは耐久に難アリって感じか?

一時的な無敵化なら不意を着いた攻撃を躱そうとはしないはずだ」


「東雲君が言っていたのはこれですか。確かにいい気分ではありませんね。」


「朱璃がいッてたのはこれかァ。それでいい。

おめェはそのまま分析続けろよ。」


メリケンサック状の魁具土命を改めて握り込み、鬼飼は笑う。


「仕方ねェ。先輩が手札増やしてやるよォ。」

「最初からそうしてくださいよ。」

「一言多い後輩だァ。」


鬼飼の背中から顕現する鬼が姿を消す。


息を吸って、一度止める。

吐き出して叫ぶ。


「冥号府堂!!」

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