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強欲と英雄  作者: とろろ
第二章 奇々怪界
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讃えて崇めて祈って捧げて②


空中に浮きながら少女は最低限の装飾の着いた錫杖を抱えていた。


ゆっくりと、まるで空間そのものを操っているかのように少女は2人の前に降り立つ。


傍目では隙だらけであった。


「続き、しよっか」


2人と柊の間には約10m程の距離があり、

魁で体を強化している二人であれば大体の攻撃も躱し、カウンターに出れる距離ではあった。


錫杖を地面に立てる。


その距離を3倍ほど空けさせ、2人を訓練場の壁まで後退させたのは


『威圧』か『能力』か。

はたまた両方か。


「素直でよろしい。」


大きく声は出していないはずなのに脳まで響き、心臓を揺さぶる声。

ゆっくり歩いているだけなのに生きていられる場所が無くなっていくような閉塞感。


ゆっくりと錫杖が振られるとただ、音を鳴らす。


2人に思考の余裕があったのはその音を聞いたところまでだった。


「しーちゃん!!」


地面に這わせていた蔓が錫杖を奪い取りにかかる。


「お!いいね」


そう柊は笑いながら錫杖をマジシャンのように振り回し蔓を全て躱してしまう。


(しるせ)


言葉と共に錫杖が蔓に触れる。

ただただ優しく。

初めて下の子が出来た姉のように。

幼児が動物を撫でるように。

女神が罪を赦すように。


ただただ優しく。

触れる力は上下関係を見せつける。


「嫌!!!」


弾かれるようにその蔓を錫杖から引き離し、

黒花は蔓を手元に戻した。


「結ちゃん!?後ろ!」


「え..?」


「『共打・(げき) 求道槌(ぐどうつい) 』」


黒花の背中に衝撃が走る。

柊一の右手から放たれた掌底により訓練場の端から端まで吹き飛ぶ。


「しーちゃん!」

「『灰円・(よう)!!』」


衝撃に備え、全身を球状に蔓で覆う黒花と

着火し、燃え上がらないギリギリで炎の円を用いて黒花を抑える火簾。


「それはだめじゃな〜い?熾織」


意識が救出に向かったその刹那を柊は刈り取りに来る。


既に胸ぐらを掴まれておりハンマー投げの要領で火簾は黒花の方へと吹き飛ばされる。


結果止まりかけていた勢いを黒花は取り戻し、2人まとめて壁に打ちつけられる。


「いったた...ごめん結ちゃん。」

「ううん。私こそごめん。」


立ち上がりながら2人は柊を今一度見る。


その瞳は、まだ。


-----

同刻 食堂


「暇だな。」


「ねー。任務くればいいのに。」


食堂で夜食を済ませ2人は管を巻いていた。


「そういや纏。」

「どったの」


「熾織とお前ってどっちが先に入隊してんだ?」


「熾織のが先だよ。俺が美鈴ちゃんに拾われた時には居たもん。」


「2番隊でも古株になるのかじゃあ。」

「あーそういえば話してなかったね。」

「ん?何をだ?」

「熾織ってね。美鈴ちゃんいわく魁の細かい操作ははじめちゃんの次にうまいんだって。」


少し姿勢が驚きで正され、白刃は問い直す。


「まじ?」

「ねー意外だよね。それがあるから俺たちと一緒に任務してない2番隊含めても熾織は最近入った方だけど、」

「だけど?」

「少なくとも願と結ちゃんが入ってくる前までは2番隊で2番目に強いのは熾織なんだよ。」


真打の話で金陵が

「火簾はもう少し」と言っていた意味を理解し願は姿勢を戻す。


「教えてもらうか今度。」


----


「しーちゃん!橡!!」


錫杖を避け、黒花の操る蔓が柊へと襲いかかる。


「(おー。流石に錫杖狙ってこないか。もうひとつ工夫が欲しいんだけど。)」


それらを回避しながらそう評する柊。

視界の端には攻撃を繰り出してくる火簾の姿。


壱陽燕(ひとびつばめ)(あまね)

「!!」


壱陽燕は拳大の炎を魁で纏い、推進力を持つ、ある程度の操作が可能な中距離攻撃。20発程度までなら乱射も可能。


が柊の認識であった。

それは事実であり、消費する魁が少ないことからも火簾にとっても普段は隙を潰す、陽動に用いる攻撃であった。


ただ、今柊の眼前に広がるのは小指の先程の炎が、300を超える数展開された光景。


「(この2人。気づいてるな。)」


炎の玉が次々に柊へと襲いかかる。

柊はそれを躱しながら火簾へと接近する。


「しーちゃん。紫黒」


足元から尖った蔓の壁が柊を包囲する。


「なるほど。誘ったのか」


先程の紫黒と異なるのはドーム状の展開ではなく、頭上にだけ広めの穴が空いていること。


その穴から残った炎の玉が次々と襲いかかる未来が見えた柊はすぐさま行動に移す。


「印」


「ですよね。」

「隕戸雨淵」


炎の玉は柊を襲うのではなく、

黒花の作り出した弓矢の形をした蔓の元へ、

炎も合わせて形を変え、柊へと襲いかかる。


暗幕となっていた紫黒が解除された時には眼前に矢が迫っていた。


(よし)!!」


この日初めて、柊は錫杖を本気で振るった。


「(いない?)」


矢を切り落とした目線の先には黒花しかおらず、火簾が見当たらなかった。

魁の感知に反応したのはコンマ1秒遅れて。


自らの真下であった。


「うおりゃあああ!!!」


火簾は全力で振りかぶる。

柊の首に向けて、燃えた刀を。


「ッ!!」


訓練場中に響く衝撃音。

体をひねり無理やり躱しながら刀の峰を脚で砕き、止める。


金陵と綺堂が両手両足につけていた、1つで身体能力及び魁の操作を8割にする枷。

柊の両足から、それが7個、壊れて外れていた。


「っ...やったーーー!!!」


それを見て、砕けた蔓製の刀の柄を放り投げ地面に倒れる火簾。


いつの間にか錫杖に絡められていた蔓を、収めながら座り込む黒花。


そしてその両者を少し上がった息を整えながら満面の笑みで見る少女。


「2人とも大合格!」


-----


同刻 竜胆本部門前


竜胆では2・3番隊の隊員が、巡回制で毎晩侵入者が来ないよう門番を行っている。


たまたま本日門番をしていた3番隊の隊士は近くでこちらに向かう足音を聞き、意識を移す。


その足音はもうすぐまで来ていた。


「こんばんは。」


大きな袋を抱える、紺色のスーツを着用した丁寧そうな青年だった。

その青年は門番へと挨拶をする。


「なんだね君。ここは関係者以外は立ち入り禁止だ。」


「ほう。それは仕方ない。」


と一礼し、問いかける。


「ちなみに立ち入った場合、私はどうなるのでしょう?」


門番に対し物腰柔らかく。少し長めの前髪の間の瞳は門番を射通していた。


少し怯みながらも

「侵入者として処理されることとなる。」


「そうですか。それは怖いですね。重ねてにはなるのですが」


少し困ったように笑い、わざとらしく肩を青年は竦ませた。



「火簾熾織という少女がここにいるのは本当でしょうか?」


右手からナイフを出しながら彼は続けていた。


「侵入者あり。対処開始する。」


この門番の対応は決して間違っていなかった。

強いて言うのであれば、運が悪かったとしか言いようがないだろう。


「お疲れ様でした。質問に答えていただき、ありがとうございます。」


門番の背後に既に青年は回っており、

その門番は既に首が落ちていた。

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