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強欲と英雄  作者: とろろ
第二章 奇々怪界
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夢②


「ねぇねぇのんちゃん。なんであの場所にいるってわかったの?」

「お前おばさんが男連れ込む時いつもあの公園だろ。あとその呼び方やめろって。」


小学校1年生。黒花結がまだ色を知らぬ頃。

夢喰がみせた夢は


黒花結にとって最も地獄であり、

その分白刃願が輝いて見えていた頃のものであった。


母が自らを掴む手より

白刃の柔らかく自らの手を握る手が。

母が自室に知らない人間を連れ込みあげる甘い声より

白刃のぶっきらぼうで少し年にしては低めな声が。

母が外出する時につける香水の匂いより

白刃の鼻の奥をくすぐるような温かい匂いが。


何よりも大切で、依存していた。


そんな時の夢。


黒花結は柊より「今から起こる内容が夢である」ことを告げられていた。ただそれでもこれを夢だと認識できていなかった。


「ただいま〜」


「手洗いなさいよ。いらっしゃい。結ちゃん」


「あーい」

「お邪魔します。」


「結ちゃん元気だった?」

「はい!」

「ならよろしい。」


「かーさん。お菓子どこ?」


「戸棚の上。ちゃんと分けて食べなさいよ」

「あーい」


なんてことない日常。

自分には本来無いもの。

その一欠片を切りとった風景にしがみつくような感触。

その不快感と安心感が黒花結の心を撫で回していた。


「どうしたんだ?結」


可愛らしい白刃少年の顔が自らの顔を覗き込む。


「ううん。なんでもない。」

「(そっか。この頃はまだ前髪伸ばしてなかったっけな。)」


「(この頃?)」


黒花に宿った小さな違和感。

本人はこれをすぐ手放してしまう。


「結〜ゲームしようぜ。」

「いいよ〜。」

「こーら。先に宿題しなさい。」


「「はーい」」


歪であった。

母はいるが信頼できる肉親を持てなかった少女。

新たな命を腹に宿し、痛みとともにこの世へと迎えたにもかかわらず関心を持たぬ母。

代わりに依存できる親しい「他の家庭」。

そしてそれら全て容認する依存先。

全てが歪んでおり、その歪みに少女は生きていた。


その時の黒花結の日常は


白刃願と共に学校へ向かい

白刃夢の作る食事をとり、

風呂を借りて

睡眠と着替えだけを自分の家で済ませる。

休日は朝日が上り夕日が沈むまで白刃願と遊ぶ。

その繰り返しであった。


「(....ああ。好きだなぁ。)」


好き。

大好き。

大好き!!


同じような言葉が浮かんでは愛おしくなり、

ִֶ隣で面倒そうに宿題をする幼馴染を見ては手を伸ばしそうになる。


「ん?どうしたんだよ結。」


「なんでもなーい」


そう呟く少女はそのまま体を白刃願の膝へと傾ける。


「あー宿題どうすんだよ。」

「もう終わったもーん。」

「え!マジで!写させて!」


「だめー」


そうはしゃぎながら少女は右手で少年の頬に触れる。


「ばちん」


と音がして世界が入れ替わる。


目の前には酒で火照った顔をした自分の母。

手元には筒状に丸められた婚活雑誌。

それを読むではなく母は娘への暴力に使っていた。


黒花結は中学二年生になっていた。

変わり始める自分の体。

変わり始める周囲からの目線。

変わり始める自意識。

変わることのない母との関係。

変わることのない白刃への依存。


黒花結が地獄とも思わず繰り返すようになった日々。


「あんたのせいよ。あんたがあんな時にで帰ってきて、あの人の視界に入ったから!!私の欲しい男だったのに!誑かしてんじゃないわよ!!」


男に会うために整えたであろう化粧。

男の気を引くために着用したであろう衣服。

男に触れられるために作ったであろう肌色の面積。

男に近づかれるために纏ったであろう香水。


それら全ては男の居らぬ前ではただ滑稽に映るばかりであった。


母の言葉全てが黒花結の神経を逆撫でする。

母の思考全てが黒花結の表情を曇らせる。


「(ああ、もう終わってしまいたいな)」


「聞いてるの!!!」


とても怖かった。

たまたま家に必要な教材を取りに帰っただけだった。

テストが近く、白刃に勉強を教えてくれとねだられ、自分の書いたノートだけでは不十分だと思っただけだった。

家に寄り、再度白刃の家へと向かおうとすると「何か」を終えた母親と見知らぬ男が裸でリビングから出てきた。

何をしてたのかなど考えたくもなかった。

男は自分を見るなり口説こうとしてきた。

その目線は自らの顔と胸と足へと忙しなく動く。

そういった視線を向けられるのに耐えきれなかった。

否定の意思を示しただけだった。

男に腕を掴まれ、胸元に手を伸ばされた時身体が勝手に動いていた。

明確に否定され、プライドとやらが傷つけられた男は黒花結に乱暴しようとし、必死に逃げた。


その後白刃の元へと戻りただただ、泣いた。


「ああ。もう。なんなのよあんたは!」

「うるさい」


「もう、私に関わらないで...」


最後の決裂だった。

この言葉を受け、母がどう思ったのかなんて、どんな顔をしたかなんて、黒花は考えもしなかった。


「じゃあ死ねよ。」

目の前にいたのは、愛してやまない白刃願だった。


白刃の顔と声が、黒花結の母親が告げたその言葉を自らに浴びせてくる。


夢喰は「最も望まぬ過去を最も求めぬ今」として見せる。

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