passionato
「なんかあったら教えてねっ、待ってるから」
「もー、もしそういう風になっても、内緒にしててね?」
分かってるって返す七世ちゃんから意識を逸らして、千百合ちゃんのこと、頭に浮かべてみる。恋とか、見た自分に当てはめたことってあんまり無かったな。七世ちゃんほどじゃないけど、自分と関係ないものを想像したり楽しんだりっていうのばかり。
「はー……、わたし、本当に千百合ちゃんのこと、好きなのかな……っ」
好き嫌いで言ったら、絶対に好きのほうに振れるし、この関係が特別じゃないなんてわけがない。わたしのためだけに時間をくれて、その時間が嬉しくてたまらなくて。でも、それを恋と結びつけるには、経験値が足りなさすぎる。
「いっぱい悩んでいいと思うよ、私、先にお風呂行ってくるから」
「うん、……」
七世ちゃんはしょっちゅう談話室に入り浸ってるから、一人で考える時間はいくらでもある。女の子同士は、星花に中等部からいるから今更だし、それは置いといて。……もっと声聴きたいとか、そういうのってそうなのかな。わたしの『好き』は、一方通行のものなのが当たり前だったから。憧れちゃうような人がすぐ側にいて、わたしのしてほしい事もしてくれて、それだけで、夢みたいに幸せで。
恋、か。そういうのみたいな気持ちは何回かあったけど、そのものの感情は、まだ見つけたことがないや。前にときめいたボイスドラマとか、もう一回聴いてみようかな。
「ああいうの、千百合ちゃんに言われたらどう思うのかな」
今思い出しただけでキュンキュンして、ドキドキしちゃう。普段は厳しいのに、疲れて寝ちゃいそうなわたしを肩で支えながら、甘い言葉を囁いてくれて。ドキドキで寝れなくなっちゃってるのに寝たふりをして、その続きを待っちゃってる。
……千百合ちゃんだったら。声だけじゃなくて、そのシチュエーションもちょっと想像できちゃう。いつもより優しい声、ぽすんって受け止めてくれるような感じの。
『……ごめんね、いつも厳しくしすぎて。……つい、期待しすぎちゃうの』
声とか演技のこと、誰よりも本気で考えてるからなのも知ってる。わたしのこと、一番に気にかけてくれてることも。
『私、こんなんでしょ?だから、あなたがまっすぐに慕ってくれるのが嬉しいの』
頭の中の声、そのまま千百合ちゃんの形になって入ってく。こんなこと、言われてみたい。一番好きになった声で。こんなとこ、誰にも聞かれたくないけど。……おかしいな。千百合ちゃんの魅力、みんなに知ってほしいのに。……独り占めしたくなっちゃいたい、なんて。どくんって、体の中、お風呂に入ってもないのに熱くなってくような。