stretta
「じゃあ、また週末帰ってくるね」
「そう、行ってらっしゃい」
スタジオでお母さんのトレーニングに途中まで付き合ってから、また寮に戻る。もう、だいぶ夕暮れが早くなっちゃってるから、明るくなってるうちにってって言われちゃう。お母さんってば、心配性なんだから。
ほんのちょっとくらいは嫌なこともあるけど、週末に実家に帰るのは嬉しかったりもする。千百合ちゃんのお家があんまり練習できるとこじゃないっていうの聞いて、スタジオあるからって誘ったときから。
「どこまでも真面目だなぁ、本当に」
女優さんだし、演劇部とかに入るのも自然かなって思ってたけど、ナレーションとか番組構成とかも学びたいから放送部に入ったって言ってたな。その声に夢中になったのも、見学に来てたときに聞いた声にきゅんってしちゃったのがきっかけだったし。
「はぁ……、今日は我慢できなくなっちゃうかも……っ」
千百合ちゃんと練習した後の日は、いつもこうなる。そうならないように、学校に持ってく音楽プレーヤーとかには、一緒に練習したときの声は入れないようにしてる。入ってても、普段はルームメイトがいるから、そんな好きなようにときめいたりってあんまりできない。周りのこと気にしながらだと夢中になれないし。他のアーティストさんとかだったらまだいいけど、千百合ちゃんの声でとろけてるとこ見られちゃうの、想像しただけで恥ずかしいよ。
「ただいまー」
「あ、おかえり、毎週練習しに戻るなんて、本当に熱心だよね」
「そうかなぁ……、真剣にやりだしたのは高校からなんだけど」
もう帰ってたんだ。七世ちゃんって、いい子なんだけどウワサ話が好きだからなぁ。ぽんぽんと言いふらすとは思うけど、もし見られちゃったら、口止め料にバナナでもごちそうしてあげないといけないかも。帰り支度を済ませながら、なんてことない話に付き合う。
「二組の千百合ちゃんとだよね、凄いよねぇ、もうけっこうドラマとか出てるのに」
「主役張れるくらいになりたいって言ってるよ、千百合ちゃん、ずっと嫌われ役ばかりだからさ」
「そっかぁ……。そういえばそうだったね」
七世ちゃんもお母さんが女優さんだから、千百合ちゃんのことも知っててもおかしくないよね。仕事のときの顔とかも、もしかしたら知ってるかも、なんてらしくないことも考えちゃったり。
「そういえばさ、二人ってデキてるの?」
「うぇっ!?……そういうのじゃないよ、仲はいいけどさ」
「そっか、残念だなぁ」
思ってないとこから降られた話題で、思わず変な声が出ちゃう。むぅってむくれちゃって、……わたし達って、そんなお似合いだったりするのかな。……それにしたってわたし、思ったより動揺しちゃってて。そりゃ、友達だし、憧れだし、声、すっごく好きだけど。
お借りした子
柚原七世さん
主演作品:七夜の星に願いを込めて(https://ncode.syosetu.com/n6633id/)
写真部所属。明るい性格で、恋バナを中心に噂話は話すのも聞くのも好き。食べ物に目がなく、特にバナナが好物。
今回は同じ中等部上がりの桜花生かつ関わりがあることで面白そうな変化がありそうなのでルームメイトになってもらいました