variamente
ドキドキしすぎちゃって寝れなくって、学校じゃないけど寝坊しちゃいそうだった。千百合ちゃんが出てくる番組は朝の九時だから、ちょっと寝過ごすと間に合わなくなっちゃうんだよね。いつものっぽいけど、ちょっと猫を被った声。いろんなカフェとかレストランとかに行ってて、食レポもけっこう出来るのに最初はびっくりしちゃったな。
「よく考えたら、千百合ちゃんって食べるの好きなんだなぁ……」
仕事のときの話してるときも、ご飯の話をしてるときはけっこう嬉しそうな顔してたっけ。レポーターのお仕事もらってロケで行ったとこがおいしくてプライベートでも食べに行ったとか、ドラマの撮影のときも主演の俳優さんがスタッフさんもいれて全員にいいお弁当奢ってくれたとか、クランクアップのときの打ち上げがすごかったとか。演技とかを褒められたって話をしてるときも、あんまりいい顔してないのに。
「そうよ、収録のとき会ったときも一番おいしそうにご飯食べるもの」
「へー、お仕事のときもそうなんだ」
「なんか和むわよね、……あんなにかわいらしいしいい子なのに」
独り言に、お母さんも乗っかってくる。共演したこともあるって言ってたけど、……友達としての姿ばかり見てるから、本人が言ってたこと
この番組だってせいぜい県内くらいにしか届いてないし、観れるとこにいたって観てくれる人も少ない。ちょっとでも知らない自分を見てもらえるのは嬉しいって言ってたけど、なんか、わたしの方が、それに満足できないかも。アニメのときも、主演にならないからその番組のラジオとかもゲストでちょこっと出るくらいだし、普段の顔って、演じてる姿しか知らない人達にはどうしても伝わらない。
「うーん、こういうとこ、あんまり見てもらえないんだよねぇ……」
「あの子って演技の幅が広いのよね、あなたと練習してるとこ見てると、他の役どころもちゃんとできそうなのに」
「そうなの、わたしはすぐ喉疲れちゃうのに、千百合ちゃんって何やっても最初から最後までぴったりはめちゃうの」
「……あの演技でヒットしちゃったから、どうしたってイメージがあれになっちゃうのよねぇ」
そのときのことはあんまり覚えてないけど、見返してみたとき、わたしと同い年で、画面の向こうからでも追いかけられそうなくらい怖くて、本当に千百合ちゃんなのかって思っちゃった。顔が近かったし、声の底の部分はよく聴けば同じだったから分かったけど。
「あれだけじゃないのにね、本当は」
「そうねぇ」
それを知ってもらう方法、ずっと頭の中で思いつこうとしてはムダになっちゃってる。さすがに、普段の練習でやってるアニメの声をそのまま充てるをどこかに流すのは、ルールとかでいけないって言われててもおかしくないし、……わたしがそんなにうまくないから恥ずかしいし。