affettuoso
「そうなのかしらね、……ならいいんだけど」
「わたしも、……変なふうに思われてないかって不安になっちゃうんだ」
「そう?……私も嬉しいと思うわ、慕ってくれる人にそういうふうに思ってもらえてたら」
お互い、探り探りなまま。このまま、答えまでたどり着いても、これじゃあ、きっと何も変わらない。もう一歩で変わりそうなのに、その一歩が果てしなく遠い。
「そうだったら嬉しいな。……ねぇ」
「どうかした?」
「……そのさ、さっき言ってたのって、……うぬぼれじゃないって思っていいかな」
その人って、わたしのことでいい?……そういうには、まだ勇気なんて出てこないや。わたしも、もし同じこと訊かれたら、恥ずかしすぎてうっかり違うって言っちゃいそう。
「ぅ……」
答えは、まだ聞かせてくれなくて、深い吐息だけが聞こえる。顔は、見れそうにないよ。そしたら、わたしの真っ赤になっちゃってる顔も見られちゃうもん。
「響はどうなのさ、……さっき言ってたの、私のことだって、思っていいの?」
「ぇ、えっと……」
「なんか寂しいな、あんな風に言ってた人、もし私じゃない人だったら」
いちばん好きな声だっていうのは隠してなくて、憧れだっていうのも隠してなくて、それなら、わたしの『すき』な人だって、そのまま伝わっちゃってる。だってあんな風に言える人、千百合ちゃん以外にいるわけないじゃん。
「……いじわる、あんな人、千百合ちゃんしかいるわけないのに」
「……ふふっ、そっか、……なら、私も言ってあげないとね」
「千百合ちゃん……?」
声に、一気に花が開く。手を引っ張られて踏み出せた一歩、それだけで、ドキドキが止まらなくなる。
「ねえ、響。……こっち、向いて?」
「うん、……」
ぬくもりと、ドキドキと、言葉に現せないくらいの、わたしに向けた気持ちが伝わってくる声。恥ずかしいままなのに、引き寄せられて、されるがままにされる。でも、引き寄せてくるのは、声だけじゃなくて、体も。優しく抱き寄せてくる。
「……した事ないから、上手くできるか分かんないけど、いい?」
「いいよ、……嫌なわけないもん」
答えておいて、何されるかも想像できない。でも、少し、時間がゆっくりになってく気がする。
同じ高さにある顔が、赤いままはにかんでて引き寄せる手の感触を、さっきより少しきつくなって。ほんのりと、ミルクみたいな甘いかおりがただよって。耳たぶが震えそうなくらいの距離から、普段より優しい声がして。……すき。それだけじゃないのに、それしか頭の中に出てこない。